2007年5月17日参議院法務委員会

午前中に以下の参考人意見を聴取した。


1. 長沼範良上智大学大学院法学研究科教授は与党修正案を評価して以下の意見を述べた。

(1) 触法事件に係る調査
少年事件において事案の真相を解明することは、非行のない少年を誤って処分しないため、非行のある少年について個々の少年の抱える問題に即して適切な保護を施し、その健全育成を図るためにも不可欠の前提であり、さらに被害者を含む国民からの少年事件に対する信頼を維持するという観点からも極めて重要。触法行為の存否、内容、経緯、動機、背景事情について、少年保護事件の審判に必要・相当な範囲で情報を収集し、それらを踏まえて少年の資質に応じた処遇選択をすべき。現行法下では、警察の責務一般を定める警察法を根拠として任意の調査がなされているという実情。警察の責務一般を定めた規定のほかに個別の授権規定がない状態は好ましくなく、明示した根拠規定が存在することが望ましい。それに、現行のような任意の調査活動だけで、常に触法少年に係る非行事実の認定及び処遇選択にとって有益な情報が十分に収集できるか疑問。
警察の調査権限を明示するとしても児童相談所の調査を侵食するものではなく、むしろ警察による非行事実そのものの調査により福祉上の措置あるいは保護処分の要否の判断が一層適切になされるようになるものと考える。
修正案で配慮規定と付添人選任権が入った。これらに関連して、供述拒否権の告知をすべき、弁護士である付添人を質問に立ち会わせるべき、質問の過程を記録化すべき等の議論があるかもしれない。しかし、触法少年には刑事訴追の可能性がない。少年が正直に思っていることを話すということは調査の目的に合致する。保護者その他適切な者を立ち会わせるものとすることで、ありのままを語らせることに差し障りとなることも考えられる。仮に立ち会わせるとする場合であっても、法律家の在席が常に最善の選択とは言えない。供述採取の過程を記録化することについては、成人の刑事事件においてもなお試行の段階にあることなどからすると、直ちに法律に取り込むべき内容とは思われない。調査に当たり、少年の被暗示性、脆弱性等の特性について十分な理解をもって臨まなければならないが、警察内部の規則、通達等において十分配慮した内容が盛り込まれることを期待するし、警察官等が少年の特性を理解した上で調査に当たれるような人的体制を整えるべきである。

(2) 14歳未満の少年院送致
14歳未満の少年であっても、深刻な問題を抱える者については、早期に矯正教育を授けることが健全育成を期する上で必要かつ相当と認められる場合あり。現行の少年院法で定める年齢下限を撤廃すべき。ただ、少年院における矯正教育の実効性という観点からは一定の限界があるので、一応の目安として、早期の矯正処遇が特に必要とされる者の範囲をおおむね12歳以上とすることは、趣旨を実質的に損なうものではない。個別の少年の問題性に着眼しつつ、少年の健全育成にとって最も適切な処遇選択の可能性の幅を広げるためのものと位置付けるべきである。

(3) 保護観察中の遵守事項違反を理由とする少年院送致
虞犯通告の活用等のほか、更に遵守事項に積極的な機能を持たせる必要がある。新たに保護観察所長による警告、その申請による家庭裁判所の保護処分決定を設けることには大きな意義がある。重大な遵守事項違反を新たな審判事由とするものであるので同一の処分事由に基づく事後的な不利益変更ではない。少年法3条に掲げる少年の非行事由と並ぶものとして理解すべきであり、それ自体として当該少年の再非行のおそれを推認させるに足りるものであることを要すると解すべき。


2. 黒岩哲彦日本弁護士連合会子どもの権利委員会委員長は与党修正案も危険性があると以下のような意見を述べた。
日弁連は、今回の法案の提案理由とされている少年事件の低年齢化、凶悪化に理由がないということ、今回の法案が警察中心の取締り型に転換させる危険性があるということについて従前から主張したとおりである。修正案もその危険性は同様。

