新基地「民主主義に大きな傷残す」 研究者131人が声明 - 東京新聞(2019年1月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201901/CK2019012502000131.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0910-36/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201901/CK2019012502000131.html

沖縄県名護(なご)市辺野古(へのこ)の米軍新基地建設を巡り、憲法研究者の有志が二十四日、東京都内で記者会見し、新基地建設は「憲法違反」とする声明を発表した。百三十一人が賛同した声明では、県民が反対の意思を示す新基地建設を政府が強行することは、日本国憲法の重要な原理である民主主義や地方自治などを侵害しており「断じて容認できない」と批判。辺野古沿岸の埋め立て中止を求めた。
賛同者は、名古屋学院大の飯島滋明教授、学習院大の青井未帆教授、早稲田大の水島朝穂教授、名古屋大の本秀紀教授、一橋大の山内敏弘名誉教授ら。
声明では、政府が重要な憲法原理に反した新基地建設を続けることは「日本の立憲民主主義に大きな傷を残す」と指摘した。
在沖米軍や米兵により、県民は耐えがたい苦しみを受けており、憲法で保障された平和的生存権や環境権が著しく侵害、脅かされてきたと訴えた。新基地建設は米軍の機能を一層強化することになり「平和主義とは決して相いれない」とも指摘した。
静岡大の笹沼弘志教授は会見で、新基地建設について「日本国民全体の安全保障を口実に、沖縄県民ばかりに負担をさせており、人権侵害だ。憲法一四条の平等権に反している」と強調した。
これに対し菅義偉(すがよしひで)官房長官は会見で「(当時の)地元の市長と知事の了解をいただき、閣議決定した」と説明。「憲法の中の手続きを取った上で実行に移している」と声明に反論した。 (島袋良太、小椋由紀子)

憲法研究者声明ポイント

辺野古新基地建設に関わる憲法違反の実態および法的問題を社会に提起することが憲法研究者の社会的役割。建設を強行し続ければ、日本の立憲民主主義に大きな傷を残す。こうした事態を容認できず、直ちに中止を求める。

▽沖縄の民意を無視した建設強行は、憲法原理の「民主主義」や「基本的人権の尊重」、「平和主義」、「地方自治」を蹂躙(じゅうりん)。自治体にも「憲法尊重擁護義務」があり、沖縄県が発言するのは当然。

▽沖縄では米軍や米軍人による凶悪犯罪、米軍機の墜落事故などにより「平和的生存権」が侵害され続けている。騒音や基地内からの燃料流出で「環境権」の侵害にも苦しめられている。

▽日本政府は「沖縄の基地負担の軽減」「抑止力の維持」を理由に新基地建設を進めてきたが、新基地は基地機能の強化で、「平和主義」とは相いれない。

「辺野古建設強行は違憲」 憲法研究者131人が中止求め声明 - 沖縄タイムス(2019年1月25日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/376922
https://megalodon.jp/2019-0125-0911-53/https://www.okinawatimes.co.jp:443/articles/-/376922

沖縄県名護市辺野古の新基地建設について、憲法研究者の有志が24日会見し、「安倍政権が沖縄の民意に反して強行しているのは憲法違反」として、辺野古の埋め立て工事の中止を求める声明を発表した。知事選で民意が示されても、工事を強行する安倍政権について、「基本的人権の尊重」と「平和主義」「民主主義」「地方自治」という憲法の原理を侵害し空洞化するとも指摘した。国際基督教大学平和研究所の稲正樹顧問ら5人が衆院議員会館で発表した。

憲法研究者が新基地建設に関する声明を出すのは初めてという。声明では「新基地建設は、憲法9条や安全保障の問題であると同時に、県民の人権問題であり、民主主義や地方自治のあり方が問われている点では国民全体の問題」と強調。政府が工事を続ければ「日本の民主主義に大きな傷を残す。憲法研究者は断じて容認できない」として工事の中止を求めた。
憲法の平和主義をも侵していると主張。「東アジアの平和は米軍の抑止力という軍事的脅威で達成されるものではない。辺野古移設は平和的な外交努力などで平和構築を目指す憲法の精神に逆行する」とした。 
武蔵野美術大学の志田陽子教授は、民主主義のプロセスとして「選挙で国政や地方行政の担当者を選んだから、すべてを委ねたとはなっていない」と説明。県民投票について「憲法の趣旨から最も尊重すべき意思表示の機会であり、最大限尊重されなければならない」と強調した。声明は政府や各政党などに送付される。

声明に賛同した憲法研究者131人(敬称略)は次の通り。

愛敬浩二(名古屋大)、青井未帆(学習院大)、青木宏治(高知大名誉教授)、浅野宜之(関西大)、麻生多聞(鳴門教育大)、足立英觔(大阪電気通信大名誉教授)、飯島滋明(名古屋学院大)、井口秀作(愛媛大)、石川多加子(金沢大)、石川裕一郎(聖学院大)、石塚迅(山梨大)、石村修(専修大名誉教授)、井田洋子(長崎大)、伊藤雅康(札幌学院大)、稲正樹(元国際基督教大)、井端正幸(沖縄国際大)、岩本一郎(北星学園大)植野妙実子(中央大)、植松健一(立命館大)、植村勝慶(国学院大)、右崎正博(獨協大名誉教授)、浦田一郎(一橋大名誉教授)、浦田賢治(早稲田大名誉教授)、榎透(専修大)、榎澤幸広(名古屋学院大)、江原勝行(岩手大)、大内憲昭(関東学院大)、大久保史郎(立命館大名誉教授)、大津浩(明治大)、大野友也(鹿児島大)、大藤紀子(獨協大)、岡田健一郎(高知大)、岡田信弘(北海学園大)、奥野恒久(龍谷大)、小栗実(鹿児島大名誉教授)、小沢隆一(東京慈恵会医科大)、柏粼敏義(東京理科大)、金澤孝(早稲田大)、金子勝(立正大名誉教授)、上脇博之(神戸学院大)、河合正雄(弘前大)、河上暁弘(広島市立大)、川畑博昭(愛知県立大)、菊地洋(岩手大)、北川善英(横浜国立大名誉教授)、木下智史(関西大)、君島東彦(立命館大)、清末愛砂(室蘭工業大)、倉田原志(立命館大)、倉持孝司(南山大)、小竹聡(拓殖大)、小林武(沖縄大)、小林直樹(姫路獨協大)、小松浩(立命館大)、近藤敦(名城大)、齋藤和夫(明星大)、斎藤一久(東京学芸大)、斉藤小百合(恵泉女学園大)、坂田隆介(立命館大)、笹沼弘志(静岡大)、佐藤修一觔(東洋大)、佐藤潤一大阪産業大)、佐藤信行(中央大)、澤野義一(大阪経済法科大)、志田陽子(武蔵野美術大)、清水雅彦(日本体育大)、清水睦(中央大名誉教授)、菅原真(南山大)、妹尾克敏(松山大)、芹沢斉(青山学院大名誉教授)、高作正博(関西大)、佐智美(青山学院大)、高橋利安(広島修道大)、橋洋(愛知学院大教授)、良沙哉(沖縄大)、高良鉄美(琉球大)、竹内俊子(広島修道大名誉教授)、竹森正孝(岐阜大名誉教授)、田島泰彦(元上智大)、多田一路(立命館大)、建石真公子(法政大)、館田晶子(北海学園大)、千國亮介(岩手県立大)、塚田哲之(神戸学院大)、土屋仁美(金沢星稜大)、寺川史朗(龍谷大)、内藤光博(専修大)、長岡徹(関西学院大)、中川律(埼玉大)、中里見博(大阪電気通信大)、中島茂樹(立命館大)、永田秀樹(関西学院大)、中村安菜(日本女子体育大)、長峯信彦(愛知大)、永山茂樹(東海大)、成澤孝人(信州大)、成嶋隆(獨協大)、二瓶由美子(元桜の聖母短期大)、丹羽徹(龍谷大)、根森健(神奈川大)、長谷川憲(工学院大)、畑尻剛(中央大)、茺口晶子(龍谷大)、廣田全男(横浜市立大名誉教授)、福嶋敏明(神戸学院大)、藤井正希(群馬大)、藤澤宏樹(大阪経済大)、藤野美都子(福島県立医科大)、古川純(専修大名誉教授)、前原清隆(元日本福祉大)、松原幸恵(山口大)、水島朝穂(早稲田大)、三宅裕一郎(日本福祉大)、宮地基(明治学院大)、三輪隆(元埼玉大)、村上博(広島修道大)、村田尚紀(関西大)、本秀紀(名古屋大学)、元山健(龍谷大名誉教授)、森英樹(名古屋大名誉教授)、安原陽平(沖縄国際大)、山内敏弘(一橋大名誉教授)、結城洋一郎(小樽商科大名誉教授)、横尾日出雄(中京大)、横田力(都留文科大名誉教授)、吉田栄司(関西大)、吉田善明(明治大名誉教授)、若尾典子(佛教大)、脇田吉隆(神戸学院大)、和田進(神戸大名誉教授)、匿名希望1人。

