東大名誉教授・石田雄氏 「戦争に向かった戦前と似ている」-日刊ゲンダイ(2014年7月7日)

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/151621

先月、朝日新聞の「声」欄に、「人殺しを命じられる身を考えて」という投書が載った。末尾には大学名誉教授 石田雄(東京都 91)とある。この投書が話題になったのは、石田氏は戦争の生き証人であるだけでなく、その生涯をかけて、「どうしたら、二度と戦争を繰り返さないか」を研究してきた学者であるからだ。投書した老学者の目に、いまの安倍政権はどう映っているのか。

(声)人殺しを命じられる身を考えて
大学名誉教授 石田雄(東京都 91)

積極的平和主義であれ、集団的自衛権の解釈によってであれ、海外での武器使用を認めることになれば、敵とされた人を殺す任務を果たす兵士が必要となります。旧日本軍の兵士であり、政治学を研究してきた一人として、安倍晋三首相には、こうした人のことを考えて政策決定をしてほしいと思います。

私は、米英帝国主義からアジアを解放する正義の戦争だと思っていた軍国青年でした。しかし学徒出陣を命じられた時、どうしても人を殺す自信が持てませんでした。せめて見えないところで人が死ぬ方がいいと、海軍を志願しました。体が弱くて認められず、陸軍の要塞(ようさい)重砲兵を命じられました。目の前で人を殺さずに済むと安心しましたが、軍隊はそんな生やさしいものではありませんでした。

命令されれば、誰でも、いつでも人を殺すという訓練をするのが軍隊でした。捕虜になった米兵を殺せという命令が出た時でも、従わないと死刑になるという問題に直面しました。

戦争で人を殺した兵士は、ベトナムイラクで戦った米兵を例にとっても、心の問題で悩んでいる人が少なくありません。殺人を命じられる人の身になって、もう一度、憲法9条の意味を考えてみて下さい。

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■もう一度「国のために死ね」と言うのか

――靖国参拝がいい例ですね。

論外です。戦争体験者として、個人的な意見を言わせてもらえば、誰がお国のため、天皇陛下のために死んだものですか。みんな無駄死に、犬死にだったんですよ。歴史学者藤原彰氏の調査によれば、戦死者の6割が餓死だったという。特攻隊だって、どうせ死ぬなら、美しく死のうとしたわけで、誰も喜んで死んだわけじゃない。それを美化し、首相が「尊崇の念を捧げる」などと言うのは「もう一度、国のために死んでくれ」という宣伝だと思う。死んだ人の霊を慰めたいと言うのであれば、それは二度と戦争を起こさないことなのです。