<東電>東通原発共同建設へ 地元「聞いていない」眉ひそめる - 河北新報オンラインニュース(2018年03月17日)

http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201803/20180317_23030.html
http://archive.today/2018.03.17-025328/http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201803/20180317_23030.html


東京電力が、建設工事が中断している東通原発青森県東通村)の共同建設や運営に向け、今春に他の大手電力と協議会を設置することが分かった。東北電力中部電力日本原子力発電が加わるとみられ、関西電力も検討する。政府も支援する見通しだ。東電が掲げる原子力業界再編の一環。福島第1原発事故の当事者である東電は他社との連携によって地元理解を得やすくする。
東通原発を建設中の東京電力日本原子力発電関西電力などとの共同事業化を検討していることが明らかになった16日、建設地の青森県東通村をはじめ東北の関係者は一様に「聞いていない」と眉をひそめた。
「合意したという話は聞いていない」。越善靖夫東通村長は出張先の青森市で取材に応じ、静観する構えを示した。越善村長は「動きがあれば、東電から丁寧な説明があるだろう。東日本大震災から7年。一日も早い工事の再開を願っている」と述べた。青森県原子力対策課の笹山斉課長は「県に報告はなく、真偽も分からない」と困惑気味だった。
 建設地に隣接する東北電力東通原発の再稼働を目指す東北電も、共同事業化に向け東電が設置を目指す協議会のメンバーとして名前が挙がった。
東北電は「建設参加を検討する事実はなく、話も聞いていない」と全否定。「自社の原発再稼働を最優先に取り組んでおり、他社の原発建設を検討する余裕もない」と強調した。
東電東通原発の建設工事は、着工直後の東電福島第1原発事故で進捗(ちょく)率10%未満のまま中断。村内経済は疲弊し、建設・宿泊業者はほぼ半減した。
東通村商工会は「工事再開の先延ばし、先延ばしが当たり前に繰り返されてきた。事実ならばやっと形が見えてきた。一歩前進」と期待を膨らませた。

[東京電力東通原発]青森県下北半島東通村に建設中の原発。2011年に1号機が着工し、2号機も建設予定。改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)で、出力は2基とも138万5千キロワットになる計画。福島第1原発事故の後は工事が滞っている。建設地の近くには05年に運転を開始した東北電力東通原発があるが、東日本大震災後は動いていない。

森友問題の”司令塔”は「今井総理秘書官」前川喜平・前文科事務次官が推測 - AERA dot.(2018年3月19日)

https://dot.asahi.com/wa/2018031800021.html
http://archive.today/2018.03.19-050144/https://dot.asahi.com/wa/2018031800021.html?page=1

“キーパーソン”の佐川宣寿前国税庁長官がようやく国会で証人喚問される。前文科事務次官前川喜平氏が「森友疑惑」について直言する。

*  *  *

国政調査権のある国会に提出された文書が改ざんされていたとは、民主主義が崩壊する事態で犯罪的行為だ。こんな悪事を、真面目で小心な官僚が、自らの判断でできるなど、到底考えられない。文書改ざんは、官邸との間ですり合わせがあって行われたとしか思えない。官僚が、これほど危険な行為を、官邸に何の相談も報告もなしに独断で行うはずがない。文書の詳細さを見れば、現場がいかに本件を特例的な措置と捉えていたかがわかる。忖度ではなく、官邸にいる誰かから「やれ」と言われたのだろう。
私は、その“誰か”が総理秘書官の今井尚哉氏ではないかとにらんでいる。国有地の売買をめぐるような案件で、経済産業省出身の一職員である谷査恵子氏の独断で、財務省を動かすことは、まず不可能。谷氏の上司にあたる今井氏が、財務省に何らかの影響を与えたのでは。今回の問題は、財務省の凋落を象徴しているともいえる。かつての財務省といえば、官庁の中の官庁。官邸内でも、財務省出身者の力が強かった。だが今、官邸メンバーに財務省出身者がほとんどいない。経産省を筆頭に、他省庁の官僚出身の“官邸官僚”の力が増す一方で、財務省は官邸にNOが言えない状態なのだろう。
佐川氏は今、政治の新たな“犠牲者”になりつつある。彼は“誰か”を守り通すという選択肢以外持ち得ていないようだが、今や一民間人であり、自由人。もう誰にも忖度する必要はない。もし本当のことをしゃべり始めたら、官邸からとんでもないバッシングを受けるかもしれない。しかし私自身がそうだったように、そのバッシングが、身動きの取れない呪縛を解く道につながることもある。
私も加計学園問題より以前、文科省天下り問題で国会に参考人招致されたときは、まだ役人体質を引きずっていた。政権を守るために忖度もしなければならないと思っていた。でも、そうした一切の未練が吹っ切れたのが、(加計学園獣医学部の新設の認可に関して、前川氏が会見を開く3日前に掲載された)読売新聞の記事。「官邸はこういうやり方をするのか。ならばもう何の気遣いもいらない」と、逆にすっきりした。だから佐川氏も本当のことを言えば、楽になれる。

