失踪実習生、データ誤り 政府訂正 審議先送り - 東京新聞(2018年11月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201811/CK2018111702000120.html
http://web.archive.org/web/20181117070643/http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201811/CK2018111702000120.html


外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正案を巡り、法務省は十六日の衆院法務委員会理事懇談会で、失踪した外国人技能実習生に関する調査結果を発表し、事前に説明した数値に誤りがあったとして訂正した。当初の説明に比べ、失踪の原因として受け入れ先の指導の厳しさや暴力を挙げる回答が増え、劣悪な労働環境が浮き彫りとなった。同日予定された実質審議入りは見送られた。 (新開浩)
野党側は「制度の根幹に関わる致命的なミス。意図的な不正かもしれない」と反発。立憲民主党葉梨康弘委員長(自民党)の解任決議案を提出したため、委員会は散会となった。
法務省は当初、失踪後に入管難民法違反で摘発された二千八百九十二人のうち、86・9%の二千五百十四人が「より高い賃金を求めて」失踪したと説明。人権侵害など受け入れ側の不適正な取り扱いは少数だったと結論付けていた。
訂正後の失踪理由では、「より高い賃金を求めて」が67・2%に減り、「指導が厳しい」が5・4%から12・6%、「暴力を受けた」が3・0%から4・9%にそれぞれ増えた。法務省は調査結果を訂正した理由について集計データの入力ミスなどと説明した。野党側は、過失では済まない問題だとして今後も追及する構えだ。
個々の実習生の聞き取り結果を記した「聴取票」に関しては、個人情報を非公開にし、週明けから法務委理事の閲覧を可能にすることで与野党が合意した。野党が委員会審議入りの条件として公開を求めていた。
改正案の審議入りが来週にずれ込むことで十二月十日までの会期内成立は厳しくなり、会期延長の可能性が出てきた。これに関し、安倍晋三首相は訪問先のオーストラリアでの記者会見で「来年四月から制度をスタートさせたい」と今国会成立を目指す考えを強調。「政府として丁寧な説明に努めたい」と述べた。
聴取票を巡っては、失踪理由の選択肢に「低賃金」「契約賃金以下」「最低賃金以下」などが並び、「より高い賃金を求めて」という選択肢がないことから、野党は当初から法務省の説明を「ねつ造に近い」と批判していた。

◆劣悪な実態、国民に伝えず
法務省が失踪した外国人技能実習生に関する調査結果を訂正したことで、二つのことが明らかになった。一つは、実習生が置かれている劣悪な環境。もう一つは、政府がその実態を正確に国民に伝えていなかったという事実だ。
政府はこれまで、大半がより高い賃金を求めて失踪したと説明し、暴力などの不適正な取り扱いは少数と言い募ってきた。実際には百四十二人が暴力を理由に挙げ、半数以上が月給は十万円以下と答えていた。
実習制度は、日本で得た技能を母国の産業に生かす「国際貢献事業」という建前だった。外国人を「安価な労働力」として酷使している実態が明らかになった以上、制度の廃止を含めて外国人受け入れのあり方を抜本的に議論し直すべきではないか。外国人労働者の受け入れを拡大する法整備は、その先にある話だ。
安倍政権では、法案の前提となるデータのずさんな扱いが目立つ。働き方関連法を巡っては、裁量労働制の労働時間のデータに重大なミスがあり、裁量制拡大を法律に盛り込めなくなった。財界の意向を受け、実態から目を背けたまま政策を打ち出す姿勢を改めるべきだ。 (木谷孝洋)

<税を追う>歯止めなき防衛費(5)貿易赤字解消図る米大統領 「兵器買え」強まる流れ - 東京新聞(2018年11月18日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201811/CK2018111802000123.html
https://megalodon.jp/2018-1118-1028-58/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201811/CK2018111802000123.html