<辺野古新基地建設の強行に反対する憲法研究者声明> - 琉球新報(2019年1月24日)

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-865823.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0913-56/https://ryukyushimpo.jp:443/news/entry-865823.html

2018年9月30日、沖縄県知事選挙において辺野古新基地建設に反対する沖縄県民の圧倒的な民意が示されたにもかかわらず、現在も安倍政権は辺野古新基地建設を強行している。安倍政権による辺野古新基地建設強行は「基本的人権の尊重」「平和主義」「民主主義」「地方自治」という、日本国憲法の重要な原理を侵害、空洞化するものである。私たち憲法研究者有志一同は、辺野古新基地建設に関わる憲法違反の実態及び法的問題を社会に提起することが憲法研究者の社会的役割であると考え、辺野古新基地建設に反対する声明を出すものである。
辺野古新基地建設問題は、憲法9条や日本の安全保障の問題であると同時に、なによりもまず、沖縄の人々の人権問題である。また、選挙で示された沖縄県民の民意に反して政府が強引に建設を推し進めることができるのか、民主主義や地方自治のあり方が問われているという点においては日本国民全体の問題である。政府が新基地建設をこのまま強行し続ければ、日本の立憲民主主義に大きな傷を残すことになる。こうした事態をわれわれ憲法研究者は断じて容認できない。直ちに辺野古埋立ての中止を求める。

1 「民主主義」「地方自治」を侵害する安倍政権
 沖縄では多くの市民が在沖米軍等による犯罪や軍事訓練、騒音などの環境破壊により、言語に絶する苦しみを味わってきた。だからこそ2014年、2018年の沖縄県知事選挙では、沖縄の市民にとってさらなる基地負担となる「辺野古新基地建設」問題が大きな争点となった。そして辺野古新基地建設に反対の立場を明確にした翁長雄志氏が県知事に大差で当選し、翁長氏の死後、玉城デニー氏もやはり大差で当選した。沖縄の民意は「新基地建設反対」という形で選挙のたびごとに示されてきた。ところが安倍政権はこうした民意を無視し、新基地建設を強行している。こうした安倍政権の対応は日本国憲法の原理たる「民主主義」や「基本的人権の尊重」、「平和主義」、そして「民主主義」を支える「地方自治」を蹂躙する行為である。「外交は国の専属事項」などと発言し、新基地建設問題については沖縄が口をはさむべきではない旨の主張がなされることもある。しかし自治体にも「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)があり、市民の生命や健康、安全を守る責任が課されている以上、市民の生命や健康に大きな影響を及ぼす辺野古新基地建設に対して沖縄県が発言するのは当然である。安倍政権の辺野古新基地建設の強行は、「地方自治」はもちろん、日本の「民主主義」そのものを侵害するものである。

2 沖縄県民が辺野古新基地建設に反対する歴史的背景
 そもそも沖縄の市民がなぜここまで辺野古新基地建設に強く反対するのか、私たちはその事情に深く思いを寄せる必要がある。
 アジア・太平洋戦争末期、沖縄では悲惨な地上戦が行われた。日本の権力者は沖縄の市民に徹底抗戦を命じた。ところがそのような徹底抗戦は、本土決戦を遅らせるための「時間稼ぎ」「捨て石」にすぎなかった。沖縄に派兵された日本の軍隊及び兵士の中には、沖縄の市民から食料を強奪したり、「スパイ」とみなして虐殺したり、「強制集団死」を強要するなどの行為に及んだ者もいた。「鉄の暴風」と言われるアメリカ軍の激しい攻撃や、日本軍の一連の行為により、犠牲となった沖縄の市民は9万4千人以上、実に県民の4人に一人にも及ぶ。アジア・太平洋戦争での日本軍の行動は、沖縄の市民に「軍隊は国民を守らない」という現実を深く印象付けることになった。
 その後、アジア・太平洋戦争終結し、沖縄が米軍に占領された時代でも、「軍隊は国民を守らない」という現実は変わらなかった。朝鮮戦争や冷戦など、悪化する国際情勢の中、日本に新しい基地が必要だと判断した米軍は、いわゆる「銃剣とブルドーザー」により沖縄の市民から土地や田畑を強奪し、家屋を壊して次々と新しい基地を建設した。現在、歴代日本政府が危険だと主張する「普天間基地」も、米軍による土地強奪で建設されたという歴史的経緯を正確に認識する必要がある。さらには米軍統治下でも、度重なる米兵犯罪、事故、環境破壊等により、沖縄の市民は耐えがたい苦痛を受け続けてきた。

3 沖縄における「基本的人権」の侵害
 米軍や米軍人等により、沖縄の市民が耐えがたい苦しみを受けている状況は現在も変わらない。在沖米軍や軍人たちの存在により、憲法で保障されたさまざまな権利、とりわけ「平和的生存権」や「環境権」が著しく侵害、脅かされてきた。

(1)平和的生存権憲法前文等)の侵害
 「平和的生存権」とは、例えば「いかなる戦争及び軍隊によっても自らの生命その他の人権を侵害されない権利」として理解され、豊富な内容を有するものだが、沖縄ではこうした権利が米軍人等による凶悪犯罪、米軍機の墜落事故や部品などの落下事故、住民の生活を顧みない軍事訓練により侵害され、脅かされ続けている。その上、いざ米軍が戦争などをする事態に至れば、沖縄が攻撃対象となる危険性がある。2001年のアメリ同時多発テロの際、沖縄への観光客や修学旅行者は大幅に減少した。こうした事実は、有事となれば沖縄が米軍の戦争に巻き込まれて攻撃対象となると多くの人々が認識していることを示すものである。