(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2018年3月30日号

内閣支持9ポイント急落38% 改ざん「首相に責任」66% 共同世論調査 - 東京新聞(2018年3月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201803/CK2018031902000124.html
https://megalodon.jp/2018-0319-0912-16/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201803/CK2018031902000124.html


共同通信社が十七、十八両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、安倍内閣の支持率は三、四両日の前回調査から9・4ポイント急落し、38・7%に落ち込んだ。不支持率は9・2ポイント増の48・2%で逆転した。森友学園への国有地売却に関する財務省の決裁文書改ざんで「安倍晋三首相に責任がある」との回答は66・1%に上り「責任はない」の25・8%を大きく上回った。
文書改ざんでは安倍政権の責任が厳しく問われており、国民の不信感が鮮明になった格好だ。麻生太郎副総理兼財務相の責任に関し「辞任すべきだ」が52・0%で「辞任する必要はない」は40・4%となった。
野党が国有地売却への関与を追及する安倍昭恵首相夫人について「国会招致が必要だ」が65・3%で「必要はない」は29・0%。佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官の証人喚問は「必要だ」が83・5%で「必要ない」は11・6%にとどまった。
「首相が退陣すべきだ」は43・8%で「必要はない」の47・6%を下回った。
二〇一二年の第二次安倍内閣発足後、共同通信世論調査内閣支持率が30%台となったのは四回目。最も低かったのは昨年七月の東京都議選後の調査で、支持率35・8%、不支持率53・1%だった。
今回、九月に実施される自民党総裁選に関し、次期総裁にふさわしい人を選ぶ質問で、石破茂元幹事長が25・4%でトップ。小泉進次郎筆頭副幹事長が23・7%と続いた。二月の調査で首位の首相は21・7%で三位に後退。岸田文雄政調会長6・4%、河野太郎外相2・9%、野田聖子総務相2・2%となった。
自民党憲法改正案を巡り、九条に自衛隊の存在を明記する首相の提案に対して賛成が39・1%、反対が47・0%だった。首相の下での改憲については賛成36・0%、反対51・4%だった。
政党支持率は、自民党が前回比3・3ポイント減の36・2%、立憲民主党は0・4ポイント増の11・5%となった。希望の党は1・0%、公明党は3・2%、民進党2・8%、共産党2・9%、日本維新の会3・1%、自由党0・4%、社民党1・1%。「支持する政党はない」とした無党派層は36・5%だった。

◆責任押し付け強い不信 「昭恵氏招致必要」65%
共同通信社世論調査での内閣支持率急落は、森友学園を巡る決裁文書改ざん問題で、安倍晋三首相の姿勢に国民が不信感を抱いたことを物語る。当時財務省理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官に責任を押し付けて沈静化を図ろうとしても、疑念の払拭(ふっしょく)は難しい。
世論調査結果からは、首相と妻昭恵氏の言動を問題の根幹だとみる意見が多いことが分かる。麻生太郎財務相の辞任を求める声が52%だったのに対し、首相の責任とする回答、昭恵氏の国会招致が必要とする声はいずれも65%を超えた。
首相は昨年二月、森友問題に関し「私や妻が関係していたとなれば、首相も国会議員も辞める」と国会で言明した。改ざんは首相答弁に合わせるために行われたと野党は追及している。財務省が国有地を格安で売却する経緯の中で、森友学園と親しい昭恵氏の存在を意識していたことも決裁文書から明らかになった。
にもかからず、安倍政権は佐川氏を改ざんの最終責任者に位置付けようとしている。政治家の指示や了承なしに、官僚の独断で改ざんできるのかとの疑問を世論は抱いている。首相が十九日の参院予算委員会の集中審議で、国民の納得する説明をできなければ、昭恵氏の国会出席を求める声はさらに強まるだろう。
支持率急落で、首相の「一強」には陰りが生じた。自民党の次期総裁にふさわしい人でも三位に順位を下げた。九月の総裁選で党員票も含めた圧勝を目指していたが、戦略練り直しは不可避になった。
悲願の改憲に向けた視界も不良になった。改ざん発覚後、公明党日本維新の会の熱が冷めつつある。野党は首相の責任追及へ攻勢を強めている。衆参両院の憲法審査会で、改憲議論が進む環境が整う可能性は低くなった。 (篠ケ瀬祐司)

毎日新聞世論調査 森友問題、首相を直撃 国会審議瀬戸際 - 毎日新聞(2018年3月19日)

https://mainichi.jp/articles/20180319/k00/00m/010/149000c
http://archive.today/2018.03.19-001312/https://mainichi.jp/articles/20180319/k00/00m/010/149000c


