待機児童 甘い予測で解消できぬ - 東京新聞(2017年6月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017060502000135.html
https://megalodon.jp/2017-0605-1659-39/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017060502000135.html

認可保育所に入れない待機児童をなくす安倍政権の目標期限が三年先延ばしされる。働く女性が増え、保育需要に追いつかなかったためだというが、公約を守れなかった政府の責任は重い。
安倍晋三首相は待機児童解消のための新プランを発表した。二〇一八年度から三年間で新たに二十二万人分の保育の受け皿を増やし、働く女性が増えると見込んで二二年度末までにさらに十万人分、計三十二万人分を増やす方針だ。
一三年に発表した計画では五十万人の受け皿を整え、一七年度末までに解消を目指す約束だったが、都市部の保育需要に追いつかなかったという。
政府や自治体の保育政策は見通しが甘く、対策が不十分だったと言わざるをえない。国の基準を満たした認可保育施設に申し込んでも入れない待機児童は、昨春時点で全国に二万三千五百人余。東京二十三区だけで約五千人に上る。
注目すべきはその七割が一、二歳児で占められている点だ。かつては出産後に退職する女性が多かったが、今や若い世代は共働きが主流で、産休や育休を経て働き続けたいと望む人が多い。
にもかかわらず、一、二歳児の場合は保育士の配置に経費がかかることなどから、定員を増やしている今でも認可保育所の入所枠は限られている。新たなプランでは一、二歳児の定員を具体的に示さなくては意味がないだろう。
保育施設を増やしている自治体では用地確保に苦労し、新設しても勤務のきつさや低賃金などから保育士が集まらなかった例もある。政府は一七年度から保育士の給与を平均六千円程度引き上げるなど待遇改善を進めているが、この程度では効果は限られる。用地や保育士のために財源をどう確保するのか具体的に検討すべきだ。
保護者が育休中の場合などに計上されない「隠れ待機児童」も六万人を超えるといわれる。親たちの批判を受けて厚生労働省は一八年度から育休中でも復職の意志があれば待機児童に含めると定義を見直した。待機児童はゼロだと発表した自治体も、来年度以降は大きく膨らむ可能性がある。
現実を直視することからしか問題の解決は始まらない。子どもの成長を支える保育の場をどう整えていくのか、待機児童は数の問題としてだけでなく、質の問題としても、もっと語られるべきだ。そうでないと子どもを預けられずに苦しんでいる親たちの納得は得られない。


いま読む日本国憲法(48)第79条 最高裁裁判官 国民が審査 - 東京新聞(2017年6月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/imayomu/list/CK2017060502000112.html
https://megalodon.jp/2017-0605-1658-38/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/imayomu/list/CK2017060502000112.html

最高裁判所の裁判官について定めた条文です。最も議論となっているのが二項の国民審査制度です。
国民審査とは、内閣が指名・任命する司法のトップメンバーが適切な人材かどうか、国民が判断する仕組みです。具体的には、衆院選の投票に合わせて実施します。有権者は、辞めさせたい裁判官の欄に「×」を付けて投票し、「×」が投票総数の半数を超えた裁判官は罷免されます。この制度で罷免された例はありません。「×」を付けずに投票する人が多いからです。
自民党改憲草案は、衆院選の際に国民審査を行うという規定を削り、審査方法は憲法ではなく法律で定めるとしました。草案Q&Aは「(現行)制度が形骸化しているという批判がある」と説明しています。
現行の二項は、一人の最高裁裁判官が十年ごとに国民審査を受けることも定めています。法律にした場合、同様の仕組みを導入しないと、問題のある裁判官を辞めさせられなくなるリスクがあると言えます。
六項は、下級裁判所の裁判官について定めた八〇条の二項と合わせ、裁判官の給与が在任中減額できないと規定しています。「司法の独立」を裁判官の待遇面から支えるためです。
自民党改憲草案は、裁判官の給与も一般の公務員給与の引き下げに合わせて減額できる規定を加えています。デフレや懲戒の場合に対応できないのは問題があるという理由です。

    ◇

憲法の主な条文の解説を随時掲載しています。

自民党改憲草案の関連表記(抜粋、(1)(4)は略)

