木村草太の憲法の新手(95)校則問題(上) 下着の色は教育と無関係 - 沖縄タイムス(2019年1月6日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/367997
https://megalodon.jp/2019-0106-1400-11/https://www.okinawatimes.co.jp:443/articles/-/367997

大阪府立懐風館高校で、髪の黒染めを厳しく指導された生徒が不登校になり、府を訴えた。この報道以来、校則問題に注目が集まっている。

まず、日本国憲法の下では、児童・生徒を含め、個人は自由であるのが原則で、それを制限するには、法的根拠が必要だ。しかし、「児童・生徒は校則に従わなくてはならない」と定めた法律はない。つまり、法的には「校則そのもの」は、自由制約を正当化する根拠とはならない。
もっとも、学校は、教育機関として、在籍児童・生徒に教育に必要な指示や要求を出せる。また、学校教育法11条は、教育上必要がある場合に、児童・生徒らの懲戒処分を行うことを認める。加えて、学校の運営者は、建物や校庭など施設の管理権を持つ。
このため、学校は、「校内喫煙の場合、一回目は訓告、二回目は退学」、「敷地内へのバイク進入禁止」等、法的権限を行使する基準を定めることができる。こうした法的権限の行使基準が、「校則」と呼ばれることもある。法的権限の行使基準は、児童・生徒を縛るものではなく、学校の権限行使に枠をはめるものと理解すべきだろう。
では、この法的権限の行使基準の内容が、教育上不要・不合理な場合には、その基準に基づく指導や処分は適法と言えるのだろうか。
この点、過去に、「自動車免許を無断で取得した学生に退学勧告を出す」と定めた校則に基づく措置の適法性が、最高裁まで争われたことがある(修徳高校事件)。
免許取得は法令で18歳以上に認められており、単なる免許取得を理由に退学させるのは厳しすぎるだろう。そこで、最高裁は、「校則の規定だけで、退学勧告は正当化される」とは述べなかった。ただ、問題の退学勧告は、日ごろの非行の積み重ねの結果として正当化できる、とした。
つまり、指導や処分の基準となる校則が定められていても、「校則に即していれば直ちに処分等が適法とされる」というわけではない。校則の内容が法の趣旨に反する場合には、校則に基づく処分であっても違法とされる。
他方で、学校の法的権限行使と無関係な校則には、法的効果はない。それは、「学校からのお知らせ」や「校長先生のポエム」にすぎない。例えば、下着の色は教育と無関係だから、学校に指導権限はない。よって、下着の色を指定する校則があっても、法的には、生徒はそれを無視できるし、指導の呼び出しに応じる義務もない。教員が下着の色を強制的に確認すれば、強要罪にもなり得よう。
この点、公立中学の丸刈り校則の適法性が争われた熊本地裁判決では、「唯一人の校則違反者である原告に対しても処分はもとより直接の指導すら行われていない」という運用を根拠に、丸刈り指導自体は適法とした。
私には、丸刈りを生徒に求める合理的理由がわからず、そもそもそのような要求をやめるべきだと思う。しかし判決は、丸刈りを強制すれば違法だが、法的効果のない「丸刈り推奨」(いわば、丸刈りポエム)は止める理由もない、と考えたのだろう。
このように、校則それ自体からは、法的効果は発生しない。次回は、これを前提に、校則の今後を考えたい。(首都大学東京教授、憲法学者

平成と原発 神話崩壊、廃炉の時代 - 東京新聞(2019年1月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019010602000146.html
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昭和の高度経済成長の推進力にはなりました。しかし今や原発は、何をするにも莫大(ばくだい)な費用がかかる負の遺産。神話の創生、そして崩壊、次の時代は−。
「神話」は、昭和に始まりました。一九五五年の日米原子力研究協定仮調印からまもなく始まった「原子力平和利用博覧会」。東京を皮切りに全国十一カ所を巡回し、五番目の開催地が広島でした。