毎日新聞の17、18両日の全国世論調査安倍内閣の支持率は33%に急落した。共同通信など他社の調査も同様の傾向を示し、政府・与党の危機感は強い。これまで支持率の「復元力」で政権を維持してきた安倍晋三首相だが、学校法人「森友学園」の問題は首相自身を直撃している。国会で十分に説明できなければ、秋の自民党総裁選の行方は一気に不透明になる。
「とても残念だ。深刻に受け止めている。信頼を回復するには、国民が納得できるような調査結果を麻生太郎副総理兼財務相が出すことだ」。野田聖子総務相は、支持率急落の最大の要因とみられている財務省の文書改ざん問題への明確な説明が必要だと強調した。
公明党山口那津男代表は「決裁文書の書き換え問題が影響していることは明らかだ」と指摘したうえで、「厳しい結果で、政府・与党は真摯(しんし)に受け止め、誠実に対応していかなければならない」と語り、国民への説明に尽力する必要があるとの認識を示した。
首相官邸の幹部は「大変だ。財務省がなぜ隠したのか昨年の段階で本当の事を全て明らかにすべきだった」と漏らした。
首相は第2次政権発足時から政権を支えてきた麻生氏を守る姿勢を崩していないが、今回の調査で麻生氏は「辞任すべきだ」と答えた人は54%と過半数だった。
責任の所在については、安倍首相に「責任がある」との回答が68%に上っており、文書改ざんは財務省の問題にとどまらず、首相を直撃する問題であることが数字でも裏付けられた形だ。
当面は19日の参院予算委員会の集中審議や国有財産管理の担当局長だった佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問などを通じて、どこまで問題の核心が明らかになるかが焦点となる。
財務省はこれまでの審議で、改ざん事実について、佐川氏は「知っていた」と説明した。また、「政府全体の答弁は気にしていた」と首相の答弁などが影響を及ぼした可能性を否定しなかった。
決裁文書の改ざんは誰の指示で、なぜ起きたかについて、新たな説明がなければ、政府はさらに厳しい立場に追い込まれることになりそうだ。
一方、野党側は森友学園の前理事長夫妻と親交があった首相の妻昭恵氏の国会への招致を求める姿勢を強めている。毎日新聞の調査で、昭恵氏を国会に「招致すべきだ」と答えたのは63%と、昭恵氏の説明に国民が高い関心を持っていることが浮き彫りになった。首相は、自身や昭恵氏が森友学園への国有地売却に関与した疑惑を否定しているが、希望の党玉木雄一郎代表は「(支持率低下は)国民の不信感の表れだ。佐川氏だけではなく昭恵氏の証人喚問が必要というのも国民の声だ」と語った。
立憲民主党福山哲郎幹事長は18日のフジテレビの番組で昭恵氏については「秘書(昭恵氏付政府職員)が財務省に問い合わせまでしていた。(前理事長の)籠池泰典氏との証言が食い違っているので、国会に出てくれば国民の疑惑が晴れるのではないか」と述べ、昭恵氏の国会招致を求めた。福山氏は、学園側との土地売買交渉時に財務省理財局長だった迫田英典氏の証人喚問が必要とも主張。同番組で共産党小池晃書記局長は、昭恵氏付だった政府職員の招致も求めた。【田中裕之、遠藤修平】

支持率反転の材料なく
安倍内閣の支持率が不支持率を下回った例は過去にもある。昨年6月調査では、学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題や、「共謀罪」法を巡る与党の強引な国会運営で支持率が10ポイント下落。自民党が惨敗した東京都議選をはさんで7月には26%まで落ち込んだ。集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制に批判が高まった2015年7月から10月にかけても支持率は30%台で推移した。
ただ、いずれもその後に支持率は回復した。昨年の衆院選前に結成された希望の党が、当時代表だった小池百合子都知事の不用意な言動であっけなく失速したように、野党の力不足に助けられた面はあるにせよ、安倍内閣は一定の危機管理能力を発揮したといえる。
今回、ある程度の下落は政権内で織り込み済みだったとはいえ、18日までの毎日新聞朝日新聞日本テレビなどの調査結果をみると、財務省が決裁文書14件の書き換えを国会に報告した12日以降、政権への逆風が強まったことがわかる。自民党内では「これまで野党の自滅で目立たなかったが、安倍政権はゆっくり下り坂だ。もう旬は過ぎた」という声も出始めた。
確かに、反転攻勢の材料は乏しい。首相が今国会で目玉にしようとした働き方改革関連法案は、厚生労働省の不適切なデータ比較が発覚し、経済界が期待していた裁量労働制の対象拡大をあきらめざるを得なくなった。法案は閣議決定すらできていない。
首相は昨年10月に衆院選に踏み切ったばかりで、局面打開のための解散も打ちにくい。自民党は依然、支持率で野党を大きくリードしており、同党のベテラン議員は「反省すべきは党ではなく安倍さんだ」と首相の求心力低下を指摘する。
米国、韓国が北朝鮮との首脳会談に乗り出すのに合わせて、首相が日朝首脳会談を探るのではないかという観測もあるが、野党は「『困ったときの北朝鮮』は国民に見透かされる」(共産党幹部)と冷ややかだ。
「麻生財務相を守ろうとするほど政権のダメージになる」(与党幹部)としても、首相は盟友の麻生氏を簡単に辞任させられない。党内第2派閥の麻生派から首相に不満が出たら、総裁選での3選戦略に影響するためだ。しかし、総裁選を乗り切っても来年は統一地方選参院選が控える。党重鎮は「選挙がまずいという雰囲気になれば、党内に動きが出てくるだろう」と予測する。【高橋恵子、松倉佑輔】