「武器」と「カジノ」。

今年の夏以降、訪ねてくる旧知の米国関係者たちから、何度この言葉を聞いたことだろうか。
「彼らに訪日の目的を尋ねると、用件は必ずこの二つの利権だ」。日本総合研究所寺島実郎会長は、急速に矮小(わいしょう)化している日米関係を肌で感じている。
訪ねてきた人の多くは、知日派の元政権スタッフや元外交官ら。「日本通であることで米国の防衛やカジノの関連企業などに雇われた彼らが、対日工作のため動き回っている構図が、ここに来てくっきり見える」と明かす。
一基で一千億円以上する迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に象徴されるように、安倍政権は国難を理由に米国製兵器の購入にアクセルを踏む。
右肩上がりで増える日本の防衛費に、米軍需メーカー幹部は「安倍政権になってビジネス環境はよくなった」と手放しで喜ぶ。
追い風を吹かしているのがトランプ米大統領だ。約七兆円に上る対日貿易赤字をやり玉に挙げ、日米首脳会談のたびに、安倍晋三首相に米国製兵器や化石燃料などの購入を迫ってきた。
通商と安全保障をパッケージにして、兵器を「ディール(取引)」として売り込む。その姿は、さながら武器商人だ。元米海兵隊大佐で、日本戦略研究フォーラムのグラントF・ニューシャム上席研究員は「トランプ氏は、日本が自分の防衛を十分果たさず、米国にただ乗りしていると考えている」と指摘する。
「私は(安倍首相に)『われわれは巨額の赤字は望まない。あなたたちはもっと買わざるを得なくなるだろう』と言った。彼らは今も大量の防衛装備品を買い続けている」。米紙ワシントン・ポストによれば、トランプ氏は九月下旬のニューヨークでの記者会見の際、直前に行われた安倍首相との会談で、そう迫ったことを強調した。
対日貿易赤字の多くを占める自動車は、日本経済を支える基幹産業。トランプ氏が赤字削減のため、日本車の追加関税に手を付ければ、国内経済への打撃は避けられない。
「米国装備品を含め、高性能な装備品を購入することが日本の防衛力強化に重要だ」と応じた安倍首相。大統領の得意のせりふ「バイ・アメリカン」(米国製品を買おう)への抵抗はうかがえない。
「TPP(環太平洋連携協定)交渉で、自動車の輸出と農産物の輸入をてんびんに掛けられている農協の気分だ」。国内の防衛産業は、自分たちの食いぶちを奪われかねないと戦々恐々だ。ある大手メーカー幹部は、自民党の国会議員から「自動車を守るためのバーターとして、米国から高い武器をどんどん買えという流れになっている」と打ち明けられたという。
小切手を切ってくれそうなところに請求書が行くように、増大する日本の防衛費に米国が群がっている。「今や米国にとって日本は草刈り場だ」という寺島氏は、対米交渉に警鐘を鳴らす。
「日本に東アジアの安全保障に対するしっかりした構想がないから、米国に武器を売り込まれる。トランプ政権の期待に応えるだけでは利用されるだけだ」

<にっぽんルポ>東京・歌舞伎町 少女のSOS届け - 東京新聞(2018年11月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201811/CK2018111702000273.html
https://megalodon.jp/2018-1118-1030-28/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201811/CK2018111702000273.html

「住所がほしいです」
無料通信アプリLINE(ライン)の画面に悲痛なメッセージが浮かび上がった。送り主は、数カ月前からシャワー付きのネットカフェで暮らす女性(29)。新宿駅近くの店内から現れた格好は、上下グレーの部屋着に、スーツケースと、ぱんぱんのリュック。持ち物全てを両手に握って。
「体、休めた?」。NPO法人「BOND(ボンド)プロジェクト」代表の橘ジュンさん(47)が声をかける。BONDが受け付けているLINE相談にSOSが届くと、会いに行く。「ずっと一緒に過ごすというより、彼女たちが困っているとき、そこで立ち止まって、一緒に考えさせてもらえたらと思って」
相談に来た女性は北海道出身で、幼いころに両親が別居。一緒に住む母には頭からみそ汁をかけられ、真冬にはだしで家を閉め出される虐待を受けてきた。大学進学とともに暮らし始めた大阪でプログラミング会社に就職したが、過労で入院すると実家に連れ戻された。束縛に耐えられず、一年前に飛び出した。
流れるようにたどり着いたのが新宿。今は派遣型風俗店で食いつなぐ。「小さいころから夢なんか持ったことない。できればさっさと死にたい」。そう語る女性を、橘さんは保護を受けるため区の福祉事務所に連れていった。
いじめ、貧困、性被害…。困難を抱えた女性の自立支援をするNPOの設立前から、ルポライターとして三十年近く、街を漂流する少女らの声に耳を傾けてきた。いつも隣にいるカメラマンの夫、KENさん(50)は「歌舞伎町は懐が深く、受け止めてくれる。だから人が生きられる」と言う。
「接着剤」の意味を込めたBONDプロジェクト。「君のことを知りたい」。若者の生きづらさに向き合う二人にとって、この街は原点でもある。

◆安心できる場所に
きらびやかなネオンで華やぐ歌舞伎町の雑踏から、二十代後半のアイさん(仮名)が「ジュンさぁん」と長い髪を揺らして近づいてきた。薄暗い路地を一緒に歩きながら、橘ジュンさんは彼女との物語を思い起こす。「ここで会ったね。あなたを当てもなく捜し回ったよ」
取材で街を歩いていた十年以上前、渋谷センター街を一人でうろつくアイさんを初めて見つけた。「おなかすいたから、ご飯食べさせてもらって、部屋にいさせてもらう」。出会い系サイトで知り合った男性と会う約束をしていた。
「人生をリセットするために、三日前に盛岡から出てきた」という。高校を中退し、風俗で働きながら、ナンパされた男性と結婚。十六歳で出産したが、夫の親に引き離され、東京で一人出直そうとしていた。アイさんには、身を乗り出すように聞いてくる橘さんが「気持ちを分かっている人だな」と映った。
しばらく連絡が途絶え、偶然再会したのが歌舞伎町だった。アイさんはホストを連れ「夜働いて、いろんな人のところにいます」と相変わらずの日々。それからまた連絡するようになり、「相談がある」と珍しく家に来たことがあった。
「妊娠したの」。今度は相手が分からず、病院にも行かない彼女を前に橘さんは焦った。福祉事務所に行く約束をしても、その日になると来ない。深夜まで働き、朝方に寝るアイさんに行政への相談はハードルが高かった。結局、救急車で駆け込み出産だった。
出産から三日後。わが子を病院に置いたまま、アイさんは歌舞伎町に戻ってしまった。「お金が必要だから」。子育て不適格と見なされ、子どもは乳児院に預けられていった。「話を聞いて伝えるだけじゃなくて、一緒に考えて、安心して過ごせる場所が必要なんだ」。橘さんは痛感した。
アイさんは今も、歌舞伎町で生きる。過去を消したくて捨ててきた故郷。でも、橘さんから「お母さんに会いに行こうよ」と言われ、いつかは帰りたいと思っている。「私、遠慮する方だけど、ジュンさんには思ったことを言える。熱い人だから」