◆免罪符のようなもの
米ソ冷戦構造下、原子力技術の一部を提供し、日本を核の傘の下に置きたい米国の強い意向があっての開催でした。
史上初の被爆地、しかも会場は広島平和記念資料館。たとえ二十二日間とはいえ、核兵器の惨状を伝えるべき通常の展示物を、別の場所に移して平和利用をうたうのです。米国にしてみれば、免罪符のようなものでもありました。原子力イコール原爆のイメージをぬぐい去ろうとしたのです。
焼き尽くされた廃虚の記憶の中に、一筋の光明を探そうとしたのでしょうか。会期中、通常の一年分に当たる十一万人が入場し、実物大の原子炉や原子力飛行機の模型の展示、放射性物質を取り扱うマジックハンドのデモンストレーションなど、原子の力が切り開く夢の未来にまどろみました。
世界遺産原爆ドームも、本体を電球で飾り立てられて、平和利用の夢を彩る“展示品”の一つにされたのでした。
原水爆禁止運動に生涯を捧(ささ)げた哲学者の故森滝市郎さんさえも「軍事利用はいけないが、平和利用だったらいいのじゃないか、と考えたのです」(「人類は生きねばならない−私の被爆体験から」)と、一時は評価に傾きました。
五七年には茨城県東海村の実験炉に初の原子の火がともり、十年後には福島第一原発の建設が始まった。

◆夢はずっと夢のまま
こうして被爆国日本は五十四基の原子炉を有する世界三位の原発大国になったのです。ところが、しょせん夢は夢。原子力の飛行機も鉄道も、超小型原子炉で十万馬力の鉄腕アトムも、使えば使うほど燃料を増やす夢の原子炉も、実現を見ることはありますまい。
核兵器の実相を糊塗(こと)するために陳列された空虚な夢は、安全神話、経済神話、クリーン神話−三つの神話の温床にはなりました。
二〇一一年三月十一日−。ゾンビのようによみがえる神話の終わりは平成でした。
福島第一原発事故が崩壊させたのは、「安全神話」だけではありません。事故処理にかかる費用は最低二十一兆円。恐らくさらに増えるでしょう。結局は国民負担。これ一つとってもすでに、「経済神話」は粉々です。約二十年探し続けても、高レベル放射性廃棄物の受け入れ先は見つからない。たとえ見つかったとしても、十万年に及ぶといわれる厳重管理に、どれだけ費用がかかるやら。
安全対策にかかるコストは膨らみ、新増設どころではありません。現在、二十三基が廃炉を決定、または検討中。平成は「大廃炉時代」の幕開けにもなりました。廃炉にもまた、長い歳月と膨大な費用が必要です。
一五年、温暖化防止の新ルール、パリ協定の採択を受けて、化石燃料から再生可能エネルギーへ、宇宙船地球号のエンジンの付け替えが始まったのも平成です。
ドイツの「脱原発」だけではありません。世界第二の原発大国フランスも、原発依存度を減らすため、三〇年までに陸上風力発電を三倍、太陽光発電を五倍に拡大、洋上風力の増設も具体化が進んでいます。高速炉計画は凍結です。英国の原発新設計画も、コスト高のため暗礁に乗り上げました。
福島の惨禍を見れば、原発二酸化炭素(CO2)を出さないクリーンなエネルギーという「クリーン神話」もとうの昔に絵空事。温暖化対策を持ち出して小型原発の開発に向かうという日本は、国際的にはかなり異質な国なのです。
世界で唯一、それも、第五福竜丸事件を含め三度の原水爆禍を背負う国、世界最悪級の原発事故と今現に向き合う国、その国の政府が、なぜここまで原発にこだわりを持つのでしょうか。
「去年の夏の異常な暑さも乗り切りました。省エネも進み、九州では太陽光の電力が余っています。原発へのこだわりは、電力のためだけではないのかもしれません。もしや軍事利用の可能性とか…」。東北大教授(環境科学)の明日香寿川さんは首をかしげます。