(2)「環境権」(憲法13条、25条)の侵害
 次に在沖米軍により、「良好な環境を享受し、これを支配する権利」である「環境権」が侵害されてきた。たとえば米軍の軍事訓練が原因となって生じる「米軍山火事」は1972年の沖縄復帰後から2018年10月末までに620件も存在する。沖縄県の資料によれば、嘉手納基地や普天間基地周辺の騒音は、最大ピークレベルでは飛行機のエンジン近くと同程度、平均ピークレベルでも騒々しい工場内と同程度の騒音とされている。こうした騒音のため、学校での授業にも悪影響が生じるなどの事態も生じている。米軍基地内からの度重なる燃料流出事故の結果、土壌や河川が汚染され、沖縄の市民の生活や健康への悪影響も懸念されている。沖縄にはあらゆる種類の「基地公害」があり、沖縄の市民は「環境権」侵害行為にも苦しめられてきた。

4 「平和主義」の侵害
 歴代日本政府は、「沖縄の基地負担の軽減」「抑止力の維持」を理由に辺野古新基地建設を進めてきた。しかし辺野古に建設が予定されている新基地には、航空機に弾薬を搭載する「弾薬搭載エリア」、航空機専用の燃料を運搬するタンカーが接岸できる「燃料桟橋」、佐世保強襲揚陸艦「ワスプ」などの接岸できる、全長272mの「護岸」など、普天間基地にはない新機能が付与されようとしている。普天間基地には現在、「空飛ぶ棺桶」「未亡人製造機」と言われるほど墜落事故が多い「オスプレイ」が24機配備されているが、辺野古新基地には100機のオスプレイが配備されるとの情報もある。以上のような辺野古新基地の建設は、「沖縄の基地負担の軽減」どころか「基地負担の増大」「基地機能の強化」であり、米軍の「出撃拠点基地」「後方支援基地」「軍事訓練基地」としての機能が一層強化される。辺野古新基地建設は基地機能の強化となるものであり、憲法の基本原理である「平和主義」とは決して相いれない。

5 「辺野古が唯一の選択肢」という安倍政権の主張の欺瞞
 安倍政権は、東アジアにおける抑止力として在沖米軍基地が不可欠と説明する。しかし、沖縄に駐留している海兵隊は今後、大幅に削減されることになっている。しかも第31海兵遠征隊(31MEW)は半年以上も沖縄を留守にする、ほとんど沖縄にいない部隊である。実際に東アジア有事を想定した場合、兵力は少なすぎる。第31海兵遠征隊に組み込まれるオスプレイやヘリコプター運用のための航空基地が必要とされるために普天間から辺野古に移転されるが、第31海兵遠征隊は自己完結性を持たず、長崎県佐世保強襲揚陸艦が沖縄に寄港し、海兵隊を積載して任務にあたる。安倍政権による「辺野古が唯一の選択肢」との主張は欺瞞といわざるを得ない。

6 おわりに
 日本本土の約0.6%しかない沖縄県に全国の米軍専用施設の約70.6%が集中するなど、沖縄には米軍基地の負担が押し付けられてきた。そこで多くの沖縄の市民は、これ以上の基地負担には耐えられないとの思いで辺野古新基地建設に反対してきた。ところが安倍政権は沖縄の民意を無視して基地建設を強行してきた。2018年12月14日には辺野古湾岸部で土砂投入を強行した。ここで埋め立てられているのは辺野古・大浦湾周辺の美しい海、絶滅危惧種262種類を含む5800種類以上の生物だけではない。「基本的人権の尊重」「民主主義」「平和主義」「地方自治」といった、日本国憲法の重要な基本原理も埋め立てられているのである。辺野古新基地建設に反対する人たちに対しては、「普天間の危険性を放置するのか」といった批判が向けられることがある。しかし「普天間基地」の危険性を除去するというのであれば、普天間基地の即時返還を求めれば良いのである。そもそも日本が「主権国家」だというのであれば、外国の軍隊が常時、日本に駐留すること自体が極めて異常な事態であることを認識する必要がある。「平和」や「安全」が重要なことはいうまでもないが、それらは「軍事力」や「基地」では決して守ることができないことを、私たちは悲惨な戦争を通じて歴史的に学んだ。アメリカと朝鮮民主主義人民共和国の最近の関係改善にもみられるように、紛争回避のための真摯な外交努力こそ、平和実現には極めて重要である。日本国憲法の国際協調主義も、武力による威嚇や武力行使などによる紛争解決を放棄し、積極的な外交努力などを通じて国際社会の平和創造に寄与することを日本政府に求めている。東アジアの平和は「抑止力」などという、軍事的脅迫によって達成されるものではない。辺野古新基地建設は、平和的な外交努力などによる平和構築を目指す日本国憲法の精神にも逆行し、むしろ軍事攻撃を呼び込む危険な政治的対応である。私たち憲法研究者有志一同は、平和で安全な日本、自然豊かな日本を子どもや孫などの将来の世代に残すためにも、辺野古新基地建設に対して強く反対する。