◆華やかさと危うさ
歌舞伎町に来ると、橘さんはつらい思い出が蘇(よみがえ)る。アイさんにしてあげられなかったから、困っている子がいたら背中を押してあげたい。「自分に何ができる?」。そう問いながら、関わり続ける。
戦後の焼け野原を区画整理した歌舞伎町は日本一の歓楽街と言われる一方、犯罪の温床にもなってきた。華やかさと危うさを併せ持つ街に、少女らはなぜ集まってくるのだろう。
橘さんは十代のころ、レディース(女性の暴走族)に所属していた。雑誌で自分のチームを紹介してもらう取材を受けてから、王道からそれたアウトローの生き方をする人に興味を持ち、十九歳でルポライターになった。
十代でクラブのママになった少女を取材したとき、現場に来たフリーカメラマンがKENさん。「この子たちの表情は今しか撮れない。一瞬の声を聞き逃したくなかった」と街に出た理由を語る。
二人は結婚後の二〇〇四年ごろから、週末ごとに歌舞伎町を訪れた。物陰や自販機の横に立ち、援助交際の相手を待つ子たち。ノートに書き留めた橘さんのメモが面白くて、KENさんは「形にしようよ」と提案。少女らの声が詰まったフリーペーパー「VOICES(ボイス)」を作り、今も発行を続ける。
「僕らが歌舞伎町で会ってきたのは、枠からはみ出している子たち。でも今は、はみ出せずにもがいている子が多い。そんな内面も写せたら」。心の居場所を見つけられずにさまよう少女らを、レンズ越しに見つめる。

NPO設立 夫婦で夜回り 少女見つめ
少女らと関わり続ける二人を支えた人もいる。歌舞伎町の東側に広がる新宿ゴールデン街のバー「WHO(フー)」の「ぢょにぃ」こと、店主の大槻陽一さん(52)は「自分もあぶれていた人間だから」と控えめに語る。
二人が知人のライターの紹介で初めてバーに来たのは、少女らの声を聞き歩いていた二〇〇六年ごろ。KENさんは「ぢょにぃさんには、かっこよさの中に孤独なにおいを感じた」と振り返る。
「街で出会った子たちがいられる空間があるといい」。熱っぽく語る二人に、大槻さんは「この曜日なら空いてるよ」。近くで経営する別のバー「Happy」で週一〜二回の日替わりマスターを任せた。
KENさんがカウンターに立つ間、橘さんが街で話を聞いた子を連れてくる。オレンジジュース一杯で朝までいる子や、お金がない子には、二人が自腹を切った。七カ月ほど働き、売り上げは一日数千円にしかならなかった。大槻さんは「誰にでもできることじゃないから」と気にしなかった。
京都市出身の大槻さん自身、二十歳まで高校に通った末に中退。不良が格好良かった時代だった。「ぐれるなんて、はしかみたいなもの。いつか治る」と笑う。長距離トラックの運転手などを経て、仕事を求めて新宿へ。客として来ていたバーを別の店主から引き継ぎ、十八年目になる。
ネット社会の現代。今は会員制交流サイト(SNS)に「死にたい」とつぶやく子が増え、実態が見えにくくなっている。時代の変化を受け止めつつ、橘さんにはこだわり続けることがある。
「私はどちらかというとアナログ。一緒に歩きながら話を聞いて伝える。それがリアルだから」
 (文・神田要一/写真・内山田正夫)

斉藤章佳 精神保健福祉士:あの人に迫る - 中日新聞(2018年11月16日)

