08年5月22日 第169回衆議院本会議

少年法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明と質疑が行われた。(以下概要)
全文はhttp://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm
鳩山法務大臣から以下、少年法の一部を改正する法律案の趣旨説明があった。

少年審判手続において、被害者やその遺族への配慮を充実させることは極めて重要であり、これまでもさまざまな取り組みが行われてきたが、多くの被害者等にとって、その被害から回復して平穏な生活に戻るためには依然としてさまざまな困難があることが指摘されている。このような現状を踏まえ、平成16年には犯罪被害者等のための施策の基本理念等を定めた犯罪被害者等基本法が成立し、これを受けて平成17年に閣議決定された犯罪被害者等基本計画には、法務省において、平成12年に改正された少年法のいわゆる五年後見直しの検討において、少年審判の傍聴の可否を含め、犯 罪被害者等の意見、要望を踏まえた検討を行い、その結論に従った施策を実施することが掲げられている。また、少年法第37条第1項に掲げる成人の刑事事件に、より適切に対処するため、その裁判権家庭裁判所から地方裁判所等に移管することが必要であるとの指摘がかねてからなされている。そこで、この法律案は、犯罪被害者等基本法等を踏まえ、少年審判における犯罪被害者等の権利利益の一層の保護等を図るため、少年法を改正し、所要の法整備を行おうとするものである。」
「法律案の要点は、第1は被害者等による少年審判の傍聴を許すことができる制度を創設する。すなわち、家庭裁判所は、殺人事件等一定の重大事件の被害者等から、審判期日における審判の傍聴の申し出がある場合において、少年の年齢及び心身の状態、事件の性質、審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、その申し出をした者に対し、これを傍聴することを許すことができる。第2は被害者等による記録の閲覧及び謄写の範囲を拡大する。すなわち、少年保護事件の被害者等には、原則として、記録の閲覧または謄写を認めることとするとともに、閲覧または謄写の対象記録の範囲を拡大し、非行事実に係る部分以外の一定の記録についても、その対象とすることとしている。第3は被害者等の申し出による意見の聴取の対象者を拡大し、被害者の心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族または兄弟姉妹をもその対象者とする。第4は成人の刑事事件に関し、少年法第37条第1項に掲げる罪に係る第1審の裁判権家庭裁判所から地方裁判所等に移管するとともに、家庭裁判所が少年保護事件の調査または審判により同項に掲げる事件を発見したときの通知義務について規定した同法第38条を削除する。このほか、所要の規定の整備を行うこととしている。」

以上が質疑と答弁。

小野次郎議員(自由民主党及び公明党を代表)の質疑

1)被害者は、無条件で傍聴を認めてほしいとの要望があるが、今回、傍聴を認めるかどうかを裁判所の裁量にゆだねることとした理由。
2)対象事件を一定の重大事件に絞り込んでいるが限定した理由。
3)被害者による傍聴を認めることにより、加害少年が萎縮して弁解が封じ込められ、誤った事実認定がなされるのではないか、審判廷の広さ等の問題も指摘されている。このような問題に対して、少年法の趣旨を踏まえ、少年が萎縮することなく円滑に審判が行われるよう、どのような工夫を考えているのか。
4)14歳未満のいわゆる触法少年に係る事件もその対象としている。14歳未満の少年については、精神的にも未熟であるため、自分の主張を思いのままに表現できない場合もあると考えられる。こうした懸念にもかかわらず、14歳未満の少年の事件についても傍聴を認めることとした理由。