以上

==賛同者==
愛敬浩二(名古屋大学
青井未帆(学習院大学
青木宏治(高知大学名誉教授)
浅野宜之(関西大学
麻生多聞(鳴門教育大学
足立英郎(大阪電気通信大学名誉教授)
飯島滋明(名古屋学院大学
井口秀作(愛媛大学
石川多加子(金沢大学)
石川裕一郎(聖学院大学
石塚迅(山梨大学
石村修(専修大学名誉教授)
井田洋子(長崎大学
伊藤雅康(札幌学院大学
稲正樹(元国際基督教大学
井端正幸(沖縄国際大学
岩本一郎(北星学園大学
植野妙実子(中央大学
植松健一(立命館大学
植村勝慶(國學院大學
右崎正博(獨協大学名誉教授)
浦田一郎(一橋大学名誉教授)
浦田賢治(早稲田大学名誉教授)
榎透(専修大学
榎澤幸広(名古屋学院大学
江原勝行(岩手大学
大内憲昭(関東学院大学
大久保史郎(立命館大学名誉教授)
大津浩(明治大学
大野友也(鹿児島大学
大藤紀子(獨協大学
岡田健一郎(高知大学
岡田信弘(北海学園大学
奥野恒久(龍谷大学
小栗実(鹿児島大学名誉教授)
小沢隆一(東京慈恵会医科大学
柏粼敏義(東京理科大学
金澤孝(早稲田大学
金子勝立正大学名誉教授)
上脇博之(神戸学院大学
河合正雄(弘前大学
河上暁弘(広島市立大学
川畑博昭(愛知県立大学
菊地洋(岩手大学
北川善英(横浜国立大学名誉教授)
木下智史(関西大学
君島東彦(立命館大学
清末愛砂(室蘭工業大学
倉田原志(立命館大学
倉持孝司(南山大学
小竹聡(拓殖大学
小林武(沖縄大学
小林直樹(姫路獨協大学
小松浩(立命館大学
近藤敦名城大学
齋藤和夫(明星大学
斎藤一久(東京学芸大学
斉藤小百合(恵泉女学園大学
坂田隆介(立命館大学
笹沼弘志(静岡大学
佐藤修一郎(東洋大学
佐藤潤一(大阪産業大学)
佐藤信行中央大学
澤野義一(大阪経済法科大学)
志田陽子(武蔵野美術大学
清水雅彦(日本体育大学
清水睦(中央大学名誉教授)
菅原真(南山大学)
妹尾克敏(松山大学
芹沢斉(青山学院大学名誉教授)
高作正博(関西大学)
高佐智美(青山学院大学
高橋利安(広島修道大学
高橋洋愛知学院大学教授)
高良沙哉(沖縄大学
高良鉄美(琉球大学
竹内俊子(広島修道大学名誉教授)
竹森正孝(岐阜大学名誉教授)
田島泰彦(元上智大学)
多田一路(立命館大学
建石真公子(法政大学)
館田晶子(北海学園大学
千國亮介(岩手県立大学
塚田哲之(神戸学院大学
土屋仁美(金沢星稜大学
寺川史朗(龍谷大学
内藤光博(専修大学
長岡徹(関西学院大学
中川律(埼玉大学
中里見博大阪電気通信大学
中島茂樹(立命館大学
永田秀樹(関西学院大学
中村安菜(日本女子体育大学
長峯信彦(愛知大学)
永山茂樹(東海大学
成澤孝人(信州大学
成嶋隆(獨協大学
二瓶由美子(元桜の聖母短期大学
丹羽徹(龍谷大学)
根森健(神奈川大学
長谷川 憲(工学院大学
畑尻剛(中央大学
濱口晶子(龍谷大学
廣田全男(横浜市立大学名誉教授)
福嶋敏明(神戸学院大学
藤井正希(群馬大学)
藤澤宏樹(大阪経済大学
藤野美都子(福島県立医科大学
古川純(専修大学名誉教授)
前原清隆(元日本福祉大学
松原幸恵(山口大学
水島朝穂早稲田大学
三宅裕一郎(日本福祉大学)
宮地基(明治学院大学
三輪隆(元埼玉大学
村上博(広島修道大学
村田尚紀(関西大学
本秀紀(名古屋大学
元山健(龍谷大学名誉教授)
森英樹(名古屋大学名誉教授)
安原陽平(沖縄国際大学
山内敏弘(一橋大学名誉教授)
結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)
横尾日出雄(中京大学
横田力(都留文科大学名誉教授)
吉田栄司(関西大学
吉田善明(明治大学名誉教授)
若尾典子(佛教大学
田吉隆(神戸学院大学
和田進(神戸大学名誉教授)
匿名希望1名
2019年1月24日段階131名
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※注:足立英觔、佐藤修一觔の「郎」は旧字体
※注:柏崎敏義の「崎」は、「大」が「立」の下の横棒なし
※注:郄佐智美、郄橋洋、郄良沙哉、の「高」は旧字体
※注:濱口晶子の「濱」は、右側がウカンムリに「眉」の目が「貝」

学者の沖縄声明 憲法違反の指摘は重い - 東京新聞(2019年1月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019012502000167.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0915-15/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019012502000167.html

安倍政権の辺野古新基地建設は憲法違反−。百三十一人の憲法研究者がきのう、連名で声明を発表した。日本国憲法に守られない沖縄は異国なのか。政権は誠実に受け止め工事を再考すべきだろう。
0・6%の県土に在日米軍専用施設の七割が集中する沖縄。基地の存在から派生する事件事故、環境被害は後を絶たない。
そこに新たな基地が建設されることに多くの県民が異を唱えるのは当然だ。だが、知事選および国政選挙で重ねてその民意を示しても政権は一顧だにしない。
埋め立て承認の撤回という知事権限を使って対抗しようとしても、法の解釈をねじ曲げて効力を停止し土砂投入に踏み切る。
政権の対応は、憲法の基本原理である民主主義、基本的人権の尊重、平和主義、そして民主主義を支える地方自治を蹂躙(じゅうりん)する−。
名古屋学院大教授飯島滋明氏、武蔵野美術大教授志田陽子氏らグループの声明は、県民が日ごろ感じていた違憲の実態を整理して世論に訴えた点で評価したい。
百三十一人とは、国内の主な憲法研究者の四分の一前後に当たる人数という。昨年十二月十四日からの土砂投入によって賛同者が一気に増えた。
声明が特に強調するのは、民主主義や地方自治が問われている沖縄の現状は「日本国民全体の問題である」との点だ。新基地建設がこのまま強行されれば「日本の立憲民主主義に傷を残す」との問題提起は広く共有する必要がある。
その上で政権に求めたいのは、最低でも、約一カ月後に迫った辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票まで土砂投入を中止すること。その結果を踏まえ、米軍普天間飛行場の危険性除去と日米安保の在り方について県民のみならず国民との対話に乗り出すことだ。
「(沖縄住民の)自治は神話だ」。米軍統治下、キャラウェイ琉球列島高等弁務官が公言したように沖縄では自治も人権も厳しい抑制が続いた。日本国憲法下で平和や諸権利を取り戻す。復帰運動は沖縄の人たちの切実な願いから始まった。ただ現実は、基地建設を「粛々と進める」と言う菅義偉官房長官について故翁長雄志前知事が「キャラウェイと重なる」と形容するありさまだ。
復帰後五十年近くたっても満足にかなわない沖縄の求めは、私たちみなが重く受け止めるべきだ。
安全保障の名の下に沖縄だけに負担を押しつけていいのか。憲法に立ち返ってもう一度考えたい。

沖縄 全域で県民投票 辺野古賛否 3択案、県議会合意 - 東京新聞(2019年1月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201901/CK2019012502000140.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0921-40/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201901/CK2019012502000140.html

米軍普天間(ふてんま)飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の移設に伴う名護市辺野古(へのこ)の新基地建設賛否を問う二月の県民投票まで一カ月となった二十四日、同県議会の与野党各会派は選択肢を賛否だけの二択から「どちらでもない」を加えた三択に増やす方向で合意した。二十九日に県議会の臨時会で条例改正案が全会一致で可決される見通し。不参加を決めていた五市長も参加の意向を示し、県全域での投票実施が確実になった。

不参加を表明していたのは宜野湾、宮古島、沖縄、うるま、石垣の五市。県政野党の自民党会派代表者は各会派との会議後、「県議会で(三択案が)全会一致で可決されれば、参加すると(五市長から)確認できた」と明らかにした。その上で「さまざまな政治状況も鑑みながら決断した」と説明した。
玉城(たまき)デニー知事は全域実施が確実になったことを受け、新里米吉(しんざとよねきち)県議会議長に電話で「良かった」と話した。新里氏が記者団に明らかにした。
条例改正案は知事が県議会に提案する見通し。
県は、不参加を表明して準備が進んでいない五市の投開票日を二月二十四日から一〜二週間先送りすることも検討している。
昨年十月の県議会では、自民党などが「やむを得ない」「どちらとも言えない」を加えた四択とする条例案を提出したが、否決された。不参加を表明した五市からは二択に対し、不満の声が上がっていた。

県民投票「3択」で全県実施へ 沖縄県議会の与野党、条例改正で合意 - 沖縄タイムス(2019年1月25日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/376984
https://megalodon.jp/2019-0125-0922-45/https://www.okinawatimes.co.jp:443/articles/-/376984

2月24日投開票の沖縄県名護市辺野古の新基地建設の賛否を問う県民投票について、県議会の各派代表者会議が24日、県議会応接室で開かれ、「賛成」「反対」の2択から「どちらでもない」を加えた3択への条例改正案を全会一致で可決することを確認した。不参加を表明する5市長は3択での参加に前向きで、全県での投票実施が確実となった。