http://www.chunichi.co.jp/article/feature/anohito/list/CK2018111602000260.html
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◆依存ゆえの犯罪 見極めて治療を
人混みで女性に何度もわいせつな行為をする痴漢、店舗の商品を繰り返し盗む万引など、犯罪行為の一部の背景に依存症があることは広く知られ始めている。いち早く犯罪と依存症の関係に着目し、数々の治療プログラムを立ち上げ、関連する書籍を著してきた精神保健福祉士、斉藤章佳さん(39)。人が犯罪に「依存する」とは−。
−犯罪と依存症を特徴付けるものとは。
盗撮、痴漢、万引などの犯罪、あるいはアルコールに依存している人は皆「認知のゆがみ」を持っています。認知のゆがみとは自分の行為を正当化するということ。強制性交の犯人が「自分は(犯行に)ローションを使うから他の性犯罪者より優しい」とか、アルコール依存症の人が「ビールでは酔わないからいくらでも飲んでもいい」などと言います。最初は「なんとなく」「魔が差した」という理由で行為が始まりますが、繰り返すうちに当人たちの中で当たり前のことになります。
−「依存症」との出合いは。
高校時代は滋賀県の高校でサッカーに熱中し、ブラジルに留学しました。向こうの選手は徹底的に管理されています。お昼の体重測定でオーバーすると午後の練習で戻すよう言われることもあります。体重を管理することが一流の選手だという認識を持ちました。
高校生って食べたいですよね。ボクサーなどがやりがちな危険な減量法に「チューイング」という方法があります。食べ物を口に入れてかむんですが、胃に入れずに吐き出す。すると食べたような気にはなるけれど体重は増えない。
帰国後、両膝の半月板を大けがし、プレーできなくなりました。サッカーができないつらさを紛らわすため体重のコントロールにのめり込み、チューイングに依存してしまいました。体重減少が唯一、私の寂しさとか不全感を解消する手段だったのです。
−サッカーの道をあきらめ、大学時代は。
社会福祉士の養成課程で学びました。就職活動をしたくなくて、大学最後の春休みに、バイトでためた十万円だけ持って沖縄へ旅行へ行きました。現実逃避の旅だから、地元の人たちとのお酒も進む。路上で目が覚めたら服以外のものが全部なくなっていました。
警察に行って親と連絡を取るとか、やることはあったんでしょうが、そのときは自分で何とかしようと思って公園のベンチに三日間座っていました。初めて話し掛けてくれたのがホームレスだった。
それまでのいきさつを話しました。すると彼は口を挟まず傾聴してくれた。これが初めてのカウンセリング体験でした。受容、共感、傾聴の三つがカウンセリングでは大事なんです。
「このままだと親に申し訳ない」と思って民家に泊めてもらい、家業を手伝ってお金をもらいました。泊めてもらうにはそれまでの経緯を話さないといけない。大きく価値観が変わりました。生きるために自分の居場所を自分でつくらないといけない。体験として学びました。
精神保健福祉士の資格を取り二〇〇二年、依存症治療に力を入れる榎本クリニック(東京)に就職。
サッカーを通して子どもを更生させられたらいいなと思っていて、思春期の精神疾患に関わりたかった。でも、たまたま欠員があってアルコール依存症の部署に配属。患者たちと接して分かったのは、沖縄で出会ったホームレスは依存症だったということ。外見も含めて特徴を知ると、すぐに分かった。
アルコール依存症は依存症治療の原点。スタッフも治療プログラムに入って自分の生い立ちを話す。そうしないと患者さんは自分たちのことをオープンにしてくれません。
私は彼らを下に見ていた部分が出ていたようで、ある患者さんから「正直な話ができていないね。つらそうな顔してるもん」と言われました。自分のことを正直に話すようになるとすごく楽でした。正直に話すと人とつながれるということが分かりました。
−その後、性犯罪治療に関わる。
アルコール依存症の患者さんがある日急に来なくなりました。子どもへの性犯罪で逮捕されていた。治療に熱心に取り組んでいた人だったから、まさかと思ったけれど、実は過去にも性犯罪歴がありました。酒をやめた時からまたその問題が始まった。確実に実刑だから治療は中断する。当時の私は子どもに性欲を感じるということが理解できませんでした。患者のバイブルとされる「ビック・ブック」という書物には、アルコール依存症の根本には性の問題があると書かれています。
−性犯罪者向けのプログラムを始めた。
性犯罪者は刑務所でも社会でも排除される。孤独は問題行動の最も大きな引き金です。同じ問題のある人とつながれる場所が必要と考えました。
性犯罪は性欲が強い人が起こすわけではない。性欲が強くて性犯罪を起こすなら、十三〜十五歳の男性ホルモンの分泌が多い時期に起こすはず。でも患者は家庭がある、大学卒のサラリーマンが多い。八十代の人もいる。性犯罪の加害者にヒアリングをすると、痴漢するときに彼らは必ずしも勃起せず、射精を伴わない人も多い。盗撮の人なんかは撮るだけで自己使用しないことが多い。これは反復する逸脱行為。つまり、行為やプロセスそのものに依存しています。
彼らは被害者を思いやる気持ちがない。でも、もし身内がされたら「殺しに行く」と言う人もいる。自身の加害者性が抜け落ちている。相手を顔のある人間だと思っていない。つまり「認知のゆがみ」があるのです。
被害者を物や記号だと思っている。同時に、女性や弱い立場の人への支配欲、優越感が一つの根っことしてあると思います。
−万引の治療にも取り組む。
万引を繰り返してしまう人も一種の依存症、「クレプトマニア(盗癖)」です。今年九月に出版した「万引き依存症」では、万引を繰り返してやめられない人がいるということ、被害が見えづらい加害行為であるということを書きたかった。
榎本クリニックは一六年末に専門の治療グループをつくりました。まずは自分の体験を正直に話してもらいます。「反省」には段階があります。裁判の時点では反省するには早すぎる。行為を振り返って、見つめ直すことが必要です。次が被害者への共感。段階を踏まないといけない。最初に反省を求めても反発が出てきます。
−小児性犯罪者向けの治療プログラムを今年六月に立ち上げた。
ペドフィリア(子どもに性欲を抱くこと)」の治療は念願だった。彼らは性犯罪者や痴漢のグループにも仲間にしてもらえず、話せない。そんな人たちが約十人、榎本クリニックに通っています。このようなプログラムは世界的にも少ないと思います。
ある患者はカッターナイフで騒がないように脅していた。騒いだ場合は殺していたかもしれないなどと普通に言う。同じ男性として何でこんなことを考えるんだろうと思う。その好奇心が依存症治療に取り組むことの根源にあります。