鳩山法務大臣の答弁

1)について
現行の少年法は審判を非公開。その理由は、裁判所が、少年のプライバシーに関する事項を含め情報を広く収集し、適正な処遇選択を図る必要があるとともに、少年の心情の安定に配慮しつつ、その少年の内面に深く立ち入って教育的な働きかけを行い、内省の深化(反省を深める)を図る必要があると考えられたため。したがって、傍聴を認めるとしても、裁判所による適正な処遇選択や少年の内省の深化を妨げることがないように裁判所がきめ細かくその相当性を判断する 枠組みとしておくべきであるから、今回の法律案において、傍聴を認めるかどうかを裁判所の裁量にゆだねることとした。
2)について
被害者等による傍聴は、犯罪被害者等基本法が基本理念として定める個人の尊厳にふさわし い処遇を実現するものであり、この個人の尊厳の根幹をなす人の生命に害をこうむった場合やこれに準ずる場合に傍聴を認めることとするのが、その趣旨に合致すると考えられる。また、少年審判が非公開とされた趣旨からすると、被害者等による傍聴を非公開の例外として認めるとしても、その対象事件は、何物にもかえがたい家族の生命を奪われた場合など、被害者側の事実を知りたいという審判傍聴の利益が特に大きい場合に限るのが適当。そこで、傍聴の対象事件を殺人 事件等の一定の重大事件に限ることとした。
3)について
少年の状態や被害者等との関係はさまざま。本法律案では、裁判所による適正な処遇選択が困難になったり、少年の内省の深化が妨げられることのないよう、裁判所において、傍聴を認めるか否かについて、少年の年齢や心身の状況等の事情を考慮してきめ細かく判断することとし、必要に応じて被害者等 に退席してもらうこともあり得るものと考えられる。したがって、指摘のような問題が生じるおそれはないと考える。
審判廷は、一般に、刑事事件の法廷と比較して狭いとはいえ、例えば広目の審判廷を使用したり、審判廷の後方で傍聴してもらうなど被害者等の座席位置を工夫することにより、少年と被害者等との間に一定の距離を保つことは 可能、少年と被害者等の間に机などを置くという工夫も考えられる。裁判所において、現在の審判廷においても円滑な審判が行われるよう適切に配慮されるものと考えている。
4)について
被害者等が受けた被害は、少年の年齢によって変わるものではない。被害者等の心情はやはり同様に尊重されるべきものと考えている。触法少年の場合は、その心情の安定への配慮がより必要であるが、裁判所が少年の年齢や心身の状況等を考慮して、きめ細かく、傍聴を認めるか否か判断するので、適切に対応できると考えられる。