(1) 触法少年に対する警察の調査権限の問題
非行事実を正確に認定することは少年司法手続の大前提・出発点であることは当然のこと。また、年少少年が質問者の暗示を受けやすい、また迎合的になりやすいという特性があることも周知のとおりである。
日弁連は、この間年少少年の事件の事例を集積をしてきた。今日は二件だけ紹介する。一件目は、沖縄県浦添市の連続放火「浦添事件」である。中学2年生、13歳の少年が警察の事情聴取を受けて自白、児童相談所に通告された後に否認に転じたケース。少年は、警察官に髪を引っ張られるなど暴行を受けて怖くなった、虚偽の自白をしたと主張。2004年9月29日那覇家裁で、「非行事実なし、触法事実なし」と判定された。
二件目は、3日前(2007年5月14日)に大阪高等裁判所の抗告審の決定があった「大阪地裁所長襲撃事件」。13歳少年が別件で児童相談所に通告され、児童自立支援施設へ送致になった。その後、延べ34日間の取調べにより、所長襲撃事件の自白に至る。この少年の自白により、成人2人と、少年2人(14歳と16歳)が逮捕された。成人については、2006年3月に、「防犯カメラの映像と被告人らの身長に大きな差がある、自白についても問題がある」として大阪地裁で無罪判決が出ている。少年については、それぞれ“有罪”の判決が出たが、このうち14歳の少年について判断が出たのが5月14日の大阪高裁の決定である。この決定の中で大阪高裁は、「少年の取調べに当たって穏当を欠く、府警の警察官が取り調べの中で机をたたいてどなった」「誘導があった」という理由で、大阪家裁の“有罪”の決定を取消した。
触法事件についても冤罪はあってはならない。触法少年の事件につき警察官に調査権限を付与することは冤罪の危険性があるものであると考える。少なくとも14歳未満の少年に対する警察の調査への弁護士の立会いと調査全過程のビデオの録画を速やかに制度化することは必要不可欠であると考える。今回の修正案で少年の情操の保護に配慮すること、弁護士の付添人選任、質問に当たっては強制にならないようにと修正された。しかし、権利は知らなければ行使はできない。14歳未満の少年がこれらの権利保護の内容を理解しているということは想定できない。少年審判規則29条の2では、「裁判所は少年に対し供述を強いられないことを分かりやすく説明する」と規定している。裁判所にすらこのような説明義務を付しているのであるから、この規定の趣旨、精神を生かして、警察官が権利保護の内容を分かりやすく説明することを告知する規定を明記すべき。
実際に触法少年を中心的に担うのは児童相談所であるが、現在児童虐待への対応から大変多忙である。児童相談所のスタッフの増員、専門性の強化、少年非行対策班の設置など人的な体制の整備を進めるとともに、一時保護所の物的設備の改善、拡充を図ることが必要である。

(2) 少年院の下限年齢
おおむね12歳とあり、依然として小学生が少年院に収容される可能性が残っている。
日弁連では、「少年非行等の概要」(警察庁)の2001年版以降により、14歳未満の少年で殺人事件という罪名が付けられた事件について分析した。この分析で分かった第一の特徴は、被害者が家族(実父、実母、弟など)である場合が大変多いということである。例えば、2002年4月の事件は、11歳の小学校6年生が自殺を企図して自宅で包丁で指を切るなどしたところ、実母にとがめられて叱責を受けたため、実母の頸部を刺すなどして殺害したというものである。二つ目の特徴は、未遂が多いということである。
この傾向は、14歳未満の子どもの社会的な関係の狭さ、そして精神的、体力的な未熟さから常識的に理解できるところである。それぞれの事件につき生育歴等それぞれの事情があり不当な一般化は慎まなければならないが、弁護士が付添人として少年とかかわっている実感は、とりわけ重大な事件を起こした少年、特に年少少年ほど、人格形成が未熟であって対人関係を築く能力を欠いていることである。家庭環境に大きな問題があるということも実感するところである。このような少年には、まず温かい擬似家庭の自立支援施設で育て直すことが何よりも必要であり、有益であると考える。日弁連では、少なくとも、小学生を少年院に収容できるような制度は妥当ではないと考える。

(3) 保護観察中の遵守事項違反を理由とする少年院送致
保護観察官・保護司が現場で大変な御苦労をしていることは十分に理解しているつもりである。しかし、遵守事項を守らないということで少年院に入れるぞということでは、信頼関係を基礎とした保護観察制度の神髄を失わせてしまう。日弁連では、保護観察制度の実効性を向上させるために、更生保護のあり方を考える有識者会議の2006年6月27日提言にあるように、保護観察官の倍増、また保護司の選任制度についても公募制の導入など制度の見直しなどを積極的に推進することで、保護観察制度、更生保護制度自体のより一層の改善が必要であると考えている。