5市で実施延期対応も

県は全県での2月24日投開票を目指すが、不参加表明していた5市の事務が間に合わない場合、1週間程度をめどに5市での実施
を延期するなど柔軟に対応する考え。
会議に出席した謝花喜一郎副知事は公舎で待つ玉城デニー知事に報告。知事は25日に条例改正案を提出し、県議会は29日の臨時議会で可決する公算が大きい。
3択案は新里米吉議長が提示。謝花副知事は不参加を表明する5市長に説明した際、沖縄、うるま、宜野湾の3市長から「しっかりやる」、宮古島市長から「分かった」、石垣市長から「議会と相談する」と前向きな回答を得たと報告し、「県議会が全会一致で3択案を可決すれば、全県での投票が実現する見通しだ」と理解を求めた。
与党の社民・社大・結の照屋大河氏は「全会一致なら議論したい」、おきなわの瑞慶覧功氏は「県民投票の会や知事が動いているのでそれなりに対応する」、共産の西銘純恵氏は「全会一致が重要」、無所属の山内末子氏は「全県実施できるなら3択を要望する」と話した。
中立の公明の金城勉氏は「前向きに考える」、維新の大城憲幸氏は「反対しない」との考えを示した。
一方、自民の島袋大氏は「説明がなく、乱暴だ」と反発。1度目の休憩後、「普天間飛行場の移設のための辺野古埋め立てはやむを得ない」「同辺野古埋め立ては反対」「どちらとも言えない」の独自の3択案を提示した。
2度目の休憩で与党と中立の会派は「自民案には乗れない」と確認。その後再開し、自民の照屋守之氏は「私どもの案を取り下げ、議長案を認める」と述べ、全会派がまとまった。

(県民投票 全県実施へ) 与野党の歩み寄り評価 - 沖縄タイムス(2019年1月25日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/376982
https://megalodon.jp/2019-0125-0924-49/https://www.okinawatimes.co.jp:443/articles/-/376982

名護市辺野古の新基地建設の賛否を問う県民投票を巡り、県議会の全会派が、選択肢を賛否の2択から「どちらでもない」を加えた3択とすることで合意した。選択肢が2択であることや、県議会が全会一致でなかったことなどを理由に不参加を表明していた5市長の、参加への条件が整った。県民投票が全県で実施できる見通しとなった。
3択は公明党県本が折衷案として提案。当初2択を固持していた与党内の合意形成に、新里米吉議長が奔走した。玉城デニー知事が全会一致を条件に3択の検討を掲げたことも前進につながった。
各会派の調整は難航し代表者会議は夜までもつれ込んだ。自民党県連が独自の3択案を提案するなど一時決裂の様相も呈したが、最終的に取り下げた。理由について照屋守之会長は「与党が苦渋の選択をし、私どもも苦渋の選択をして全県民が投票できる態勢をつくろうと決断した」と述べている。
全会一致の環境が整ったことから、玉城知事は25日、選択肢を3択とする条例改正案を県議会に提出する。県内の全ての有権者投票権を確保する、という大義に向けた与野党の歩み寄りを評価する。
もともと県民投票条例は、新基地建設の賛否を2択で問う内容でいったん県議会で可決された。議会制民主主義の仕組みをとる社会において、この事実は重い。
それでもなお、与野党が改正案に向けテーブルについた背景には、投票を巡って有権者が分断されることを回避したいという思いがあったのではないか。民主主義の根幹である投票権を守った県議や県の英断を歓迎したい。

    ■    ■

県民投票をはじめとする住民投票は、県や自治体の住民が、特定の事項について直接意思表示するために行われる。立候補者が掲げる複数の政策を比較する選挙と異なり、明確な是非や枠組みを問うことが求められている。
しかし今回の県民投票では5市議会が県民投票予算案を否決。5市長が議会の判断を尊重する形で不参加を表明した。同じ県下で投票できる自治体とできない自治体が生じることとなり、全県実施が危ぶまれていた。
これに対し、県民投票実施について約10万筆の請願署名を集めた「辺野古」県民投票の会代表の元山仁士郎さんが、全県実施を求めハンガーストライキを決行。5市では住民たちが、不参加表明した市長に抗議する集会を次々開くなど反発が広がっていた。

    ■    ■

3択案については5市長も前向きな意向を示している。今後、県や県議会は、不参加を表明した5市の確実な実施の意向確認を急ぐとともに、2択で予算案を可決した36市町村や、元山さんをはじめとする県民への説明を尽くしてほしい。
各市町村は2月24日の投開票日に向け準備を急ぐ。なかでも5市は、投票準備が間に合うかどうかが焦点となる。一部、投開票日を延期する可能性も出ているが確実に実施してほしい。そして有権者である私たち一人一人は自らの意思を表明したい。

県民投票全県実施へ 与野党、3択合意 5市長参加の意向 29日に条例改正 - 琉球新報(2019年1月25日)


https://ryukyushimpo.jp/news/entry-866055.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0928-29/https://ryukyushimpo.jp:443/news/entry-866055.html

辺野古新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う沖縄県民投票の実施を5市長が拒否している問題を巡り、県議会は24日、全会派による「各派代表者会」を開き、現行の賛成、反対の二者択一に「どちらでもない」を加えた3択に条例改正することで合意した。29日に臨時議会が開かれ、全会一致で3択への条例改正案を可決する。県議会の全会一致を受けた5市長の対応について、自民党県連の照屋守之会長は「私どもが決断すれば彼らも県民投票に応じると確約がとれた」と実施に転じることを説明。条例改正を受け全市町村での県民投票実施が確実となった。
午前10時に始まった県議会各派代表者会で、新里米吉県議会議長が「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択への条例修正を与野党に提案し、5市が事務実施を受け入れるよう全会一致で可決する対応を求めた。
議長提案に県政与党3会派と中立の2会派、無所属議員は賛同したが、野党の自民会派は難色を示した。議長提案に対して、自民が「普天間飛行場移設のための辺野古埋め立ては、やむを得ない」などを選択肢とする独自の3択案を主張。与野党協議は紛糾し、調整は夜間に及んだ。
結局、午後9時45分に再開したこの日3回目の各派代表者会で、自民の照屋会長が「私どもの提案を取り下げ、議長提案を認めたい」と述べ、全会一致の運びとなった。照屋会長は記者団に「会派内には異論はあるが、私の強い思いで政治状況を鑑みて決断した」と説明した。
県議会で全会一致の方向となったことを受け、桑江朝千夫沖縄市長は24日夜、本紙の取材に「選管に(投票事務)の準備を指示する」と明言した。また、松川正則宜野湾市長も記者団に「これでノーと言えば仁義に反する」と実施の意向を示した。
県民投票の実施を求める署名を集め、条例制定を請求した「辺野古」県民投票の会の元山仁士郎代表は「私たちの思いを酌んでくれる政治家がいてくれた」と述べ、県議会の全会一致により全市町村で実施されることを歓迎した。
県は36市町村については1カ月後に迫った2月24日の投票日は変更せず、事務準備が遅れている沖縄、宜野湾、うるま、宮古島、石垣の5市については、投票日を1〜2週間延期することも検討する。

評価額715万円が15億円…青森の原野に高額入札の謎 - 朝日新聞(2019年1月24日)

https://www.asahi.com/articles/ASM1P51Q9M1PPTIL02Q.html
http://archive.today/2019.01.25-020036/https://www.asahi.com/articles/ASM1P51Q9M1PPTIL02Q.html