(2)最高裁判所の裁判官は、その任命後、法律の定めるところにより、国民の審査を受けなければならない。

(3)前項の審査において罷免すべきとされた裁判官は、罷免される。

(5)最高裁判所の裁判官は、全て定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、分限又は懲戒による場合及び一般の公務員の例による場合を除き、減額できない。

首長の免責 住民と議会の重い責任 - 朝日新聞(2017年6月5日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S12972713.html?ref=editorial_backnumber
https://megalodon.jp/2017-0605-1656-35/www.asahi.com/articles/DA3S12972713.html?iref=comtop_shasetsu_01

京都市長は市の土地買収をめぐり2005年に26億円の賠償を命じられ、一部を払った。
神戸市議会は09年、市の外郭団体への補助金約50億円の返還を求められた市長らに対する賠償請求権を放棄した。
住民訴訟で、首長に高額な損害賠償を命じる判決が相次ぐ。そんななか賠償金額に上限を設け、それ以上は免責できる改正地方自治法が先週、成立した。
改正のポイントは二つだ。
ひとつは、首長や職員の賠償額の上限を条例で定められるようにすることだ。
首長らが高額な賠償請求を恐れ、思い切った政策判断をしにくくなりかねないと指摘されている。行政の過度の萎縮を防ぐ効果を期待できる。理にかなった判断だと評価する。
住民訴訟地方自治法に定められた裁判手続きで、住民個人が直接の不利益をこうむらなくても、行政のあり方をただすために起こせる。同様の仕組みのない国政に比べて、首長や職員はより厳しく責任を問われる立場にある。
むろん安易な免責は許されない。住民訴訟自治体を監視する役割を果たしてきたのは確かであり、法改正で住民訴訟の機能を損なうことがあってはならない。このため、上限額設定の要件を「重大な過失がないとき」としたのは当然だ。
上限額の目安は、国が政令で定める。国会審議では、会社法代表取締役らの賠償限度額を「年収額の6倍」としている例が紹介された。一案だろう。
改正の二つめのポイントは、議会が賠償請求権を放棄する議決をするときは、監査委員から意見を聴くことだ。
ただ、住民訴訟は監査請求を経たうえで提訴される。再び監査委員に意見を求めることに、どこまで意味があるのか。
国会審議では、民進党などが訴訟係属中の放棄を原則禁止するよう求めた。賠償責任をあいまいにしたまま放棄の是非を判断するのを避けるためにも、採り入れるべきだった。
分権をすすめる時代に、議会の行為を制限するのは極力避けるべきだと考える。一方で、参考人からは「首長と議会がなれ合っていれば違法行為のやりたい放題だ」との批判が出る実態もある。こうした安易な放棄議決だとすれば容認できない。
賠償請求権を放棄するなら、議会はその理由を説明し、広く理解を得る責任を負う。
安直な免責や無責任な請求権放棄を横行させないためには結局、住民が首長と議会を厳しくチェックしてゆくしかない。



加計問題での政府説明「納得できない」72%、JNN調査 - TBSNEWS(2017年6月5日)

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3070910.html
https://megalodon.jp/2017-0605-1019-30/news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3070910.html


安倍総理の友人が理事長を務める加計学園獣医学部新設を巡る問題で、政府側の説明に納得していない人が7割に上ることがJNNの世論調査でわかりました。
調査は6月3日と4日に行いました。
安倍内閣の支持率は、前の月より8.9ポイント下がって54.4%でした。支持率が55%を下回ったのは、去年の5月以来、1年1か月ぶりです。一方、不支持率は9.3ポイント増えて44.1%でした。
安倍総理の友人が理事長を務める加計学園獣医学部の新設を巡る問題では、野党は政府の「圧力」や「忖度(そんたく)」があったのではないかと指摘しています。政府は、「適切に手続きを進めている」などと説明していますが、こうした政府側の説明に「納得できる」と答えた人は、16%にとどまり、「納得できない」と答えた人が72%に上りました。
この問題を巡っては、「総理のご意向」などと書かれた文書について、政府側は「調査したが確認できなかった」としているのに対し、文部科学省の前川前事務次官が「本物だ」と証言し、説明が食い違っています。政府と前川氏のどちらの説明を信じるか尋ねたところ、「前川氏の説明」と答えた人が58%で、「政府の説明」と答えた人は19%でした。
共謀罪”の構成要件を厳しくした「テロ等準備罪」を新設する法案の賛否について、「賛成」が40%、「反対」が39%で、拮抗した結果となりました。
一方で、この法案を政府与党は今の国会で成立させる方針ですが、「この国会で成立させた方がよい」と答えた人は22%にとどまり、「この国会での成立にこだわる必要はない」と答えた人が73%に上りました。
女性皇族が結婚後も皇族にとどまる「女性宮家」について、認めるべきかどうか尋ねたところ、「認めるべき」と答えた人は70%、「認めるべきではない」は15%でした。