全国で抗議サンデー 「森友文書」改ざんに怒りの声 - 東京新聞(2018年3月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201803/CK2018031902000115.html
https://megalodon.jp/2018-0319-0915-11/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201803/CK2018031902000115.html


森友学園」に関する決裁文書の改ざんに抗議する集会が十八日、東京都内や金沢市大阪市で開かれた。集まった市民からは、国有地売却に安倍晋三首相や昭恵夫人の関与はなかったと政権側が早々に結論付けようとしているとして「うそつき内閣に政治をやる資格はない」などと怒りの声が相次いだ。
東京都新宿区のJR新宿駅西口前は、「アベ政治を許すな」「退陣を」などと書かれたプラカードを掲げた市民らでごった返した。登壇した野党議員が「どんな政治的圧力があったのかを究明しないといけない」と声を張り上げると、拍手が起きた。
北区の奥平亜希子さん(37)は「官僚だけの判断で書き換えたとはどうしても思えない。野党はしっかり追及してほしい」。新宿区の羽豆俶江(はずよしえ)さん(82)は、不祥事の責任を押し付けられた財務省の官僚が「気の毒だ」とし、「安倍内閣はけじめをつけるべきだ」と総辞職を求めた。
金沢市のJR金沢駅前では、十数人が安倍首相の顔写真に「うそつき辞めろ」などと書いたプラカードを掲げた。シュプレヒコールなどを上げない“無言の抗議”で、石川県内の二十〜三十代を中心とした有志団体がツイッターなどの会員制交流サイト(SNS)で参加を呼び掛けた。
大阪市では約六百人がメインストリートの御堂筋などを約一時間半かけてデモ行進。森友が開設を目指した小学校の建設予定地は大阪府豊中市にあり、参加者からは「森友問題の発端は大阪だ」と松井一郎知事の説明を求める声も上がった。

街頭デモに野党合流 市民団体「もう一回、国会前に」 - 朝日新聞(2018年3月19日)

https://www.asahi.com/articles/ASL3L6VMDL3LUTFK009.html
http://archive.today/2018.03.19-001534/https://www.asahi.com/articles/ASL3L6VMDL3LUTFK009.html

18日午後の東京・新宿駅西口。「安倍内閣は退陣を!」のプラカードを掲げた聴衆が駅前の歩道を埋め尽くした。立憲民主党長妻昭代表代行がマイクを握り、「自民党は『佐川事件』と命名したそうだが、トカゲのしっぽ切りで終わらせていいのか。徹底的にうみを出し、真相を究明する。これが絶対に必要だ」と声を張り上げた。
街頭演説会に出席した共産党志位和夫委員長は演説後、「(内閣支持率は)どんどん下がると思う。安倍首相は(文書改ざんの)真相究明に誠実な対応を示し、全面的に協力すべきだ」と記者団に強調した。
主催したのは、3年前に安全保障法制に反対する国会前デモを率いた学生や学者たちだ。解散した学生団体SEALDs(シールズ)の中心メンバーだった奥田愛基さんは演説で、「安倍政権に賛成とか反対とかのレベルじゃない。2015年の時のようにもう一回国会前に集まろう」と呼びかけた。

エンゲル係数、なぜ高い 首相「食生活変化」 野党「生活苦しく」 - 東京新聞(2018年3月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201803/CK2018031902000121.html
https://megalodon.jp/2018-0319-0916-59/www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201803/CK2018031902000121.html


家計の支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数が高止まりしている。二〇一八年春闘トヨタ自動車など一部の大手企業は賃上げを決めたが、中小企業の交渉はこれからがヤマ場だ。食品価格が上昇を続ける中、十分な賃上げが実現しなければエンゲル係数はさらに上がり、国民の生活は苦しくなる。 (白山泉)

◆魚、肉が上がる
総務省によると、二人以上の世帯の一七年のエンゲル係数は25・7%。前年より0・1ポイント下がったが、安倍政権が始まった一二年と比べると2・2ポイントの上昇となった。一六年以降は一九八七年(26・1%)に近い高水準が続く。
野党は一月三十一日の参院予算委員会で高いエンゲル係数について「生活が苦しくなった証拠だ」と政府を追及した。だが安倍晋三首相は「(上昇には)食生活や生活スタイルの変化が含まれる」と答弁。雇用改善などアベノミクスの成果を強調して切り返した。