<さいとう・あきよし> 1979年滋賀県生まれ。精神保健福祉士社会福祉士。大学卒業後、榎本クリニックに就職。アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、虐待、家庭内暴力、クレプトマニア(盗癖)などさまざまな依存症治療に携わる。専門は加害者臨床。「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動をしている。大学や専門学校で早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演会や論文執筆で依存症問題を世に問う。現在は大森榎本クリニック精神保健福祉部長。著書に「男が痴漢になる理由」「万引き依存症」(いずれもイースト・プレス)など。

◆あなたに伝えたい
裁判の時点では反省するには早すぎる。行為を振り返って、見つめ直すことが必要です。次が被害者への共感。最初に反省を求めても反発が出てきます。

◆インタビューを終えて
性的暴行事件の公判を以前、傍聴した。被告は女性に向精神薬入りの酒を飲ませて犯行に及んだ。被告は「同意を得ていた」「相手にも楽しんでもらおうと思った」と不合理な弁解に終始していると感じた。
斉藤さんの話を聞き、被告は「認知のゆがみ」の中にあり、本人の中では整合性の取れた話をしていたのではないかとも今は思う。われわれ一般人もどこかで自分に都合よく認知をゆがめているかもしれない。夜中に出歩く女性が性犯罪に遭っても自己責任と考える人はいないか。誰もが自身の認知のゆがみを見つめ、加害者性を認識することが性犯罪を減らし、被害者を救う第一歩ではないか。
 (瀬田貴嗣)

「世界の米軍基地撤去を」 アイルランドで国際会議開幕 「沖縄」も討論へ - 琉球新報(2018年11月18日)


https://ryukyushimpo.jp/news/entry-835891.html
https://megalodon.jp/2018-1118-0959-54/https://ryukyushimpo.jp:443/news/entry-835891.html

米国が国外に置く全米軍基地とNATO基地の撤退を求める国際会議が、現地時間の16日、アイルランドの首都ダブリンで始まった。沖縄と同じく環境汚染や騒音被害などの米軍基地問題を抱える世界約30の国と地域から約230人が参加した。開会式で「米軍とNATOが主導する戦争により地球規模の環境破壊と健康被害が引き起こされてきた」とし、全世界から米軍、NATO基地を撤去することを提起する共同宣言を発表した。
会議は、米軍基地問題に取り組む各国の市民団体が加盟する国際組織「全世界の米軍基地・NATO基地の閉鎖を求めるグローバルキャンペーン」が主催。会議2日目の17日には、沖縄の米軍基地に関する討論も開かれる。代表者の一人、米国人のバーマン・アザットさんは取材に「日本では、沖縄の人々が孤立の闘いを強いられていると聞いている。同じような問題は地球規模で起きている。国を超えた連帯によって解決したい。沖縄の人々には、世界が味方に付いていると伝えたい」と話した。
初日の会議では、北アイルランド問題の平和的解決に取り組み、ノーベル平和賞を受賞したマーレッド・マグワイヤーさんが「戦争犯罪を許さず、政治的中立を堅持するアイルランドから米軍とNATOの軍備拡張を止め、非暴力による平和的社会の実現を目指そう」と訴えた。
沖縄平和運動センターの山城博治議長が17日、沖縄の現状を訴える予定だったが、健康状態が懸念されたため欠席。新基地建設などへの抗議活動で威力業務妨害などの罪に問われ現在控訴中の稲葉博さんが出席する。
開会式に先立ち、デモ行進が行われた。(大矢英代通信員)

<金口木舌>銃を規制しない愚 - 琉球新報(2018年11月18日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-835746.html
https://megalodon.jp/2018-1118-1002-18/https://ryukyushimpo.jp:443/column/entry-835746.html

「銃が人を殺すのではない。人が人を殺すのだ」。米国では銃乱射事件が起きても、こうした主張が繰り広げられる

▼昨年10月にラスベガスで起きた銃乱射は史上最悪の58人の犠牲者を出した。2月にもフロリダ州の高校で乱射事件が起き17人が亡くなっている。高校生らによる抗議行動が広がった
▼米ギャラップ社の3月の世論調査では、銃販売の規制強化を支持する国民が1993年以降最多の67%に上った。トランプ政権は連射を可能にする特殊装置の規制を3月に発表したが、実現していない。トランプ氏にも献金するロビー団体全米ライフル協会が絶大な影響力を持っているからだ
▼銃を売って利益を上げる業界。業界から献金を受ける政治家。両者の利害が一致しているせいか、連射装置の販売さえ禁止できない。米国では年間3万人超が銃弾で命を落とす。国の抱える宿痾(しゅくあ)なのだろうか
▼7日にロサンゼルスで起きた銃乱射で12人を殺害したのは沖縄にも勤務したことのある元海兵隊員。心的外傷後ストレス障害(PTSD)だった可能性があるという。4年前には北谷町のキャンプ桑江の居住地区でライフル銃を持った海兵隊員が自宅に立てこもる事件があった
▼幸いなことに、銃刀法で所持を厳しく規制している日本では銃器による犯罪は少ない。米国は銃を野放しにする愚をいつまで続けるのだろう。