津軽海峡を望む青森県むつ市の4万平方メートルの土地をめぐり、青森地裁で高額入札の競売が繰り返されている。評価額は715万円に過ぎないが、15億円の値がついたこともある。背景を探ると、使用済み核燃料の中間貯蔵施設にからむ思惑が見えてきた。
土地は下北半島にあり、海岸まで約200メートルの平地にある。不動産登記簿などによると、東京都内の会社の所有で、地目は原野。接する道路はない。周囲には牧草地などが広がる。
青森地裁は、土地を担保に金を貸した債権者からの申し立てを受け、2016年8月に競売開始を決めた。地裁が選んだ不動産鑑定士は、土地の評価額を715万4千円とはじいた。
ところが、1回目の競売(17年6月)は5者が参加して評価額の200倍を超える15億円で落札された。2回目(17年11月)は6者の参加で5億100万円、3回目(18年5月)は4者が参加し、徳島県の会社が6億1千万円で落とした。いずれも期限内に落札額が払われなかったとみられ、売却に至らなかった。

外国人労働者 共生の名にふさわしく - 東京新聞(2019年1月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019012502000166.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0930-11/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019012502000166.html

外国人労働者の受け入れを拡大する新制度に絡んで衆参両院で閉会中審査が行われた。政府は総合対策をまとめているが、今春の制度スタートに間に合うか。共生社会の実現はたやすくはない。
新しい在留資格である「特定技能」の創設は、今年四月から始まる。年末に政府がまとめた新制度の運用方針や生活支援策は計百二十六項目にも及ぶ。看板を一口で言えば「共生社会の実現」だ。
例えば都道府県や政令指定都市など約百カ所に一元的相談窓口を設置する、行政サービスの多言語化を推進する−など、日本での暮らしを支援するのが柱だ。
実行に移すとなると大変なことだ。一元的窓口は「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮称)」と呼ぶが、そこでは医療や福祉、教育など外国人のさまざまな相談に応じる。日本人相手であっても難しいテーマなのに、外国人に十分対応できるか疑問だ。
むろん、外国人を受け入れるならば、必ず必要なことである。言いたいのは「人手不足」を金科玉条に準備不足のまま走りだしていないか。結果として、さまざまな混乱を招かないか。社会も外国人も悲劇的になるのを懸念する。
長期間、日本に滞在する労働者である。医療機関や運転免許などさまざまな分野で多言語化が迫られる。外国人が確実に入居できるように住宅情報も提供せねばならない。社会保険などの加入を促進する必要もある。閉会中審査でも山下貴司法相は「自治体との連携を図る」と強調した。
技能実習生の場合、来日までに母国で多額の借金を抱えるケースが目立った。送り出しに悪徳ブローカーが介在したためだ。だから、ブローカー排除のため、技能実習について中国などとは二国間協定を結ぶという。新在留資格の日本語試験をするベトナムなどと政府間文書の作成を目指すとも。当然のことであり、実効性を持たせる仕組みづくりを急ぎたい。
五年間で十四業種で約三十四万人を迎え入れる。だが、人手不足が解消されれば受け入れを停止するという。日本人雇用への悪影響を防ぐためだが、使い捨てにならないか。
むしろ企業側に低賃金で働かせ、その労働力に依存する発想が根付くなら本末転倒だ。
世界的な人材獲得競争の時代だ。日本で自らの技能を磨き、知識を育ててほしい。
それを助けてこそ、日本に人材を呼び込む道だ。

就労外国人 政府側の答弁 やはり自治体に丸投げか - 毎日新聞(2019年1月25日)

https://mainichi.jp/articles/20190125/ddm/005/070/057000c
http://archive.today/2019.01.25-002733/https://mainichi.jp/articles/20190125/ddm/005/070/057000c

外国人労働者の受け入れ拡大が4月に迫っているにもかかわらず、政府の説明は依然具体性を欠き、準備不足の懸念が残る。
昨年末に成立した改正入管法について、衆院参院の法務委員会で閉会中審査が行われた。
注目されたのは、外国人との共生を掲げ政府がまとめた「総合的対応策」についての答弁だ。対応策は、外国人支援策を柱とするもので、医療や生活サービス、社会保障など126項目に及ぶ。
野党側は、そのうち地方自治体が担う施策の数や負担額を聞いた。だが、法務省からは数字を挙げての明確な答弁はなく、山下貴司法相は「自治体側と協議をしながら情報共有を進めたい」と述べるにとどまった。予算措置を伴うだけに自治体側の関心は高い。この答弁では非常に心もとない。
今回、支援策の目玉と政府が位置づけ全国100カ所の自治体に設置を目指すワンストップの相談センターにも懸念が残る。
設置主体は自治体で、政府は交付金による財政支援を行うという制度の仕組みになっている。
だが、設置自治体や時期などは依然、決まっていない。政府はセンターでの多言語対応実現を掲げたが、そのハードルは高い。教育や医療の現場で多言語対応に取り組んできた地方の自治体は、通訳など人材確保の難しさを訴えている。
多くの南米出身の日系人を受け入れた1990年の入管法改正では、政府は日本語教育や住宅支援などほとんどの政策を地方自治体に委ねてきた歴史がある。再び自治体側に対応を丸投げするのではとの疑念は拭えない。
答弁では、「政府が支援する」という言葉が多用された。だが、通訳不足に代表されるような中央と地方の格差が大きい課題は、むしろ政府が主導して解決を図るべきである。
改正入管法の国会審議を巡っては、法務省令に委ねる部分が多い点を踏まえ、大島理森衆院議長が全体像を改めて国会に報告するよう政府・与党に求めた経緯がある。
今回の閉会中審査では説明不足の解消には至らなかった。政府は先送りした課題について早急に具体策を示すべきだ。

改正入管法 迫る施行、深まる不安 - 朝日新聞(2019年1月25日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13863594.html
http://archive.today/2019.01.25-002941/https://www.asahi.com/articles/DA3S13863594.html

外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法の成立を受けて、衆参両院の法務委員会で閉会中審査があった。
法案審議の段階で未定部分が多岐にわたったため、異例の議長裁定を経て開催が決まったものだ。それでも政府の説明はあいまいな内容に終始し、「4月施行」に大きな不安を残した。
法成立後の昨年末、政府は新制度の運用方針や、外国人との共生のための「総合的対応策」をまとめた。関連する政省令の骨子案も公表したが、いまもそれらに対するパブリックコメントを募集している段階だ。
どんな企業ならば外国人を雇えるのか。受け入れにあたって外国人にどの程度の技能を求めるのか。労働者を支援する「登録支援機関」にはどこまでのサポートが義務づけられるのか。こうした肝心な部分が固まっておらず、あちこちから不満や困惑の声があがる。
日本語を磨く機会や教える人材を確保する方策もはっきりしない。自治体には「対応を丸投げされるのでは」との懸念が強いが、今回も政府からこれを払拭(ふっしょく)する説明はなかった。
あきれるほどの準備不足は、政府の描く日程が無理を重ねたものであることを浮き彫りにする。外国人政策に関する定見を持たないまま、現に「技能実習生」の資格で働いている外国人に、在留期限が切れた後も引き続き残ってもらう便法として、強引に新制度をつくった。そう見るのが自然ではないか。
審議では気になるやり取りもあった。外国人が高賃金の都市部に集まってしまう不安があることについて、政府は、状況によっては、受け入れ企業でつくる団体が大都市圏での雇用の自粛を要請すると答えた。
だがその判断基準、実効性とも不明だし、本来は賃金や処遇を改善して対処すべき問題だ。安易な移動の制限は重大な人権侵害になりかねないことを、どう考えているのだろう。
政府・国会が混迷を抜け出せないなか、経済同友会が先日発表した見解は注目に値する。
新制度について、議論不足を指摘したうえで、当初は試験的に運用し、その検証を踏まえて包括的な見直しを検討すべきだと提言。具体的には、外国人政策を担う省庁横断的な組織を設ける▽廃止も視野に技能実習制度を見直す▽家族帯同での来日を認め、子どもの教育にも取り組む――などを求めている。
今回の法改正で置き去りにされたこうした課題に、着実に答えを出してゆく。政府と国会の双方が背負う重大な使命だ。