ではエンゲル係数の上昇要因は何か。本紙は一二〜一七年の2・2ポイント分の上昇に関し、みずほ証券の末広徹氏に分析を依頼した。
その結果、まず食品の値上がりでエンゲル係数は2・2ポイント分上昇。さらに収入が増えない中、多くの世帯が全体の消費を減らし支出に占める食費の割合が高まったことで0・3ポイント分上がった。家計は安い食品を選ぶ節約で0・3ポイント分を引き下げたが、差し引き2・2ポイント分、係数は上がった。

政府や日銀が重視する「生鮮食品を除く物価」は一二〜一七年で3・7%上昇。だが食品価格はこの上昇率を超えて上がり、魚介類は23・1%、肉類は16・6%値上がりした。飼料や燃料費の上昇、人手不足などが重なった影響だ。末広氏は「多くの家庭が『生活は厳しい』と感じている」と指摘する。

◆調理食品増え
安倍首相はエンゲル係数の上昇要因に関し「食生活や生活スタイルの変化」を挙げた。では食生活の変化は、国民が豊かになったことを示しているのか。
この五年で目立つ食生活の変化は総菜や弁当など「調理食品」への支出増だ。二人以上の世帯の一七年の調理食品への支出は月平均九千六百三十五円で、一二年より14・7%増えた。これを「『食』の選択肢が増えて豊かになった」と解釈することも可能だが、末広氏は「家事に時間をかけにくい共働き世帯がコンビニなどで調理食品を買うことが増えた。自ら料理する余力がない高齢者も調理食品を買っている」とみる。
しかもこの五年で調理食品は9・4%値上がり。東京都品川区の男性(70)は「即席ご飯と缶詰が主食だよ。肉や魚は高いから買わない。年金は増えないし不安だ」と話す。
一二〜一七年には外食費が7・1%増える「食生活の変化」もあった。だが主に外食費を増やしたのは、10・4%増だった高所得世帯(一七年の年収八百二十二万円以上)。低所得世帯(同三百二十七万円以下)の外食費は0・5%増にとどまった。浮かび上がるのは外食を控えて節約する低所得世帯の姿だ。食品価格がさらに上がれば、生活は一段と圧迫される。

(私説・論説室から)手薄な「住まい保障」 - 東京新聞(2018年3月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2018031902000127.html
https://megalodon.jp/2018-0319-0919-22/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2018031902000127.html

東日本大震災から七年を迎えたが、なお約七万三千人が避難生活を送っている。住む場所の確保は、生活再建の前提だ。被災はあらためて生活の基盤としての住居の重要性を痛感させる。
住まいの大切さは被災時に限らない。一月に札幌市の共同住宅「そしあるハイム」で十一人が死亡した火災では、施設が生活困窮者や高齢者の“避難所”になっていた。施設の防火態勢が問題となったが、安心して住める場所がないことこそが問題である。
自立した生活に必要なものは、まず健康、仕事、そして住まいではないだろうか。健康を支えるために医療や介護サービスがある。次に生活の糧を得る仕事が不可欠だ。失業時やけがを負った際に生活費を得たり、ハローワークで仕事の紹介を受けたり職業訓練を受けられる制度が整っている。
だが、住まいを保障する制度は手薄と言わざるを得ない。欧州は社会政策と位置付けて住まいを整備してきたが、日本では基本的に自助努力が求められてきた。自力で確保できない人は行き場がなくなりかねない社会だ。
安心できる住まいは基本的人権であるという「居住福祉」の考え方がある。ならば社会保障制度がもっと居住支援を担ってもいい。政府は、高齢者の在宅生活を支える医療・介護を提供する仕組みづくりを進めるが、まず住まいがないと住み続けられない。 (鈴木 穣)

強制不妊手術の全国調査 柔軟に幅広く実態把握を - 毎日新聞(2018年3月19日)

https://mainichi.jp/articles/20180319/ddm/005/070/019000c
http://archive.today/2018.03.19-001827/https://mainichi.jp/articles/20180319/ddm/005/070/019000c