◆わかっちゃいるけど…
 いずれにしても、「わかっちゃいるけどやめられない」では、それこそ「無責任」。可能な限り次の時代に負担を残さぬよう、私たちは今年もこの「なぜ」を、突き詰めていかねばなりません。

原子力発電、採算合わず“儲からないビジネス”に…欧米メーカーはすでに撤退、世界の潮流 「加谷珪一の知っとくエコノミー論」 - Business Journal(2019年1月6日)

https://biz-journal.jp/2019/01/post_26101.html

アベノミクスの目玉政策の一つだった原発の輸出ビジネスが岐路に立たされている。三菱重工業がトルコの原発建設計画を断念する方針を固めたほか、日立製作所も英国で進めている原発プロジェクトの見直しを決定している。日本の高度な原発技術を世界に輸出するという一連のプロジェクトは、ほぼすべて頓挫するという状況になってきた。
トルコに対しては外交的にも特別扱い
三菱重工は、政府と一体になって進めていたトルコの原子力発電所の建設計画を断念する方針を固めた。最大の理由は、コストが想定の2倍に膨れ上がり、採算が取れない可能性が高まってきたからである。
トルコへの原発輸出は、安倍晋三首相とトルコのエルドアン首相(現大統領)が親しい関係にあることから浮上した国策プロジェクトである。三菱重工を中心とした企業連合が、黒海沿岸に原発4基(総出力約450万キロワット)を建設する計画が立案された。
トルコに対しては外交的にも特別待遇が実施された。政府は2013年5月にトルコと原子力協定を結んだが、これはトルコに対して原子力発電所の関連資材や技術を輸出するためのものである。この交渉は原発の受注とセットで進められたが、締結された文書には、日本が書面で同意すれば、輸出した核物質について再処理できるという文言まで入っていた。日本が同意すればという条件付きではあるが、場合によっては核兵器への転用を可能にする内容だったことから、野党はもちろん与党内からも慎重な対応を求める意見が出たものの、成長戦略優先という雰囲気のなか、こうした声は顧みられなかった。
最近では話題になることも減ったが、この協定は一昔前なら大問題となっていた可能性が高い。なぜなら使用済核燃料の再処理を認めるかどうかは、米国の核戦略とダイレクトに関係するテーマだからである。
米国が中心となって策定した核不拡散条約は、米国、英国、ロシア、フランス、中国を核保有国として定義し、それ以外の国への核兵器の拡散を防止するという内容である。第2次世界大戦の戦勝国を中心とした一方的な条約ではあるが、これが戦後の国際秩序の根幹となってきたのは事実である。北朝鮮が各国から制裁を受けるのは、この枠組みに北朝鮮が反発していることが原因である。
採算がまったく合わないという事態に
当然のことながら日本は核保有国ではないが、原発に関する高い技術を持っており、使用済核燃料を自力で再処理する能力がある。核燃料を再処理できれば、兵器への転用が可能なプルトニウムを抽出できるので、国際社会は日本について核保有国になるポテンシャルを持つ国と認識している。
核不拡散という基本方針に反する状況であるにもかかわらず、日本が核燃料の再処理を実施できるのは、日本と米国の間に強固な同盟関係が成立しているからである。つまり日本は米国から見れば特別扱いの国であり、日本の原子力技術というのは、日米安保に支えられたデリケートな存在ということになる。
米国とは必ずしも友好的ではないトルコに対して、核兵器への転用を事実上、認める協定を結ぶことは、思わぬ政治的、軍事的リスクを招く可能性がある。現時点において大きな問題が発生していないとしても、わざわざ積極的に協定を締結するメリットは少ない。
だが安倍政権は、トルコへの原発輸出を最優先し、こうした微妙な協定を結んでしまった。原発推進脱原発かという議論以前の問題として、慎重な意見が出てくるのも無理はないだろう。
これだけのリスクを背負って進めたトルコへの原発輸出だが、結局はコスト的に合わないという理由で断念する結果となった。三菱重工と同様、日立も英国への原発輸出を計画しているが、こちらも撤退するかどうかの瀬戸際に立たされている。理由はトルコと同じく採算性である。