(放送芸能) 隠されたDVの恐怖 映画「ジュリアン」あす公開 グザビエ・ルグラン監督 - 東京新聞(2019年1月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2019012402000159.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0931-43/www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2019012402000159.html

離婚した両親に翻弄(ほんろう)され、家庭内暴力(DV)におびえる少年を描いたフランス映画「ジュリアン」が二十五日、公開される。グザビエ・ルグラン監督(39)は「テーマはDV。第三者には分かりづらい細部を描くことで、観客に新しい視点を示したかった」と狙いを語る。作中には、日本でも導入が議論されている離婚後の「共同親権」の制度も登場。親権のあり方について考える機会にもなる。 (酒井健
両親が離婚し、母ミリアム(レア・ドリュッケール)らと暮らし始めた十一歳の長男ジュリアン(トーマス・ジオリア)。家庭裁判所は離婚調停で、父母双方に親権を認める「共同親権」と、別れた父アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とジュリアンが隔週末に会うことを決める。
二人が会う場所は、父の実家や屋外。ジュリアンは会うたびに、執拗(しつよう)に母子の住所を聞かれるが、母をかばって答えない。父はいらだちを募らせ、脅迫的な言動をエスカレートさせていく。
「男が権利を利用し、妻を取り戻そうするプロセスを、子どもの視点から描いた」とルグラン監督。直接の暴力だけでなく「嫌がらせや圧力が、相手を追い込んでいく心理的な過程も示した。DVを受けた女性が、報復を恐れる心情も知ってほしい」と訴える。
冒頭に描かれる離婚調停では、自分たちへのDVがあったと主張し、単独親権を求める母親側と、否定する父親側が争う。結果として母親側が負け、共同親権と父子の隔週の面会が認められる。フランスでは「離婚調停の数が多く、子どもの将来を決める重要な判決で、判事は二十分ほどで結論を出さなければいけない」とルグラン監督は説明。「国がもう少し予算を投入すれば、踏み込んだ事実の調査なども行えるのでは」とも望む。
離婚後の単独親権を定めている日本と異なり、フランスでは共同親権が原則。ジュリアンの父も、家裁の決定を盾に、強い態度に出てくる。
ルグラン監督は共同親権について「フランスでも賛否がある」とした上で「子どもは父母の愛情を受けて育つべきだから、基本的には賛成」との立場だ。その上で「夫婦間の暴力も、間接的に子に被害を及ぼす。証拠が残りにくい心理的なハラスメントもある。子の成長に良い結果をもたらすか、ケースごとに考察されるべき問題だ」と考える。
二〇一七年のベネチア国際映画祭で監督賞に輝いた。抑圧され、言葉少ななジュリアンを演じるジオリアは、撮影当時は十四歳。オーディションで抜てきしたルグラン監督は「時には顔いっぱいで、時にはまなざし一つで内面を表現してくれた」と絶賛する。「(第三者には)隠されたDVの細部を描いた。理解を深めてほしい」と願う。

(大弦小弦) 港に停泊中の米軍艦船へ忍び込み、干してある毛布を… - 沖縄タイムス(2019年1月25日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/376983
https://megalodon.jp/2019-0125-0932-53/https://www.okinawatimes.co.jp:443/articles/-/376983

港に停泊中の米軍艦船へ忍び込み、干してある毛布をかっぱらい、体に巻いて泳いで来た若者は自慢げに言った。「3枚だと重くて沈むが、2枚なら平気」

▼監視の目をかいくぐり、物資置き場の米俵を担いで川を渡り、帰還した少年は「8人家族、しばらくは飢えをしのげた」と言い、サンゴのかけらで米俵に穴を開けて抜き取るご婦人も多くいたと懐かしむ

▼「庶民がつづる沖縄戦後生活史」(1998年、沖縄タイムス社刊)には、戦後間もない貧しい頃、米軍基地内から物資を奪う「戦果アギヤー」の体験談が誇らしく、時にはユーモラスに明かされている

▼あの時代、程度の差こそあれ、誰しもが生きるために「戦果」を渇望し、「アギヤー」は欠くべからざる存在だった。そんなウチナーンチュの原体験を元にした小説「宝島」が直木賞に選ばれた

▼厳密に言えば「戦果アギヤー」はれっきとした泥棒。それを作者の真藤順丈さん(41)は「戦争や時代に奪われたものを自らの手に奪い返す」という人々の尊厳を懸けた行為と捉えた

▼ウチナーにとって奪われたものとは何か。土地であり、幸せな暮らしであり、かけがえのない命だった。それらを取り戻し、守りたいという一途な思いは、辺野古埋め立てを巡る歴史に連なり、現代の戦果アギヤーとしての相克に思えてくる。(西江昭吾)

メトロ銀座駅 戦時下の「記憶」 空襲の補修跡、工事で露出 - 東京新聞(2019年1月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019012502000118.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0916-53/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019012502000118.html

空襲の補修跡(左側)が露出した東京メトロ銀座線の銀座駅。赤茶色の鉄骨が数本壁に埋め込まれ、上部に横向きの太い鉄骨が見える=24日、東京都中央区

東京メトロ銀座線の銀座駅(東京都中央区)のホーム壁面が駅改良工事のため化粧パネルが外され、74年前の銀座空襲の痕跡が露出している。
銀座線は戦前から営業していた都内唯一の地下鉄。都心部に初めて甚大な被害をもたらした1945年1月27日の「銀座空襲」では、銀座駅にも爆弾が落ち、天井部分に大きな穴があいた。現在の銀座線ホームの浅草方面行き側の新橋寄りだ。
ホームから壁を見ると、爆弾落下地点とされる壁だけは他の部分と明らかに形状が異なっている。ホームには等間隔に壁から天井までつながったアーチ状の鉄骨の梁(はり)が並んでいるが、ここだけはアーチがなく、代わりに壁に赤茶色の鉄骨と、それらをつなぐ横向きの鉄骨が埋め込まれている。さらに他の壁はくぼんでいるが、ここだけが出っ張っている。
東京メトロの広報部は「空襲を受けたのは確かだが、正確な補修工事の記録が残っていない」と断言を避けるが、昨年12月に同人誌「戦ふ交通営団 戦時下の地下鉄」を発表した都市交通史研究家の枝久保達也さん(36)は「今までも不自然な形をしていたが、壁が露出したことで、どういう補修をしたのかはっきりわかった」と話す。執筆するために多くの文献をあたった枝久保さんは、鉄の入手が困難な中、ふぞろいな鉄骨とコンクリートで壁を補強し、新たな梁を架けて天井をつけたと推測する。
東京メトロによると来年3〜5月に壁は再び覆われる予定。枝久保さんは「戦争中も地下鉄は走っていて、復旧させようと当時の人が努力した“記憶”がここにある」と見える形で後世に伝えることを希望している。 (宮崎美紀子)