「共謀罪」崩れる政府根拠 「条約はテロ防止目的でない」 - 東京新聞(2017年6月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017060590070737.html
https://megalodon.jp/2017-0605-0932-25/www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017060590070737.html

国際組織犯罪防止条約TOC条約)締結のため、政府が必要であるとしている「共謀罪」法案をめぐり、各国が立法作業をする際の指針とする国連の「立法ガイド」を執筆した刑事司法学者のニコス・パッサス氏(58)が本紙の取材に、「条約はテロ防止を目的としたものではない」と明言した。三日にロンドン中心部で起きたテロなどを指し、「英国は長年TOC条約のメンバーだが、条約を締結するだけでは、テロの防止にはならない」と語った。さらに「新たな法案などの導入を正当化するために条約を利用してはならない」と警鐘を鳴らした。

政府は東京五輪パラリンピックに向けたテロ対策として、共謀罪の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案を成立させ、条約を締結しなければならないと主張。法案を参院で審議している。
パッサス氏は条約を締結する国が、国内の法律や制度を整備する際の指針を示した国連の立法ガイドを執筆した。
同氏はテロ対策に関して、それぞれの国に異なった事情があり、まずは刑法など国内の制度や政策を活用するものだと主張。条約はあくまで各国の捜査協力を容易にするためのものという認識を示した。
また、TOC条約については「組織的犯罪集団による金銭的な利益を目的とした国際犯罪が対象」で、「テロは対象から除外されている」と指摘。「非民主的な国では、政府への抗議活動を犯罪とみなす場合がある。だからイデオロギーに由来する犯罪は除外された」と、条約の起草過程を振り返りつつ説明した。
TOC条約を締結するため新法の導入が必要かとの問いには、「現行法で条約締結の条件を満たさなければ、既存法の改正か、新法の導入で対応しなければならない」と指摘。一方で「条約はプライバシーの侵害につながるような捜査手法の導入を求めていない」と述べ、条約を新たな施策導入の口実にしないよう注意喚起した。
さらに、当局に過剰な権力を与え、プライバシー侵害につながる捜査ができるようにすることを懸念するのは「理解できる」と発言。捜査の主体や手法、それらを監督する仕組みを明確にするよう助言した。

<Nikos Passas> 1959年2月、ギリシャアテネ生まれ。アテネ大やパリ第二大で法学などを学び、欧米各地の大学で犯罪学や刑事司法を研究。現在は米ボストンにあるノースイースタン大犯罪学・刑事司法学科教授。
国際組織犯罪防止条約TOC条約)> 「国際的で組織的な犯罪集団」の対策に向け、2000年11月の国連総会で採択。組織による重大事件の合意を犯罪とみなし、マネーロンダリング資金洗浄)などによる犯罪収益の没収や、犯人引き渡しなどでも相互協力するよう定める。「金銭的な利益その他の物質的利益」を目的とする集団を対象とし、テロについては全く触れられていない。今年4月時点で187の国・地域が締結しているが、日本は「条約を実施するための国内法が未成立」との理由で締結していない。

加計文書スクープを揉み消したNHK…“忖度メディア”だらけの現場に何が起きているのか? - 週プレNews(2017年6月5日)

http://wpb.shueisha.co.jp/2017/06/05/85897/

文科省の前のトップである前川喜平氏の証言で、官邸が文科省に「加計(かけ)学園の獣医学部新設を認可せよ」と迫る内部文書が、本当に存在したことが明らかに。

だが、この「前川の乱」の裏では、大手マスコミによる“忖度合戦”が展開されていた! 前川叩きに走った読売新聞、加計文書スクープを揉み消したNHK…その時、現場の記者たちは? 彼らの証言を集めた。