では、なぜ日本の原発メーカーは、ここにきて、採算が合わないという事態に直面しているのだろうか。理由は2つあると考えられる。
シーメンスやGEなどは事実上、原発からは撤退している
ひとつは原発のコスト上昇である。一般的には、福島第1原発の事故が発生したことから、安全基準が高くなり、コストが増加したと理解されている。だがライフサイクル・コストまで考えた場合、原発はそもそも割高であるという話は、福島の事故以前から業界ではかなり議論されていた。
欧州の総合メーカーである独シーメンスは2011年に原発から撤退。米ゼネラル・エレクトリック(GE)本体も原発からはほぼ手を引いている。GEは沸騰水型原発BWR)の技術を開発した原発メーカーの雄であり、東芝や日立といった日本メーカーはGEからの技術導入で原発事業に参入した。原発の本家本元の企業が手を引いているという現実を考えると、ビジネスとして成立させるのは難しい状況になったと考えるのが自然だろう。
こうした環境の変化は、原発を発注する側にも顕著にあらわれている。
かつて原発を建設する場合、基本的に電力会社が発注を行い、原発メーカーはそこに原子炉を納入するだけであった。製造するまでがメーカーの責任であり、その後の運用はあくまで発注者である電力会社がリスクを負う。
しかしトルコや英国の案件は、原発メーカー(もしくはメーカーが関与した事業体)が発電所の建設だけでなく、その後の運用まで引き受けるという形式で、トルコや英国は、発電した電力を買い取ることで対価を支払う。つまり発注側であるトルコや英国は、電力に対して対価を支払うだけで、原発そのものが抱える各種のリスクを負わない仕組みとなっているのだ。
このように発注側に圧倒的に有利なスキームが成立しているのは、原発が儲からないビジネスになったという現実を如実にあらわしている。さらに都合が悪いことに、こうした不利なスキームに対しても、戦略的な価格で応札する国が存在しており、日本はそうした国々と競争せざるを得なくなっている。不利な条件でも安値で応札する国というのは、具体的にいえばロシアと中国である。
日本は採算度外視のロシアや中国とのガチンコ勝負に
先ほども説明したように、発電用の原子力開発と核兵器の開発を分けて考えることは、物理的、工学的にも、また政治的にも不可能である。軍用と民間用を意図的に完全分離し、再処理すら行わないという米国を除いては、何らかのかたちで核開発との関係性が生じてしまうというのが原子力産業の宿命である。
ロシアや中国は、原子力産業が持つこうした特質をむしろ積極的に利用し、兵器開発とセットで原発の開発を進めてきた。特に中国の場合、各国に覇権を拡大したいとの野心があり、破格の値段で原子力発電のプロジェクトを請け負っている。
ビジネスベースで原子力に取り組む先進国の企業はほとんど原発から撤退しており、日本メーカーだけが、こうした採算度外視の新興国メーカーと争う図式になっている。一般的に考えて、こうした市場環境において価格面で日本メーカーに勝ち目はない。トルコや英国は、中国やロシアが提示する価格をベースに買い取りを検討するので、日本側と2倍のズレが生じても不思議ではないだろう。
原子力をとりまく環境が悪化していることは以前から何度も報道されていたし、誰よりも原発メーカー自身がよく理解していたはずだ。十分な検証をせずに「日本の技術を世界に」といった精神論で一連のプロジェクトを進めてしまったのだとすると、今回の結果は必然ということになるだろう。
(文=加谷珪一/経済評論家)

強制不妊の実態解明 精神学会が自己検証へ - 毎日新聞(2019年1月5日)

https://mainichi.jp/articles/20190105/k00/00m/040/160000c
http://archive.today/2019.01.05-161059/https://mainichi.jp/articles/20190105/k00/00m/040/160000c