加藤公一議員(民主党・無所属クラブを代表)の質疑

犯罪被害者基本法から、犯罪被害者等に対し一定の場合に傍聴を認めることは十分考慮に値する。しかし一方で、少年審判の持つ特殊性にかんがみれば、傍聴を認める要件や態様については格別の配慮が必要。現状の改正案のままでは十分とは言えない。
1)今回の法改正のねらいと位置づけ
少年法は、昭和23年に成立して以来、基本的にその構造を維持したまま現在に至っている。この間、制定時の理念はいささかも変わっていない。この状況を踏まえて、今回、少年審判において一定の要件を満たす場合に、被害者等の傍聴を認めようとする理由はどこにあるのか。これまで被害者等の傍聴を認めてこなかったものを、どのような社会情勢の変化を理由にして、傍聴を認めるべきだと判断をされたのか。
2)非公開原則の意義・・例外を認めることで、その理念が変質するのでは
現行の少年法では、その第22条第2項において少年審判の非公開をうたっている。今回の改正で被害者等の傍聴を認めることになれば、この非公開原則に例外が設けられる形になる。政府はどのような理念に基づいて現在の少年審判が非公開になっていると認識をしているのか。被害者等による少年審判の傍聴を認めることにより、その理念が変化をするということはないのか。
3)少年審判の目的が変質するのでは
現在、少年審判では、非行事実の確認と非行の背景を解明した上で、更生に向けてふさわしい処分を決定している。しかし、被害者等の傍聴を認める本法案によって、少年審判の目的や性質が変化することはないのだろうかという危惧の声がある。また、被害者等が審判の場にいることに よって、審判廷が責任追及の場に変容してしまい、少年の健全な更生が阻害されることはないのだろうか、このように心配する声も上がっている。これらの 意見についての政府の考え。
4)傍聴が認められる要件
本法案では、少年の年齢及び心身の状態、事件の性質、審判の状況その他の事情を考慮して、家庭裁判所が相当と認めるときに傍聴が可能になると規定をしているが、この「相当性」は何を基準に判断するのか。特に、「その他の事情」として考えられるものは何か、加害少年の生い立ちや家庭環境なども含まれるのか。具体的に答弁されたい。
考慮事情として少年の年齢も挙げられている。一口に少年と言っても、ほとんど大人と変わらない者から、小学校に入るか入らないかの幼年児までさまざま。成長途上の子どもにおいては、たった一年の年の違いが、精神、身体の発達において大きな違いとなってあらわれてまいる。その意味で、触法少年の審判に関しては、特に格別の配慮が必要であると考えるがいかがか。
あわせて、心身の状態という考慮事情については、疾病はもちろんのこと、発達段階におけるさまざまな障害の有無についても十分な配慮が求められると考える。この点について、少年の健全な更生、成長の観点からも、また一方で被害者の心情をおもんぱかる立場からも、特に丁寧な対応が必要だと考えるがいかがか。
法務省の統計によると、傍聴の対象となる主な保護事件の新受人員等は1年間の平均で約380名程度。このうち、どの程度の割合で傍聴が認められることになると見込んでこの法案を提出されたの。
精神、身体の発達がいまだ十分でない少年については、少年審判の場面において、みずからの能力だけで適切に対応することが難しいという場合も多く、その意味で付添人の果たす役割は大きい。したがって、被害者等による傍聴がなされる場合であっても、付添人の意見を聞いた上で、少年の健全な更生、成長を阻害するおそれがないと認められる場合に限ってこれを許可すべきではないかと考えるが、いかがか。
5)傍聴における物理的な設備、施設
現在使われております審判廷は、一般の法廷と比べるとはるかに狭い。昨年、私も含め民主党として東京家庭裁判所の審判廷を視察した。現状では、加害少年の位置と傍聴席、仮に法改正が行われたとしたときの傍聴席というのは非常に近く、このままで本当に順調に審判が進められる のだろうかという疑問を持たざるを得なかった。全国には東京よりもさらに狭い審判廷も数多く、平均でも約30平方メートル程度しかそのス ペースがないとの説明を受けている。このような事情を勘案いたしますと、傍聴を許可する場合には、少年と傍聴人との間に通常の裁判と同程度の距離を確保するなど、物理的な施設の整備も必要になると考える。今後どのように施設の整備を行っていくつもりなのか、具体的な計画は。
6)モニター視聴は
審判の状況によっては、被害者に傍聴を認めることが難しいという場合も当然あると思う。被害者等がみずからそれを希望しないというケース も考えられる。そのような場合に、加害少年に事情を伝えた上で被害者等が審判の様子を別室のモニターで視聴する方法もあり得ると考えるが、この方法に ついて政府はどのように評価をしているか。
7)今後の被害者保護施策について
被害者等による少年審判傍聴は、あくまでも犯罪被害者保護の一側面であり、全体としての救済制度はさらなる広がりを持ったものであるべき。犯罪被害者等基本法第3条にあるとおり、国は、犯罪被害者等が受けた被害の回復及び犯罪被害者等の社会復帰を支援する責務を有しており、今後さらに犯罪被害者保護のための施策を充実させていく必要がある。例えば、個々の被害者等が受けたその被害の回復に資する形で、処分決定後、あるいは少年院退院後も含め、被害者等と加害少年との接見、謝罪あるいは和解 のプロセスなどを促進するための施策を講ずる必要もある。また、被害者が一刻も早くその被害から回復をして平穏な生活に戻れるよう、経済的な支援のみならず、心理専門職やあるいは医師などによる精神面でのサポート体制をさらに整備するなど、被害者支援制度の充実は急務である。この点 についての政府の方針は。
8)理不尽にも犯罪の被害に遭われた方々の心情を抜きにして罪を犯した少年の処遇については語れない。その一方で、恵まれない家庭環境やさまざまな障害な ど、本人の力ではどうすることもできない事情も十分に考慮しなければならない。どのような形で犯罪被害者の方々の思いを生かした制度を設計し、また運用していくことができるか、そして、少年の反省を促すとともに健全な成長につなげ、社会に貢献できる人材を育成することができるか、これらの大変大きな課題 の答えを導き出すためには、この国会においても理性的で、なおかつ真摯な議論が求められていると思う。