木村草太の憲法の新手(92)判事処分の恣意性と矛盾 表現の自由に深刻な悪影響 - 沖縄タイムス(2018年11月18日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/346360
http://web.archive.org/web/20181118010356/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/346360

東京高等裁判所岡口基一判事に対する懲戒処分には、「手続き保障なく一人の裁判官を処分した」というのに止まらない問題がある。今回はこの点を検討しよう。
第一に、事実認定の恣意(しい)性。
岡口判事はツイッターに、「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3か月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、『返して下さい』え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら…、裁判の結果は…」と書いた。最高裁は、「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?」の部分は、「一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準」としたとき、岡口判事自身が「訴訟を上記飼い主が提起すること自体」を非難したものと読めると認定した。
しかし、前後の流れからすると、この文は、「返して下さい」という原告の主張に対して、「被告側は、『原告は犬の所有権を放棄したのではないか』と反論した」という事実を指摘したものと理解するのが自然だろう。また、百歩譲って、岡口判事の個人的見解を示していると理解したとしても、この文の主題は、あくまで「犬の所有権」であり、「訴訟の提起」自体の是非を論じたものではない。
このように、岡口判事のツイートを、「訴訟提起自体が不当であるとの見解を示した」と認定するのはあまりにも不自然だ。もしもこうした認定が許されるなら、一般人の発言や文書についても、その意味内容を曲解し、名誉毀損(きそん)や侮辱、著作権侵害などを認定できてしまう。これは一般市民の表現の自由への深刻な脅威だ。
第二に、補足意見の論理矛盾。 山本庸幸、林景一、宮崎裕子の三裁判官による補足意見は、岡口判事が、過去に二回、ツイッターの投稿を巡り厳重注意を受けたことを指摘した上で、過去のツイートは「本件ツイートよりも悪質」だと断じた。岡口判事の悪質性を指摘する、一見もっともらしい指摘に思えるが、よく考えてみてほしい。より悪質な過去のツイートでは「注意」がされたのみなのに、なぜ本件では「懲戒処分」という重い処分が許されるのか。これは、明らかな論理矛盾であり、今回の処分が根拠薄弱だと自白するようなものだ。
補足意見自体、この矛盾を自覚しているのか、今回の処分は、今回のツイートだけではなく、過去に問題とされた行為と「同種同様の行為を再び行ったこと」が根拠だと言い訳する。しかし、懲戒申立書が懲戒理由として指摘したのは、「犬の元所有者の感情」のみだ。それにもかかわらず、過去のツイートを考慮して処分理由とすることは、明らかな論理矛盾だ。この補足意見の公表は、裁判所に対する国民の信頼を大きく損ねるもので、不適切だろう。
三裁判官が、このような無理な補足意見を書かざるを得なかったのは、申立書の理由のみでの処分は失当だと直感したからかもしれない。その点には同情もする。しかし、もしそうであるなら、「この申立内容では、懲戒処分はできない」との反対意見を書くべきだった。
本決定の無理な事実認定は、市民の表現の自由に深刻な悪影響を与え、補足意見の矛盾は裁判所の信頼を損ねる。最高裁は猛省すべきだ。(首都大学東京教授、憲法学者

(知事 訪米から帰任)次の焦点は県民投票だ - 沖縄タイムス(2018年11月18日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/346355
http://web.archive.org/web/20181118010606/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/346355

玉城デニー知事が就任後初の訪米から帰国した。知事選で示された新基地建設反対の民意を米国市民に伝え、対話による解決を米政府に呼びかけるのが目的だった。
知事就任からおよそ1カ月半、玉城氏は異例の早さで走り続けた。
日本記者クラブ外国特派員協会で会見し、ハガティ駐日米大使に会い、米国では、ニューヨーク大で県系人や米国市民を相手に講演し、ラジオ番組に出演した。
国務次官補代理や国防総省の日本部長代行との会談では、日米政府と沖縄県による3者協議の場を設置するよう要望した。
玉城知事が強調する対話路線を支持したい。だが、単なる対話だけでは解決が難しいことも明らかである。
米側の担当者は玉城知事に対し、「辺野古が唯一の解決策」だと強調した。
国務省は面談後にあえて声明を発表し、「普天間代替施設の建設に対する米国の合意は揺るぎないことを重ねて示した」と念を押した。
政府と県は現在、副知事と官房副長官による集中協議を重ねているが、その一方で政府は土砂投入に向けた準備を着々と進めている。
県民に寄り添うと言いなががら、県民感情を逆なでするようなことを平然とやってのける。そんな政権に態度変更を迫るのは容易なことではない。米中関係が悪化しているだけになおさらだ。
単なる対話だけでは、立ちはだかる大きな壁を動かすことはできない。壁を動かすには大きな力が必要だ。