国内最大の精神医学分野の学術団体「日本精神神経学会」と精神科医や施設関係者でつくる啓発団体「日本精神衛生会」が、旧優生保護法(1948〜96年)に基づく精神障害者らへの強制不妊手術に関与した「負の歴史」について自己検証に乗り出す。強制手術は、精神障害者知的障害者を主な対象としており、精神科医都道府県の優生保護審査会に手術を申請し、審査会委員も務めた。両団体の検証が進めば、手術対象者の選定の経緯や申請の実態が明らかになる。
両団体とも優生保護法の関与をめぐる検証を行うのは初めて。精神神経学会は6月に検証作業に着手。精神衛生会は今月29日に調査委員会を設置し、検証後に結果を公表する。
精神衛生会は旧法施行から5年後の53年、当時の厚生省に対し「精神障害者の遺伝を防止するため、優生手術の実施を促進させる財政措置」を求める陳情書を提出した。その直後に全国の手術件数が年間で1000件を突破しており、法律に基づく手術の申請だけでなく、手術を増やす役割も担った経緯がある。
当時、同会理事長だった内村祐之・東京大教授(故人)は、精神神経学会の理事長も兼任していた。
精神神経学会は、内部に設けた委員会で昨年夏から検証の必要性を議論してきた。今年6月に開く学術総会で優生学史の専門家らを招き、優生保護法との関わりについて検証を始める。
精神衛生会は、優生保護法の前身でナチス・ドイツの断種法をモデルとした国民優生法(41〜48年)下の不妊手術も含め、精神科医や団体の関与を調べる予定だ。同会の小島卓也理事長は「検証内容の詳細はまだ話せないが、内部でしっかり議論し、結果は一般に報告したい」と述べた。
優生保護法下の不妊手術をめぐっては、宮城県の60代女性が昨年1月に初の国家賠償請求訴訟を仙台地裁に起こして以降、計15人が全国6地裁に提訴。また、同法が議員立法だったことを受け、超党派の議員らが今年の通常国会に救済法案を提出する準備を進めており、両団体の検証を求める声も出ていた。
強制不妊手術は欧米各国でも行われた歴史があり、ドイツの精神医学精神療法神経学会は2010年、ナチス政権下で不妊手術と安楽死に協力した精神科医の実態を検証し、責任を認めた上で被害者と遺族に謝罪した。【千葉紀和】

【ことば】日本精神神経学会と日本精神衛生会

ともに日本の精神医学の草分けと評される故・呉秀三(くれ・しゅうぞう)らが1902年に創設した団体が前身。精神神経学会は35年に現名称となり、精神医学研究と医療の発展を目指した。会員数1万7000人。精神衛生会は貧しい精神障害者の治療や看護の援助を目的に発足し、現在は公益財団法人として知識の普及や専門家の育成に取り組む。会員数は精神科医精神保健福祉士ら800人。

NPOと社会 「参加」の原点を大切に - 朝日新聞(2019年1月6日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13837898.html
http://archive.today/2019.01.06-002440/https://www.asahi.com/articles/DA3S13837898.html