戦争の記憶どう継承? 来月3日、遺構など題材に茨大でシンポ:茨城 - 東京新聞(2019年1月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201901/CK2019012502000153.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0918-28/www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201901/CK2019012502000153.html

北茨城市に残る特攻艇「震洋」の格納庫の跡。倒壊の恐れがあるとしてふさがれており、内部を見ることはできなくなっている=昨年4月撮影(茨城大提供)

県内に数多く残る戦争遺構と記憶の継承について考えるシンポジウムが二月三日、水戸市の茨城大水戸キャンパスで開かれる。終戦から七十三年以上がたち、体験に基づいて戦争の悲惨さを語ることのできる人が年々減っている中、企画した人文社会科学部の佐々木啓准教授(40)=日本近現代史=は「特に若い世代に関心を持ってほしい」と話している。 (越田普之)
佐々木准教授によると、本県は海に面して平地も多い地理的な特性から、飛行場を中心にさまざまな軍事施設が立地していた。戦争体験者が少なくなる今後、負の歴史を今に伝える遺構の重要性が増していくと考えたという。
シンポの個別報告では、米国本土を狙った「風船爆弾」や特攻艇「震洋」の拠点があった北茨城市について研究している郷土史家の丹賢一さんと、笠間市で筑波海軍航空隊司令部庁舎の保存・活用に尽力してきた金沢大介さんが、それぞれの取り組みを紹介する。
戦時下には多くの朝鮮人が県内の鉱山などに動員されていた。犠牲者の慰霊活動に携わっている張泳祚(チャンヨンジョ)さんも招かれ、こうした歴史を解説する。
また、県内には、軍人らを慰霊するため、戦後に建立された忠魂碑などが数多くある。貴重な史料だとして、佐々木准教授のゼミでは県内四百カ所の石碑を調査しており、学生が分析結果を披露する。
佐々木准教授は「遺構は軍事施設に注目が集まりがちだが、それ以外にも見落としてはいけないものがある」と指摘する。
シンポは午後零時半から午後五時まで。会場はキャンパス内の人文社会科学部講義棟十番教室。入場は無料で申し込みは不要。

子どもの貧困 支援つなぐ 県がネットワーク設立:埼玉 - 東京新聞(2019年1月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201901/CK2019012502000150.html
https://megalodon.jp/2019-0125-0920-19/www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201901/CK2019012502000150.html

七人に一人の子どもが貧困状態とされる中、県が、貧困対策に取り組む団体や個人の連携を進めるための「こども応援ネットワーク埼玉」を立ち上げた。県内のNPOや市民団体、企業、自治体などが幅広く参加。情報共有や登録者間のマッチングを通じて、一人一人の「何かできないか」という思いを形にしようとしている。 (井上峻輔)

■シニアの活躍 NPOなど「思い」形に
加須市の空き店舗には、食料品が入った段ボールがずらりと並んでいた。パスタ麺、切りもち、ジュース…。次々に訪れる親子連れが、気に入ったものを袋に入れていく。
十八日夜に地元の市民グループこども食堂応援隊」が企画した無料の食料配布会。対象は、事前に申し込んだ三十一世帯のひとり親家庭だ。食料は、まだ食べられるのに賞味期限が近いなどで廃棄対象になった品。地元の農家から提供された米や果物も用意した。
「こんなにもらえると思わなかった。キャリーバッグがいっぱいになっちゃって」。小学五年の男の子を連れた女性(44)が笑顔を見せた。母子家庭で、パートで生計を立てている。時給制のため、子どもが熱を出すなどして仕事を休むとすぐに家計は圧迫される。「こういう場所が近くにあるとすごくありがたい」
応援隊事務局長の鈴木一男さん(66)は「喜んでもらえるとうれしいね」とほっとした表情。元銀行員で「今まで『子どもの貧困』なんて全く興味がなかった」。きっかけは昨年六月に県がシニア向けに開いた勉強会だ。「衝撃を受けた。七人に一人が貧困状態だなんて全然知らなかった」
すぐに仲間を募って「応援隊」を結成。安全に食べられるのに廃棄される予定の食品を集めているフードバンクから食料の提供を受けることを決め、配布会の準備を進めてきた。今後も二カ月に一度の開催を決めている。

■マッチング 登録100超の強み生かす
鈴木さんが参加した勉強会を主催し、八潮市に倉庫を持つフードバンクを紹介したのは、県福祉部企画幹の内田貴之さん(47)だ。「シニアのパワーを活用したかった。こんなに早く形になるとは」
厚生労働省の調査によると、二〇一五年の子どもの貧困率(所得が標準的世帯の半分以下の世帯で暮らす十八歳未満の割合)は13・9%で、七人に一人が貧困状態とされる。県は本年度から子どもの貧困対策を本格化。その一環として昨年末に立ち上げたのが「こども応援ネットワーク埼玉」だ。県が主体となって、こうした連携を呼び掛けるのは全国的にも珍しい。
既に、子どもの居場所づくりや学習支援に取り組む百以上の団体や個人が登録した。これらの会員が、それぞれの強みを生かしながら、連携していくことを狙いにしている。
例えば、近年広く浸透してきた「子ども食堂」。「県こども食堂ネットワーク」代表の野口和幸さん(51)は「県内でも百二十三カ所に増えたが、活動を維持できずにやめていくケースも多い」と語る。ネックになるのは食料、担い手、活動場所の三つの確保だという。
「この物件を子どもの居場所として活用してほしい」「冷凍食品五百食が余っているので今日中にどこかでもらってくれないか」。内田さんの元には、そんな相談が連日寄せられる。これらを各団体につなげるのも役割の一つだ。

■企業の取り組み コンビニで子ども食堂
企業の動きも活発化している。大手コンビニ「ファミリーマート」は県と連携して十九日、富士見市の店舗でイートインスペースを使った「ファミマ子ども食堂」を開催。地元の小学校に通う子どもが集まった。
店員と同じ制服を着て、店舗のバックヤードへ。ペットボトルを店頭に並べたり、商品にラベルを貼ったりする作業を体験。最後はコンビニの弁当やチキン、デザートを皆で食べた。
昨年末から県内で試行的に実施していて、今回が三店舗目。同社の高田俊明CSR・総務部長は「地域に根差した事業展開をする自分たちにも何かできないかと考えた」と語る。
子ども食堂とは言え、内容は職業体験の側面が強いため、気軽に参加しやすい。今回集まった子どもたちも「ファミマの裏側が見たい」といった申し込み理由が多かった。今後は、他県にも活動を広げていく考えだという。
そんなファミマ子ども食堂の様子は、こども応援ネットの会員制交流サイト(SNS)にすぐにアップされた。「埼玉県では『企業版子ども食堂』の設置運営を応援しています。関心のある企業の社長さんは御連絡ください」というメッセージも添えられた。
内田さんは言う。「子どものために何かをしようという仲間を増やしていきたい。子どもを中心に地域が盛り上がればコミュニティー再生にもつながるから」

こども応援ネットへの申し込みや問い合わせは、県福祉部の事務局=電048(830)3204=へ。ホームページでも受け付けている。