あまりに遅きに失したとはいえ、旧優生保護法に基づく強制不妊手術の実態調査に国が乗り出す。その歴史的意義は認めたい。
旧厚生省の記録では強制不妊手術をされた人は1万6475人に上るが、資料が残っている人は2割に過ぎない。医師や家族などの関係者が死亡している人も多いだろう。
同法が廃止されてもう22年。記録がなくても、不妊手術された可能性のある人は幅広くリストアップし、救済の対象にすべきだ。
障害者らに対する強制不妊手術はこれまでにも何度か人権侵害だとして問題化されたことがある。だが、国の責任の追及や手術をされた人の救済にまではつながらなかった。
この問題が急展開したのは、今年1月に宮城県内の女性が初めて国を提訴したことや、毎日新聞の報道がきっかけだ。今月には救済に向けた議員立法を視野に超党派議員連盟も設立された。
ただ、民法の損害賠償請求権が20年で失われるなど、救済を阻む壁は高い。不妊手術を裏付ける資料がない人はどうするか、本人の同意の有無をどう確かめるかも難問だ。
宮城県は提訴した女性について、手術痕が確認できる、手術を推測できる資料がある、本人の証言に整合性がある、ことなどから事実を認める方針という。
被害者の多くは判断能力やコミュニケーション能力にハンディのある知的障害者だ。明確な証言ができない人は多いだろう。たとえ手術に同意があったとしても、どこまで不妊手術の意味を理解した上での同意かはわからない。9歳の女児まで手術をされていた記録がある。
家族が医療機関に連れて行ったケースも多いと思われるが、障害者が身内にいることで地域や親戚から差別や偏見の目で見られていた家族も多かった。障害者が性被害にあい、やむなく堕胎手術や不妊手術をした人も決して少なくはない。
二重にも三重にも理不尽な状況に置かれ、沈黙を強いられながら歴史にうずもれていたのである。
全国調査では、記録の有無にこだわらず、本人の証言や周囲の状況なども含めて柔軟に行うべきだ。被害者の高齢化も考え、できるだけ迅速な調査が必要だ。

木村草太の憲法の新手(76) 森友文書改ざん 解明は公共関心事、秘密漏えいに該当せず - 沖縄タイムズ(2018年3月18日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/224345
http://web.archive.org/web/20180318040947/http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/224345

3月2日の朝日新聞のスクープ以降、森友文書改ざんを巡る問題は収束する気配を見せない。問題の解明は、まだまだこれからだろうが、2点ほど指摘しておきたい。
まず、朝日新聞に文書改ざんの情報を伝えた者について、秘密漏えいの犯罪だとする声がある。確かに、今回の文書改ざんの事実は官僚からリークされた可能性もある。国家公務員法100条は「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」と定め、同法109条12号により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。また、同法111条により、秘密漏えいをそそのかした者にも同様の罰が科される。
しかし、ここに言う「秘密」は、単に秘密指定された情報すべてが該当するわけではない。最高裁は、「実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいう」と解釈している。
公文書が改ざんされた事実は、重大な公共関心事であり、これを実質的な秘密と解するのは妥当ではない。情報リーク者を犯罪者扱いしたり、「犯人捜し」に興じるのは、ばかげている。
次に、改ざんの時期や動機について、政府の説明は、極めて不可解だ。12日、麻生太郎財務大臣は、文書書き換えの時期を2017年2月下旬以降とした上で、佐川宣寿理財局長(当時)の答弁と決裁文書に齟齬(そご)があり、「誤解を招くということで佐川の答弁に合わせて書き換えられた」との認識を示した。
しかし、朝日新聞森友学園の初報は、17年2月9日だ。国会議事録によれば、佐川氏がこの問題について初めて答弁した2月15日には、既に大きな問題になっていた。この問題について答弁に立つ大臣や局長が誠実な答弁をしようとするなら、決裁文書を見て事案の概要を把握していなければおかしい。そして、麻生大臣の説明が正しいならば、この時点では、まだ決裁文書は書き換えられていない。
つまり、麻生大臣や安倍首相は、書き換え前の決裁文書を見て、籠池泰典氏が、安倍昭恵氏から「『いい土地ですから、前に進めてください』とのお言葉をいただいた」と述べていたことや、一緒に並んだ写真を提示していたことを知っていたはずだ。安倍首相や麻生大臣は、目の前で佐川局長が、「交渉経緯の分かる記録は残っていない」とか、「価格につきまして、こちらから提示したこともございませんし、先方から幾らで買いたいといった希望があったこともございません」と答弁するのを聞いて、おかしいと気づけたはずだ。その場で、訂正したり、調査を指示したりできたはずだろう。
改ざんが17年2月下旬以降だったという政府の説明を前提にすると、安倍首相も麻生大臣も、むしろ、積極的に情報を隠蔽(いんぺい)しようとしていたとしか評価できない。その責任はあまりに重大だ。また仮に、17年2月中旬の段階で、安倍首相や麻生大臣が問題の契約の決裁文書を確認しなかったというなら、あまりにも無責任な話で、責任はより一層重大だ。
今回の事件を官僚の責任問題で終わらせることはできない。安倍首相と麻生大臣は、いつ決裁文書を確認したのか。その解明が必要だ。(首都大学東京教授、憲法学者

◆3月27日に那覇市で講演会
沖縄タイムス社は27日、木村草太氏の講演会「沖縄で考える憲法の未来」を開催します。講演は同日午後7時から、那覇市久茂地のタイムスホールで。入場無料。