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どうすれば大きな力が得られるか。玉城氏の知事就任後、この1カ月半の間に浮上した動きに注目したい。
民意をないがしろにした政府のやり方に対しては、県内外で、政治的立場を超えて疑問や批判が広がっている。
どうやったら沖縄の声を届けることができるか−こうした県民の思いは知事選後も絶えることがない。
玉城知事の明るさや、これまでの知事に見られない柔軟さ、住民目線、多様性を体現したような生い立ちは、国内外で好意的に受け止められている。
「てこの原理」を活用することによって、こうした動きを大きな力に変えることができるのではないか。
それが県民投票である。
県民投票には法的拘束力がない。政府は「県民投票の結果に拘束されない」と言い続けている。中途半端な対応で実施すると、その効果は半減する。

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県民投票に対しては依然として否定的な自治体がある。どう理解を求めるか。
県民投票への注目度を高めるためには、玉城知事がある時点で「結果に従う」ことを明確にする必要がある。
仮に、県民投票で辺野古移設「賛成」が過半数を占めると、知事選と住民投票の民意がねじれることになる。それをどう考えるか。
選挙疲れが残っていて、県民投票に対する関心は決して
高いとは言えないが、現状打開の大きな力になる要素を秘めていることは確かだ。

「小1の壁」に安心を 練馬区が保護者に説明会:東京 - 東京新聞(2018年11月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201811/CK2018111802000109.html
https://megalodon.jp/2018-1118-1004-20/www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201811/CK2018111802000109.html

来春に小学校入学を迎える子どもを持つ保護者に放課後の居場所を知ってもらおうと、練馬区は本年度の新たな取り組みとして、各地域ごとに説明会を初めて開いた。地域にあるさまざまな居場所を紹介し、子どもの預け先が確保できずに親が仕事を辞めたり制限したりせざるを得なくなる「小1の壁」への不安にこたえる試みだ。 (渡辺聖子)
今月十日、同区の石神井台児童館で開かれた説明会。集まった十五人ほどの保護者を前に、山岸弘明館長が児童館周辺にある居場所の特徴や違いを一つ一つ説明した。学校の持ち物を早めに準備することや、通学路の危険箇所を親子で確認することなど、新生活への注意点も呼び掛けた。
区内には、保護者が共働きなどで放課後に保育が必要な子どもを預かる学童クラブのほか、全ての児童を対象に小学校を活用した「学校応援団ひろば」、学童クラブと「ひろば」を一体的に運営する「ねりっこクラブ」、児童館、地区区民館などがある。区はこれまで、リーフレットやホームページなどで事業を紹介してきた。
一方で、区立の学童クラブを希望する人が多く、区が整備を進めても追いつかない状態となっている。地域によっては待機児童が出ていて、本年度は四月一日現在で三百三十一人が待機となった。
区は「万が一、待機となってもほかの選択肢があることを知ってほしい」と、十七日までに二十会場、計二十二回の説明会を開いた。区によると珍しい取り組みという。
石神井台児童館の説明会でも、保護者からは待機になることへの不安の声が上がった。山岸館長は、待機になった場合、少し離れた学童クラブの職員が学校まで迎えに来てくれる取り組みがあることや、児童館ではランドセルを背負ったままの来館を認めていることなどを説明した。
フルタイムで働いている母親(45)は「民間は利用料が高い上に自宅から遠いので、区立の学童クラブを希望している。児童館の利用は考えていなかった。漏れても受け皿があることには安心した」と話した。区子育て支援課の鳥井一弥課長は「地域にどんな居場所があるかを知らない保護者も多い。説明会を通して疑問や無用の不安を解消したい」としている。

麻生氏「人の税金で学校に」 東大出身の北九州市長を批判 - 東京新聞(2018年11月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201811/CK2018111802000120.html
https://megalodon.jp/2018-1118-1008-39/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201811/CK2018111802000120.html

麻生太郎副総理兼財務相は17日、福岡市長選の応援のために訪れた同市内で街頭演説し=写真、東大卒の北橋健治北九州市長を「人の税金を使って学校に行った」と批判した。安倍政権は、大学の財源の多様化を進めるべきだとの方針を示している。
北橋氏は元民主党衆院議員で、前回2015年の市長選で自民党の推薦を受けて3選したが、麻生氏は対抗馬を模索した経緯がある。北橋氏を攻撃する中での発言だが、国立大出身者に対する批判とも受け取られかねず、不適切だとの指摘も浴びそうだ。
福岡市長選で自民党が支持する現職の応援に訪れた麻生氏は、市の人口が増加しているなどと指摘した上で「一番元気が良くて、住みたくなる町だ」と実績を評価した。一方で「同じ政令市でも北九州市は人口も税収も減らしているが、それで(北橋氏は)再選しようとしている」などとも批判した。
北橋氏は、任期満了に伴う来年1月27日投開票の市長選に、4選を目指して無所属で立候補する意向を表明している。

