日本弁護士連合会宛に意見書提出-子どもと法21(2013年9月11日)

今国会に上程予定の少年法の崩壊(検察官関与のみならず刑の重罰化も含む)を導く少年法「改正」案に関して日本弁護士連合会は、反対運動をしてください。

(原文PDF http://www.kodomo-hou21.net/pdf/iken20130911.pdf )

日本弁護士連合会様
 わたしたちは、今国会に上程される予定になっている少年法「改正」に関して、貴会及び貴会子どもの権利委員会宛に反対の意見書を提出してきました。貴会選出の法制審議会委員がこの検察官関与のみならず刑の重罰化も含む「改正」案に賛成したことについても貴会に抗議もしました。
 この「改正」は少年法の崩壊を導く深刻なものです。貴会においては、少年法に関する正式の意見書では検察官関与も重罰化も反対のはずです。今回の「改正」案に賛成することになれば、これまで日弁連の運動を応援してきたわたしたちだけでなく、子どもたちに対する裏切りでもあります。今後上程される「改正」案について貴会において反対運動をしてください。

【理由】
1 わたしたちは、貴会子どもの権利委員会の求めにより全面的付添人実現のための運動に協力してきました。協力を求められた際、検察官関与の拡大等何点か危惧があり貴委員会に対してはその危惧を指摘し、それを回避することを条件に協力してきたのです。
 しかし冒頭に記したとおり、日弁連推薦委員は、法制審において国選付添人拡大とセットにされた検察官関与拡大に賛成票を投じたばかりか、刑罰の重罰化まで賛成してしまったのです。
 法制審という場は誰でもが参加できる場ではなく、選ばれた人たちです。そして日弁連推薦委員は非行をした子どもなど少数派の権利を護るため代表して出る委員なのです。度重なる少年法「改正」に反対し、少年法の刑事裁判化や厳罰化に危惧する市民は日弁連推薦委員に頼るしかないのです。こうしてみると、検察官関与に賛成した今回の事態、これがわたしたちに対する裏切りでなくて何でしょう。


2 日弁連が検察官関与に賛成したのは「国選付添人拡大」のためなのだと解します。「国選付添人拡大」のためにはやむを得ないとした上での判断なのかもしれません。しかし、これは「毒を飲んだ」もので、単に弁護士会の評価が低下するということにとどまらないものです。
 法制審における議事録を読めば読むほど、今回の「国選付添人拡大」は子どもの権利保障の観点から出たものではく、「バランス」論を論拠にして法務省の祈願である検察官関与拡大を意図したものだと理解できます。(多くの市民の反対のため)2000年「改正」で限定されてしまった検察官関与の範囲を、「全面的国選付添」という日弁連の運動を逆手にとって「ここぞ」とばかり取り戻した、これが法務省の本音でしょう。
 「国選付添人が拡大するなら検察官関与の拡大も当然」という法務省のしかけに乗った法案を通過させれば、「少年審判では弁護士と検察官がいるのは当然」という認識を家庭裁判所に広げるばかりか、市民の間に今以上に認識させてしまいます。少年審判は刑事裁判化の一途を辿るばかりです。そして、重罰化の問題はここでいうまでもないでしょう。
 にもかかわらず貴会推薦の委員は、「付添人拡大」のため検察官関与のみならず「重罰化」まで含む案に賛成してしまったのです。世間からみれば、「日弁連が!? 一体何がおこっているのか」という言語道断の事態です。


3 国選付添人拡大といっても今以上に付添人のつくケースが拡大するわけではありません。財源が弁護士会から国費に移るだけで、子どもからみれば国選化によるメリットがあるわけではありません。
 国費による付添人(弁護士に限定するのは問題がありますが)制度の確立は求められるところです。その制度がごく一部でしかないため弁護士会が会員から集めた特別会費で「付添援助」としてカバーしている実情は理解できますし、こうした弁護士会の活動をわたしたちは心から敬服しています。今回の貴会の対応の背後には、この特別会費徴収を維持できないという状況があるとうかがっています。
 しかし、「自由と正義」の実現を目的とし少数者の権利保障を役割とする貴会が、経済的理由にこのような悪法に賛成する。情けないと言わざるを得ません。しかも「改正」した後でも特別会費減額ができるのはせいぜい900円だとうかがいます。
 
4 少数派の人権を擁護する、これこそが弁護士会の使命です。少数派の権利は切り捨ててもよい、少年に不利益なものであっても、国家権力拡大の方向のものであっても、弁護士による国選付添人制度の拡充に賛成する。貴会の現段階の姿勢はこれです。だからこそ、弁護士の方々の反対も少なくないとお聞きします。
 わたしたちはこの間何回も学習会を開催し学びました。ますます反対しなければいけない事態だと確信しています。「改正」案が通った後のことを考えますと、貴会の「すべての子どもに国選付添人を」というキャンペーンがむなしくひびきます。
 「国家」に価値をおき、「公益」の名で個人の人権が大きく制限され得る自民党改憲草案が出ているこの時期に、弁護士会すらこのような悪法に賛成する。このことは大変深刻な状況です。わたしたち市民のショックが大きいのは、ここにあります。


5 しかしまだこの「改正」案が成立したわけではありません。国会の審議がこれから始まります。貴会は「弁護士会である」旨の矜恃を示してください。「改正」案に反対する運動をしてください。それが自身の使命を全うすることですし、市民からの信頼を取り戻す唯一の方法です。


                            子どもの育ちと法制度を考える21世紀市民の会(子どもと法21)