(大弦小弦)私が校長なら縮み上がっていたはずだ… - 沖縄タイムズ(2018年3月19日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/224527
https://megalodon.jp/2018-0319-0922-01/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/224527

私が校長なら縮み上がっていたはずだ。名古屋市立中学校が文部科学省前川喜平事務次官を授業に招いたことについて、同省がメールで詳細な報告を求めていた

天下り問題による引責辞任、出会い系バーへの出入り報道を列挙。「どのような生き方を学ぶのか」「どのような判断で依頼したのか」「具体的かつ詳細に」と畳みかける

▼メールを出した課長補佐にとって事務次官は最高レベルの上司。だが、加計学園問題で政治介入を証言した前川氏は「安倍政権の敵」「裏切り者」になった。組織の論理で言えば、追及は当然なのかもしれない

▼校長の方は返信で「私がじかにお会いして感じた前川さんの人となりから判断した」と講演依頼の理由を説明した。記者会見でも騒動を「自然体で受け止めている」と淡々。文科省の介入が強まる教育界でも、行動に自信があれば責任を引き受けられる

▼前川氏は在職中の八重山教科書問題で、政権の圧力をかわして竹富町が独自に教科書を選ぶ道を開いた。本紙取材に「面従腹背」という言葉を使い、職業的良心に基づいた行動だったと明かしている

▼名古屋での授業では「考える力を身につけて」と語った。生徒は講演内容だけでなく、前川氏と校長の振る舞いからも、組織の論理と、それに埋没しない個人の勇気を学んだに違いない。(阿部岳)

前川氏の授業調査 国は「不当な支配」やめよ - 琉球新報(2018年3月19日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-684839.html
http://archive.today/2018.03.19-002339/https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-684839.html

国による過剰な干渉であり、明らかに教育の自由を脅かす行為だ。
前川喜平前文部科学事務次官が2月に名古屋市立中学校で講演した授業について、文科省が市教育委員会にその内容を子細に問いただすメールを送っていた。個別の授業内容調査は異例で、学校への圧力と指摘せざるを得ない。
この要請の前に、地元の自民党衆院議員が文科省に複数回問い合わせていたことも判明し、教育への政治介入の懸念も出てきた。教育行政の在り方も問われよう。
現場を萎縮させるような不当な調査は慎むべきで、文科省は今回の動機や経緯を明らかにする責任がある。
文科省は質問15項目をメールで送付し、目的や経緯、人選の妥当性などを根掘り葉掘り尋ねている。録音データの提出も求めた。市教委が回答した後も再度質問しており、その執拗(しつよう)さは尋常ではない。直接の命令ではなく、問い合わせという形で圧力を掛けるのも卑怯(ひきょう)なやり方だ。
前川氏が文科省の組織的天下り問題で引責辞任した後、加計学園問題に関して「行政がゆがめられた」と発言し、安倍政権を批判していることも調査した理由なのだろう。
介入の背景に政治家の影が疑われるのなら、再び「行政がゆがめられた」ことになってしまう。
林芳正文科相は問題はなかったとの認識を示し、「必要に応じて事実関係を確認するのは通常のこと」と主張している。教育行政トップとして認識が甘過ぎる。
戦前は国家が教育に深く介入し授業内容を統制した。各教科で軍事色が強く打ち出され、皇民化教育を推し進めて、戦意高揚をあおった。
その反省を踏まえ、戦後の教育基本法は、教育が「不当な支配に服することなく」と規定して、教育権の独立をうたっている。それに照らすと今回の調査はまさに「不当な支配」そのものではないか。
地方教育行政法文科省が教委を調査できると定めている。だが、法令違反やいじめなど緊急の対応が求められる場合に限られる。
学校教育は現場の自主性や裁量に任せるのが本来の姿である。国家権力は極力、口を挟まない方が望ましい。
教育基本法は2006年に全面改定された。「個人」よりも「国家」に重きを置く基調が強まった。愛国心も法律で規定した。
多様性や異論を認めない国家中心主義が今回の問題の土壌にあるとしたら、警戒を強めなければならない。
そもそも前川氏の講演は、天下り加計学園がテーマではなかった。自らの不登校経験や学ぶ力の大事さ、多文化共生社会など、中学生に生き方を説く内容だ。
多様な経歴を持つ大人の話を聞くのは、生きる力を培う上で大事なことだ。文科省はむしろ、こうした現場の取り組みを推奨すべきであろう。

夜間中学語る会に前川氏 セーラー服歌人と「学び」語る - 朝日新聞(2018年3月19日)

https://digital.asahi.com/articles/ASL3K01SYL3JUTIL078.html
http://archive.today/2018.03.19-002512/https://www.asahi.com/articles/ASL3K01SYL3JUTIL078.html