* * *

「官邸の最高レベルが言っている」「これは総理のご意向」

加計学園岡山市)が愛媛県今治市獣医学部を新設する計画をめぐり、文部科学省内閣府とのやりとりを記録していたとされる8枚の「怪文書」(菅義偉官房長官談)の存在を、朝日新聞(以下、朝日)がすっぱ抜いたのは5月17日のことだった。

ところが、世間はほとんど気づいていないが、NHKはその前夜である16日の夜9時台のニュースで、朝日に先んじてこの文書の存在をひっそりと報じていた。NHK記者はこう歯ぎしりする。

「誰も気づかないはずです。だって、『文科省の大学設置審議会が、獣医学部の新設に難色を示した』というニュースの中に紛らわすような形で、8枚の文書の件にサラッと触れただけなんですから。つまり、本来1面トップ級のスクープをわざと弱めて、目立たないように報道したというわけです」

別のNHK関係者がこう証言する。

「実はNHKは“加計文書”どころか、その存在を証言した前川喜平(きへい)前文科事務次官のインタビューも収録済みだったんです。文書を手に入れた記者は、現役の文科官僚ら複数の内部告発者から情報を得つつ、前川氏にも接触、実名での告発を促していたと聞いています。

しかし、局の上層部から圧力がかかり、結局、独自のスクープとして流すことができないままになってしまった。また、5月16日という絶妙のタイミングで、秋篠宮眞子さま婚約のスクープを入手したため、加計学園関連ニュースは、さらに影が薄くなりました」


前出のNHK記者はこう続ける。

「籾井(もみい)勝人前会長時代から安倍政権への忖度(そんたく)報道が横行し、それは今年1月より上田良一新会長になってからも続いている。官邸の圧力にからっきし弱いNHKとしては、あの報道の仕方ができるギリギリの線だったんです。ウチの夜9時台のニュースに文書がちらっと映り込んでいたことを知った朝日が、慌てて翌日朝刊の最終版に『総理の意向』と大見出しを打ちました」

NHKは17日の夕方に朝日スクープの追っかけという形で、このニュースを報じている。

「でも、それっきり。17日夕方の放送後、局上層部から『前川氏に取材して得たものは、一切放送するな』とのお達しがあり、まったく報道できなくなった。独自映像として持っていた前川氏への単独インタビューもお蔵入りのままです」(前出・NHK記者)

★「忖度メディア」はNHKだけではない! 『週刊プレイボーイ』25号(6月5日発売)「政権『忖度メディア』の現場記者に今、何が起きてるのか!?」では、前川前次官の出会い系バー通いをスクープした読売新聞、さらにTBSとテレ朝の忖度にも迫る!

メディア時評 際立つNHKの消極姿勢=浮田哲・羽衣国際大教授(メディア論)- 毎日新聞(2017年6月1日)

https://mainichi.jp/articles/20170601/ddm/005/070/007000c

加計(かけ)学園の獣医学部新設問題がメディアをにぎわしている。事の発端は5月17日の朝日新聞朝刊で、「新学部『総理の意向』」という見出しでこの問題を報じ、大きな反響を呼んだ。朝日新聞は18日朝刊でも実名と日付の入った別のメモを文部科学省の内部文書として載せたが、文書には「官邸の最高レベルが言っている」との記述があった。
この内部文書に関してはNHKが不可解なニュースを放送している。なんと朝日新聞が一連の報道をする前日16日深夜の「ニュースチェック11」で既にこの文書を紹介しているのである。ところがその際、「加計学園」の名前は出さず、「国家戦略特区」も「規制緩和」と言い換え、肝心の「官邸の最高レベル」という文字は黒塗りで消し、放送では全くそのことには触れなかった。「文科省は設置予定の獣医学部に課題があるとしている」というだけの地味な扱いだったが、この文書の持つ意味をNHKの記者たちが分からなかったとは到底思えないので、その報道姿勢が理解できない。
17日に朝日新聞が報じた文書についても、NHKは同日の正午のニュースで最初に取り上げたものの、ニュースの順番としては5番目の扱いで時間も2分46秒と短く、夜のニュースでも扱いは3番目以降。トップ項目はどのニュースも「眞子さま婚約」であった。
同日の民放のニュースを見てみると、テレビ朝日系の「報道ステーション」は文科省文書の問題を冒頭14分、TBS系「NEWS23」でも冒頭で8分30秒取り上げ、両番組とも獣医学部新設が突然認められたことについて安倍晋三首相に説明を求めていた。比較してみるとNHKの消極姿勢が際立っているように思える。
毎日新聞は5月26日の社説「もう怪文書とは言えない」で、文書の存在を認めた文科省前川喜平事務次官の国会招致を提言している。メディアが一致して政権に真相解明を求めていくためにも、NHKが批判性を持ったまっとうなジャーナリズムを実践することを切に願う。(大阪本社発行紙面を基に論評)