(書く人)性暴力、罪の意識どこに 『彼女は頭が悪いから』 作家・姫野カオルコさん - 東京新聞(2018年11月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2018111802000177.html
https://megalodon.jp/2018-1118-1006-42/www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2018111802000177.html

今夏の発売以来、着実に読者を増やし続けている。読みながら、気持ちがどんどん重くなる。でも、最後までやめられない。
本書は、二〇一六年に、東大生五人が逮捕された強制わいせつ事件に着想を得て書かれた。「裸にした女性に熱いカップラーメンをかけた」「肛門を割り箸でつついた」…。ニュースを聞いた姫野さんは「これまでの集団レイプ事件とは『何かが違う』と感じた」という。自分なりに報道を調べ、取材した記者に話を聞き、裁判を傍聴した。
「当初、小説の題材にするつもりはなかった。関係者は司法の場で裁かれ、有罪となり終結した。この本は現実の事件とは無関係です。でも、いろいろなことを考えさせられたんです」
主人公は、平凡な家庭に生まれた女子大生の美咲と、官僚の父を持つ東大生のつばさ。偶然知り合い、後に被害者と加害者になる。
物語は、二人が中学生の時からスタート。「事件」が起きるまでの生活や心の内、周囲の人々の動きを丁寧につづる。数年がかりの日常描写はまどろっこしくさえある。だがそのおかげで、「エリート学生の性犯罪」という陳腐なイメージは粉々に打ち砕かれる。
この種の事件が起きると、ネットでは「のこのこついていった女が悪い」と誹謗(ひぼう)中傷が吹き荒れる。本書でも、同じことが起きる。読者はつい、被害者の美咲に感情移入してしまう。だが姫野さんは「加害者の嫌な部分は、私の中に存在する」と断言する。「執筆中は登場人物が勝手に動く感覚があるのですが、結局は私が書いている。誰もが加害者の部分を持つのでは」
東大生のつばさは「受験技術に益のないことが気になるようでは負ける」ため、「心はぴかぴかしてつるつる」している。他人の痛みは感じない。だから、号泣する被害者を笑いながら侮辱して、たたいたり蹴ったりしていても、どこにも罪の意識はない。
そんな加害者たちに眉をひそめながら、自分自身はどうなのか、とふと振り返る。不確かなネット情報で、他人をジャッジしていないか。同じ価値観の仲間で固まり、そうではない人への想像力を欠いていないか。この本は、根深くはびこる学歴主義や貧富の格差、女性差別の闇をえぐり出す。加害者を生むのは、自分も構成員の、この社会の意識なのだ。
文芸春秋・一八九〇円。 (出田阿生)

彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから

幼保無償化 現場の声聞き考え直せ - 朝日新聞(2018年11月18日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13774044.html
http://archive.today/2018.11.18-010743/https://www.asahi.com/articles/DA3S13774044.html

幼児教育・保育の無償化をめぐり、現場を担う市町村と国の足並みが乱れてきた。
無償化に必要な財源の負担を求める国に対し、市町村側が「国民に大盤振る舞いして、支払いはしておけと言うようなもの」と猛反発。全国市長会は全額国費で賄うことを求める緊急アピールを決めた。
子育て中の親たちからも「無償化より待機児童解消にお金を使ってほしい」との声が上がっている。
当事者の子育て世代、現場の市町村の双方に異論がある政策を推し進めるのは、やはり無理がある。政府は疑問・懸念の声に耳を傾け、子育て支援のあり方を考え直すべきだ。
14日の全国市長会の会合で、内閣府の担当者は、認可施設の運営費を公立は全額、私立は4分の1を市町村が負担している現状を踏まえ、無償化の財源も同様の負担割合でお願いしたいと説明した。この方法だと、無償化に必要な約8千億円の半分超を、市町村が負担することになるとみられ、出席者からは反発が噴出した。
市町村がさらに問題視するのは、認可外の施設も無償化の対象になる点だ。認可施設に入れなかった人も恩恵を受けられるように国が考えた苦肉の策だが、国の指導監督基準を満たさない施設にまで公費を投じることへの批判が相次いだ。
消費増税分の使途変更による無償化は、安倍首相が昨年の衆院解散・総選挙の「目玉政策」として唐突に打ち出した。来年10月に始まる制度の費用負担をめぐり、今になって混乱しているのも、市町村と十分調整せずに制度設計したためだ。
地方の現場にはそもそも、今でも保育所の整備が利用希望に追いつかないのに、無償化したらさらに希望者が増えてしまうとの懸念がある。子を持つ親たちの間にも、待機児童問題がさらに深刻になるのではないかとの声は根強い。
保育サービスの利用料は所得に応じた負担になっており、一律の無償化では高所得者ほど恩恵を受ける。そのため「待機児童解消より優先すべきことなのか」との声もある。
子育て支援に思い切って財源を投入することに、異論はない。問題はその使い道だ。例えば、待機児童解消のための施設整備や保育士の処遇改善にもっと財源を振り向け、無償化は経済的に苦しい世帯に絞ってはどうか。
真に必要な子育て支援は何かを見極め、政策を練り上げる政府の努力がさらに必要だ。