現在に至るまで、最高裁判所が自衛隊を合憲と判断したことはない(南野森九州大学法学部准教授) - Y!ニュース(2014年3月7日)

http://bylines.news.yahoo.co.jp/minaminoshigeru/20140307-00033318/

集団的自衛権の行使容認とそのための「解釈改憲」を主張する産経新聞が、その社説(「主張」)において、過去の日本政府の集団的自衛権に関する答弁を、悪意があるかどうかはともかく、かなり曲解ないし改竄して社論に都合よく紹介していることはすでに批判した(拙稿「岸内閣が集団的自衛権を容認する答弁をしたというのは本当か?」)。そこでとりあげた同紙社説のうち、新しいものは3月1日付けのものであったが、その5日後、今度は同紙のオピニオン欄(「正論」)に、「今一度、集団自衛権論議ただす」と題した論説が掲載された。

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最高裁の砂川判決」は、法廷意見は15人の裁判官の全員一致による判断であったが、田中耕太郎長官を含む10人の裁判官が合計8本の補足意見や意見を執筆しており、全体では4万字を超える非常に長大なものである。ところが、そのなかに「自衛隊」という単語はほんの一度たりとも登場しない。この判決は、自衛隊違憲かどうかを判断したものではないのである。旧安保条約とそれに基づく駐留米軍憲法適合性こそが実質的な争点だったからである(そしてこれらの争点についても、砂川判決は、(1)駐留米軍のような「外国の軍隊」は憲法9条2項にいう「戦力」にはあたらないとし、また、(2)旧安保条約は「主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するもの」であって「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであ」る、としていわゆる「統治行為論」の一種と考えられる立場にたって、「違憲無効であることが一見極めて明白であるとは、到底認められない」とは言うものの、さらに進んで詳細に検討すれば合憲なのか違憲なのかについては判断を避けた)。
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事実に明白に反する主張が、権威ある有識者のものとして新聞に掲載され、そしてそれがネット等を通じて世の中に拡散していく(たとえば、民主党長島昭久議員は、そのツイッターにおいて、この岡崎氏の論説を「最高裁砂川判決に基づいて集団的自衛権行使の正当性を論じたパワフルな正論」と賞賛した)とすると、やはり危惧を覚えざるをえない。安倍首相の政策判断に大きな影響力をもつ人のものであれば、なおさらである。報道機関には、少なくとも正確な事実の伝達に努力することを求めたい。