学習する機会を十分得られなかった人々が通う「夜間中学」。その大切さを語り合う会が18日、千代田区専修大学で開かれた。登壇したのは前文部科学事務次官前川喜平さんと、学びたくても学べない人がいることをセーラー服を着ることで訴える歌人の鳥居さん。2人を結びつけたのは夜間中学への思いだった。
前川さんは在任中、夜間中学の充実を目指す「教育機会確保法」の制定に関わった。「天下り」問題で辞職時に全職員に送ったメールでも「就学機会の整備が本格的に始まることは、私にとって大きな喜び」とふれた。いま神奈川、福島両県の自主夜間中学でボランティアの講師をしている。
鳥居さんは「小学生のとき、母を自殺で亡くし、児童養護施設で虐待を受け、学校に行けなかった」と語る。中学にほとんど登校していなくても卒業認定されたことを理由に、自治体の夜間中学に受け入れてもらえなかった。だが、2015年に文科省が通知を出して入学が可能になり、夜間中学に通っている。
鳥居さんは昨春、前川さんの退職時のメールを読み、会いたいと思うようになった。一方、前川さんは昨秋、鳥居さんを知るバーの主人から歌集を渡されて鳥居さんの思いを伝えられ、やはり会って話したいと思った。そのことを知った憲法を考える市民グループ「Feel9(フィールナイン)」のメンバーが引き合わせ、今回の会を企画し主催した。
会では、鳥居さんが〈慰めに「勉強など」と人は言う その勉強がしたかったのです〉という自作を紹介。「中学生としての日常は無理だが、勉強だけでも取り戻したいと夜間中学に通っている」と語った。
前川さんは「学校に行きたくても行けない人を文科省は見て見ぬふりをしてきた」とし、「国はすべての人に無償の普通教育を保障すべきだ」と話した。
前川さんの名古屋市立中学校での講演をめぐり、文科省が市教育委員会に内容を問い合わせ、録音データの提供を求めていたことも話題になった。
鳥居さんが「文科省、最近、ちょっとこわい」と言うと、「きょうはいないんじゃないですか」と前川さん。会場から笑いが起きた。前川さんはその中学校での授業について紹介。夜間中学は何かを説明し、さらに「大人の言うことを信じちゃいけない。自分の頭で考えることが大切だ」と呼びかけたと話した。(編集委員・氏岡真弓)

入試英語改革 東大の重い問題提起 - 朝日新聞(2018年3月19日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13409357.html
http://archive.today/2018.03.19-002629/https://www.asahi.com/articles/DA3S13409357.html

民間の英語検定試験を合否判定に使うのは拙速ではないか。センター試験の後を継ぐ「大学入学共通テスト」に、東京大がそんな疑問を投げかけた。
新テストは20年度から始まる予定だ。来月には最初の受験生となる世代が高校に入学し、どんな授業をするかの模索も始まっている。そんな状況での異議申し立てに批判も出ている。
しかしこの間、政府が入試改革を急ぐ陰で、高校や大学の不安が置き去りにされてきたのは確かだ。新テストの大枠が決まった昨年春、朝日新聞は社説で準備不足を心配したが、解消されたとは言いがたい。
今からでも遅くない。文部科学省は現場からの問題提起を重く受けとめるべきだ。
民間試験は、従来の「読む」「聞く」に加えて「話す」「書く」を課すために導入が決まった。この4技能の大切さについてはおおかたの異論はない。
東大が訴えるのは「公平・公正の担保」への疑問だ。
五神真(ごのかみまこと)総長は、とりわけ話す力は「学生の育つ環境によるばらつきが大きい」という。授業だけでは身につきにくく、海外生活や留学の経験者、英会話教室などにお金を使える家庭の子が有利になる。さらに年に数回ある民間試験を「お試し」で受けられるかどうかで、差がつくともいわれる。
そもそも民間試験は複数の業者や団体が実施していて、留学用やビジネス向けなど目的も難度もまちまちだ。異なるテストを使って、受験者の力を公平に比べることができるのか。文科省は可能との立場だが、「身長と体重を同じ指標で測るようなもの。科学的ではない」といった指摘も多い。
こうした疑問を積み残したまま、導入に踏み切ってよいものか。ためらう大学は東大だけではないだろう。
入試は大学が自らの教育方針に沿って選抜方法を決めるのが原則だ。国公私立を問わず、民間試験にどれくらい信頼を置くかによって、自主的に配点の割合を決めればよい。認識が変われば周知期間を確保してその割合を変えてもいいし、使わない判断があってもいい。
そのうえで、関係者は改善策の検討を続けるべきだ。公平さを重視する観点から、時間や経費がかかっても国が独自に試験を開発すべきだ、という声も根強くある。
多くの人が納得する仕組みをつくるのは容易ではない。それでも、現場の声に耳を傾け、見直しを重ねることで、難題の答えを探らなくてはならない。