「気は優しくて力持ちの文科省に」次官、全職員へメール - 朝日新聞(2017年1月20日)

http://www.asahi.com/articles/ASK1N563DK1NUTIL031.html
https://megalodon.jp/2017-0525-0756-45/www.asahi.com/articles/ASK1N563DK1NUTIL031.html

文部科学省前川喜平事務次官が全職員にあてて送った「文部科学省の皆さんへ」と題するメールの主な内容は以下の

   ◇

本日、私は大臣から辞職を承認する辞令を頂戴しました。
文部科学省の皆さんが元気いっぱい仕事に打ち込めるようリードすべき立場の私が、このような形で退職することは、誠に残念であり申し訳なく思っています。
国家公務員法が定める再就職規制を遵守(じゅんしゅ)できなかったことは事実であり、文部科学省として深く反省し、しっかりと再発防止措置をとる必要があります。
私を反面教師として、二度とこのようなことが起こらないよう、職員の皆さんは遵法意識を徹底し国民の信頼回復に努めてください。
しかし皆さん、動揺したり意気消沈したりしている暇はありません。
一日たりともおろそかにできない大事な仕事があるからです。
文部科学省の任務は極めて重要です。私が考える文部科学省の任務とは、教育・文化・スポーツ・科学技術・学術の振興を通じて、誰もが明るく楽しくしあわせに人生を全うできる社会をつくること、未知なるものに挑戦し限界を克服し輝く未来へと前進すること、さらには自由で平等で平和で民主的で文化的な国をつくり世界の平和と人類の福祉に貢献することです。
そして、私が考える文部科学省職員の仕事は、子どもたち、教師、研究者、技術者、芸術家、アスリートなど、それぞれの現場でがんばっている人たちを助け、励まし、支えていくことです。
特に、弱い立場、つらい境遇にある人たちに手を差し伸べることは、行政官の第一の使命だと思います。
その意味でも、文部科学省での最後の日々において、給付型奨学金制度の実現の見通しがついたこと、発達障害や外国人の児童生徒のための教職員定数改善に道筋がついたこと、教育機会確保法が成立し不登校児童生徒の学校外での学習の支援や義務教育未修了者・中学校形式卒業者などのための就学機会の整備が本格的に始まることは、私にとって大きな喜びです。
一方で、もんじゅ廃炉と今後の高速炉開発に向けた取り組み、文化庁の機能強化と京都への移転、高大接続改革の円滑な実施など、数々の困難な課題を残して去ることはとても心残りです。
あとは皆さんで力を合わせてがんばってください。
そして皆さん、仕事を通じて自分自身を生かしてください。職場を自己実現の場としてください。初代文部大臣森有礼の「自警」の表現を借りて言うなら「いよいよ謀りいよいよ進めついにもってその職に生きるの精神覚悟あるを要す」です。
森有礼は「その職に死するの精神覚悟」と言ったのですが、死んでしまってはいけません。人を生かし、自分を生かし、みんなが生き生きと働く職場をつくっていってください。
ひとつお願いがあります。私たちの職場にも少なからずいるであろうLGBTの当事者、セクシュアル・マイノリティの人たちへの理解と支援です。無理解や偏見にさらされているLGBT当事者の方々の息苦しさを、少しでも和らげられるよう願っています。
そして、セクシュアル・マイノリティに限らず、様々なタイプの少数者の尊厳が重んじられ、多様性が尊重される社会を目指してほしいと思います。
気は優しくて力持ち、そんな文部科学省をつくっていってください。
いろいろ書いているうちに長くなってしまいました。最後まで読んでくれてありがとう。
それでは皆さんさようなら。
2017年1月20日 前川喜平