行政や企業ではない、社会の第3のセクターとしての非営利組織(NPO)の意義は何か。
NPOが法人として組織を整え、活動しやすくすることを狙った特定非営利活動促進法(NPO法)が施行され、昨年末で20年が過ぎた。それを機に、1990年代に超党派による議員立法を呼びかけ、実現させた市民団体などが、各地で勉強会を開いている。
非営利法人に関しては、NPO法から10年遅れで公益法人制度も改革され、設立が簡単な一般法人制度ができた。法人の新設はNPO法人から一般法人へと中心が移ったが、両者に公益法人を加えた総数は10万を大きく超え、環境や福祉などの問題に取り組む主体として非営利法人はすっかり身近になった。
「非営利」は無償のボランティアに限らない。活動を継続するには、寄付や会費、事業収入を組み合わせ、法人としての経営を安定させることが大切だ。ただ、株式会社の配当のような利益の分配はしない――。
そうした理解がこの20年で少しずつ浸透する一方で、非営利法人にも活動の成果が問われるようになってきた。かたや、もっぱら収益で評価される企業にも社会的責任への意識が高まり、「課題解決の一翼を担ってこそ発展できる」との経営者の発言が目立つ。若者らの間では、企業的な手法で社会課題に挑む「ソーシャルビジネス」への関心も高い。
そんななかで、「非営利」の意義と特徴はどこにあるのか。改めて注目されているのは、「参加」や「協力」だ。
非営利法人が課題解決に取り組み、困っている人が支援を受けるという一方的な関係にとどまっては、企業と消費者の関係と大差ない。双方が当事者として集い、広く参加を募りながらともに考え、行動することにこそ非営利法人の存在意義がある、という問題意識である。
こうした姿勢は、社会に新たな視点や価値観を示すことにもつながる。
80年代から不登校問題に取り組む「東京シューレ」は、親に学び合いの場を、子どもには学校外の居場所を作ってきた。90年代末にNPO法人となり、フリースクールを展開。異端視されていたフリースクールは着実に社会に根を張り、「どうやって学校に通わせるか」から「無理に通う必要はない」への意識の転換を促してきた。
一人ひとりの多様な取り組みを積み重ね、暮らしやすい社会を作っていく。NPO法に込めた理念を大切にしていきたい。

住民は投票する権利を持っている 沖縄の県民投票、不透明な状況に - 沖縄タイムス(2019年1月6日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/367254
https://megalodon.jp/2019-0106-0925-47/https://www.okinawatimes.co.jp:443/articles/-/367254

沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府は昨年12月、玉城デニー知事が工事中止を求める中、辺野古沖に初めてとなる土砂投入を強行した。1996年の米軍普天間飛行場の日米返還合意後の重大局面を迎えた。一方、今年2月24日には新基地建設に必要な埋め立ての賛否を問う県民投票が実施される。県民が示す「民意」と、その結果を受けて日米両政府がどう対応するのかが注目される。(政経部・伊集竜太郎、嘉良謙太朗、銘苅一哲)
全市町村の参加不透明
名護市辺野古の新基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票が2月24日、各市町村で投開票される。都道府県単位での住民投票は、1996年に沖縄で実施された「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票」に次いで2例目となる。ただ、一部の市町村が投票事務に必要な補正予算案を否決しており、全県で実施されるか不透明な状況だ。
今回の県民投票は昨年10月31日に公布・施行された「辺野古米軍基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票条例」に基づいて実施され、辺野古の埋め立てに対し「県民の意思を的確に反映させる」ことを目的としている。
県民投票を巡っては、一般市民らでつくる「『辺野古』県民投票の会」(元山仁士郎代表)が条例制定を直接請求するため5月23日から2カ月間、県内各地で署名を集めた。請求には約2万3千筆が必要だったが、有効署名数は4倍の9万2848筆に上った。
同会は9月5日に謝花喜一郎副知事に県民投票の条例制定を請求。条例案は県議会の米軍基地関係特別委員会での審議などを経て、10月26日の県議会の最終本会議で「賛成」「反対」の2択で問う与党案が賛成多数で可決された。
自民・公明が提案した賛成、反対のほか、「やむを得ない」「どちらとも言えない」を加えた4択案は否決された。
首長の判断次第で
県民投票条例の第13条では、投票資格者名簿の調製や投開票などの事務を「市町村が処理することとする」と定めており、昨年までに34市町村議会で投票事務に係る予算案を可決し、実施が決まった。
一方、宜野湾と宮古島の両市長は不参加を表明。予算案を否決または削除した7市町のうち、与那国町長は予算を執行する意向を示しているが、うるま、沖縄、糸満、石垣の4市は実施するかどうか明言していない。
地方自治法に基づき首長の判断で予算執行は可能だが、判断次第では実施されない可能性もある。