鳩山法務大臣の答弁

被害者等による少年審判傍聴はあくまでも犯罪被害者保護の一側面であり、全体としての救済制度はさらなる広がりを持ったものであるべきとの見解は全く同感。
1)今回の法改正のねらいと位置づけ
重大事件において、被害者等から、審判におけるやりとり をみずからその場で直接見聞きして、その具体的な状況について十分な情報を得たいという強い要望が示されており、その心情は犯罪被害者等基本法の趣旨等に鑑みて十分に尊重されなければならない。少年審判の傍聴を認めることとしたのは、そういう理由。
2)非公開原則との関係
少年法少年審判を非公開としているのは、少年の健全な育成を期するため。そのためには少年等のプライバシーにかかわる事項を含め広く情報を収集して、 適正な処遇を選択し、裁判所が少年の心情の安定に配慮しつつ教育的な働きかけを行うことによって、その反省の促進、内省の深化を図る必要がある、そういう 理由に基づく。少年の状態や被害者等との関係はさまざまであるし、本法律案でも、裁判所による適正な処遇選択や少年の内省の深化が妨げられることのないよう、裁判所において、傍聴を認めるか否かについて、少年 の年齢や心身の状態等の事情を考慮してきめ細かく判断をすることとしているから(また、必要に応じて被害者等に退席をしてもらうこともできる)非公開にした理念が崩れるものではない。
3)少年法の目的の変化は
上記のように傍聴は審判への支障が生じない範囲で認めるものなので、指摘のような問題が生じることはないと思う。だが、指摘のように、これは十分な注意を払ってやっていかなければならないことと思っている。
4)傍聴が認められる要件
本法律案においては、少年の年齢及び心身の状態等を考慮して、裁判所による適正な処遇選択や少年の内省の深化が妨げられたりすることがなく、審判を適正に行うことができると認められる場合に傍聴を認めることとなる、そういう基準で考えていく。
「その他の事情」とは、少年の年齢や心身の状態といった例示に含まれないような事情をも広く含むもの。少年の生い立ちや家庭環境といった事情も「その他の事情」に含まれ得るものと考えている。
触法少年は、一般的に、精神の発育が十分ではなく、より一層の配慮が必要とされることは御指摘のとおり。本法律案においては、傍聴を認めるか認めないかを判断する際の考慮事情として少年の年齢が挙げられている。そこで特別の配慮はなされていくものと思う。
発達段階におけるさまざまな障害への配慮についても、裁判所においてさまざまな事情に十分配慮した上で適切に判断がなされるものと考えている。しかし、議員指摘されるように、丁寧な対応が必要であると私も考える。
傍聴が見込まれる割合については、どれくらいの被害者等がその申し出をするかについて、現時点で確定的なことを申し上げることはできない。
少年審判においては、職権主義的手続構造がとられているので、家庭裁判所が手続を主宰。傍聴を認めるか認めないかを判断するに当たり、付添人の意見を必ず聞くこととするという制度にはしなかった。付添人の意見を聞くことはあるかもしれない。
5)審判廷の物理的な整備
小野議員への答弁と同。
与野党力を合わせて裁判所の予算に協力をしていただければありがたい。今後の施設の整備については、必要に応じ、裁判所において適切に対応がなされるものと考えている。
6)モニターで視聴
この方法の当否については、法制審議会において、モニターによる傍聴であっても、被害者等から見られているという点では少年に対する影響に大きな違いはないのではないかという指摘がなされ、多くの委員の賛同を得るには至らなかった。モニターで視聴することについては、ある程度慎重でなければいけない。例えば、モニターという機械を使うと、それが失敗して広がってしまう。
7)被害者に対する支援の充実
犯罪の被害に遭われた方やその家族の気持ちを真摯に受けとめて、その保護、支援を図ることは極めて重要。法務省においても、犯罪被害者等基本法及び犯罪被害者等基本計画に基づき、例えば、保護観察所において、犯罪被害者等から被害に関する心情等を聴取し、これを少年院仮退院者を含めた保護観察対象者に伝達する心情等伝達制度を実施するなどの取り組みを進めている。今後も、犯罪被害者等基本計画に基づき、関係府省とも協力しつつ、被害者の方々のための施策のさらなる充実に向けて努力をしていきたい。