【Q&A】
Q 直接請求権って何?
地方公共団体の住民が地方の政治に直接参加できる権利のことだよ。日本は選挙で代表者を選び、代表者が国民に代わって政治を行う間接民主制度を取っているね。でも、憲法改正の際は、国会での審議後に国民投票が行われる決まりになっていて、一部直接民主制も取り入れられているよ」
Q 直接民主制と間接民主制はどっちがいいの?
「両方に長所・短所があるからどちらがいいと一概には言えないね。間接民主制の場合、代表者が多数決で物事を決めるよね。だから、どうしても採用されない意見が出てくるんだ。直接請求制度は住民の声を政治に伝えることが限られる間接民主制の欠陥を補完し、住民に直接意思表示する機会を与える仕組みといわれているよ」
Q 何を請求できるの?
「請求権には(1)条例の制定・改廃の請求(2)議会の解散請求(3)解職請求(4)監査請求があるんだ。請求する場合、(1)と(4)は有権者の50分の1、(2)と(3)は3分の1以上の署名が必要だよ。今回の県民投票は(1)の条例制定に当たるね」
Q 住民投票の結果は反映されるの?
「議会の解散や解職請求など法律を根拠とする住民投票には法的拘束力があるんだ。一方で、県民投票のように法律ではなく条例を根拠とした住民投票は、法的拘束力を持たないので、必ずしも結果が反映されるとはいえないね。県民投票条例でも賛成反対のいずれか多い数が投票資格者の総数の4分の1に達したとき、知事は結果を尊重しなければならない、と定めるにとどまっているよ」
「でも、条例は法律に基づいた手続きを経て制定され、住民は投票する権利を持っているんだ。沖縄の将来を決める大事な問題でもあるから、家族や親戚、友人たちとも話し合って、1票を投じてほしいね」

県民投票約8割「行く」  全市町村で実施すべきだ - 琉球新報(2019年1月6日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-857489.html
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米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票について、77・98%が投票に「行く」と回答した。琉球新報社沖縄テレビ放送、JX通信社による電話世論調査の結果だ。大多数の有権者が県民投票への参加希望を表明している。
さらに全ての市町村が県民投票を「実施するべきだ」と答えた人は70・96%で「実施する必要がない」と答えた19・04%を大幅に上回った。大多数の有権者が全市町村での実施を望んでいる。こうした民意を重く受け止めたい。
しかし宮古島、宜野湾の両市長が実施しない方針を示し、沖縄、うるま、糸満、石垣の市長は実施方針を示していない。つまり6市では投票実施の見通しが立っていないのだ。6市には全県の35%に当たる約41万人の有権者がいる。世論調査でも示された民意が市長の判断で踏みにじられていいのだろうか。
県民投票を実施しない意向を示している宜野湾、実施しない可能性を示唆する糸満、方針を明らかにしていない沖縄、うるまの4市を含む本島中南部地域の調査結果を見ると、70・74%が全市町村で実施すべきだと答えている。
実施を明言していない石垣市を含む八重山地域は59・46%だったが、実施しない意向を表明している宮古島市を含む宮古地域は80・00%と地域別では最も高い。
宮古地域の割合が高いことを問われた下地敏彦宮古島市長は「母数が小さいので全県的なきちんとした意見として解釈できるかは疑問だ」と述べ、調査結果自体を疑った。新基地建設反対県民投票連絡会が実施した世論調査でも、宮古島市は県民投票に賛成との回答は63%に上る。多数が県民投票を支持していることは疑いようがない。
県民投票を実施しない方針を示したり、実施しない可能性を示唆したり、方針を明らかにしなかったりしている6市長は、辺野古移設について推進の立場か、態度を明らかにしていないかのどちらかだ。辺野古移設反対を表明している市長は1人もいない。
下地宮古島市長は2016年の琉球新報のアンケートで辺野古移設は「進めるべきだ」と答えている。中山義隆石垣市長も同じだ。桑江朝千夫沖縄市長と島袋俊夫うるま市長は態度を示していない。
このアンケートの後に市長に就任した松川正則宜野湾市長は「一日も早い普天間飛行場の返還を引き続き求める」との立場を示すが、普天間飛行場の移設先は明言していない。上原昭糸満市長も立場を明らかにしていない。
世論調査では県民投票に「行く」と答えた人のうち、埋め立て反対の人は77・68%を占めた。この結果は6市長の政治姿勢とは異なるのかもしれない。それが理由で県民投票に非協力的なのか、とは決して思いたくない。そうであれば、全市町村実施に向けて足並みをそろえてほしい。

(欧州へ地位協定調査)連携し改定のうねりを - 沖縄タイムス(2019年1月6日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/367989
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日米地位協定の改定を求めている県は、近く北大西洋条約機構NATO)本部のあるベルギーとイギリスに職員を派遣する。
米国はNATOに基づき、欧州各国に米軍を駐留させている。NATO加盟国は地位協定を締結しており、運用実態について調査する考えだ。
県は翁長雄志知事時代の2018年、第2次大戦の敗戦国であるドイツが米国と結ぶボン補足協定、イタリアとの米伊了解覚書を調査した。
今回はこれに続くもので、玉城デニー県政が対象国を広げ調査を継続することは、地位協定の不平等性を可視化する上で極めて重要だ。
ドイツ、イタリアの調査で分かったことは米軍の訓練にも国内法が適用されていることだ。ドイツは立ち入り権が明記され、緊急時には事前通告がなくても入ることができる。イタリアでは米軍基地はイタリア軍が管理し、司令官が常駐している。
いずれも訓練には事前通告や承認が必要で、騒音問題などの地域の意見を吸い上げる委員会が設置されている。
両国とも米軍機事故による人的被害が出たのを機に米側と交渉した末の改定である。
1988年、イタリアで低空飛行していた米海兵隊機がロープウエーのケーブルを切断し、ゴンドラに乗っていた20人全員が死亡した。
当時の外務大臣は県の聞き取りに「米国の言うことを聞いているお友達は日本だけだ」と辛辣(しんらつ)だ。故翁長氏が「憲法の上に地位協定がある」と語ったこととつながる。

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沖縄では地位協定に阻まれて捜査ができない事件・事故がたびたび起きている。
昨年12月に米軍嘉手納基地から空軍兵が拳銃を持ったまま脱走し、読谷村内の集落で米軍に身柄を拘束された。
県警は銃刀法違反容疑で捜査する方針だったが、事情聴取ができず、心身治療のためとして米国に移送された。
昨年6月に名護市数久田の農作業小屋で銃弾が見つかった際に、米軍から同種の弾が提供されず、捜査は難航。原因や再発防止策が示されないまま使用通知された。
大型ヘリによる宜野湾市の保育園や小学校への部品や窓枠落下、名護市安部沿岸部へのオスプレイ墜落、沖縄国際大への大型ヘリ墜落…。日本の捜査当局は機体の差し押さえさえできなかった。
憲法・国内法」と「安保・地位協定」が逆転していると言っても過言でない。

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昨年7月、全国知事会が米軍に航空法や環境法令など国内法を適用することなど地位協定改定を盛り込んだ提言を全会一致で採択した。故翁長氏が主導し、県のドイツ、イタリアの調査を踏まえ、全47都道府県知事が賛同した意義は大きい。
知事選で玉城氏と安倍政権が推した佐喜真淳氏も改定を公約に掲げた。保革を超えた要望なのである。
外務省は「他の地位協定に比べて不利になっていることはない」と改定には一貫して後ろ向きだ。県は地位協定の調査結果を公表している。改定のうねりを全国を巻き込んでつくり出してもらいたい。