(4) 国選付添人制度の更なる拡充
これは日弁連の責任と決意である。今回の政府案により、国選付添人制度につき少年審判についての検察官の関与を前提としない国費での弁護士付添人制度が導入され、修正案で国選付添人選任の効力が少年の釈放後についても最終審判まで維持されるようになったことについては積極的に評価する。しかし、選任の対象事件が今回の法案では一定の重大事件に限られている。2009年には被疑者国選制度が全面的に実施になり、必要的弁護事件にまで拡充される。このままでは、2009年になると、被疑者段階では国選弁護人が付くのに家庭裁判所に送致されると国選付添人が付かないという問題が生じる。日弁連は、人的・数的・質的な対応能力について一層努力する。


3. 武るり子少年犯罪被害当事者の会代表は法案賛成として以下のような意見を述べた。

(1) 少年犯罪被害当事者者の会設立
私の息子は、1996年11月、16歳のときに、同じ16歳の見知らぬ少年たちにいわれのない因縁を付けられ、何度も謝っているにもかかわらず、追い掛けられ、一方的な暴行で殺された。事件の後、理由がたった一つ、加害者が少年ということだけで、どこのだれが、なぜこんなことをしたのか、一体何があったのか、警察も家庭裁判所も一切教えなかった。法律は、殺された息子のことも遺族のことも全く考えていないということを知った。特に、14歳未満の少年事件はそれ以上である。
1997年12月に、同じ思いの遺族とともに少年犯罪被害当事者の会をつくりその代表をしている。会に参加は30家族遺族。それに対して150,160人の加害少年がおり、中には14歳未満の少年も入っている。私は息子の加害者を一生許さないと思う。しかし、この会は、ただ厳罰にしてほしいということを言っているのではない。

(2) 法案について
従前から、少年事件であっても事実認定をしっかりしてほしい、それには警察の捜査が、調査が大切だと言っているのである。そこで初めて、その事実に対してその罪に合った処分、時には14歳以上であれば刑罰も必要であると言っているのであって、それは、厳罰化ではなく、適正化である。
今回の法案である14歳未満の事件でも同じだと思う。14歳未満であっても、警察が権限を持って捜査、調査などができるようになるということはとても大切なことである。虞犯少年であっても大切なことであったが、そのことが削除されたことは残念である。私たちの会の関係では、集団暴行事件が多い。その中には14歳未満の少年も入っている。その少年たちは突然型とか、普通の子が事件を起こしたというのとは違い、事件の前から、深夜徘回、いじめ、恐喝、バイク盗など必ず前に何かをやっている。捜査、調査をしっかりすることで、加害少年も自分のやったことに向かい合うことを学ぶスタートになると思う。
加害者が、警察の調査が入ると萎縮や誘導の心配があると言われる。今まで150、160人の加害少年を見ていると、万引き等の軽犯罪は別としても、必ずと言っていいほど弁護士が付いていた。そして、加害者の保護、人権だと言うと、その権限を持っていない警察は調査がしたくても、捜査がしたくても、必要であってもできないという現状があったと思う。権限を与える必要があると思う。
14歳未満の事件が起こっても、今までは保護だけこそが良いこととされ、起こった事件にふたをして事実認定に力を入れてこなかったことが現在の少年犯罪を生んでいるのだと思う。保護をしたり、教育をすることは大切なことであるが、それを正しくするためにも、調査、捜査が正しく行われなければ始まらないと思う。
黙秘権を与えるべきだということも言われているが、本当は親や付添人が、加害少年の心を開いて、自分のやったことを正直に言いなさいと教えるべきではないか。未熟な少年だからこそ、丁寧にしっかりと正しいことを教え、正しい道に導いていくべきではないかと思う。
14歳未満の少年であっても、自立支援施設だけではなく、時には少年院送致も考えなければいけないときが来ていると思う。(質問に対し)同じ事件で年齢により少年院と児童自立支援施設にわかれるのはおかしい。
加害少年に優しい社会だけでなく、もう少し被害者にも優しい社会になってほしいと願う。その一歩として今回の法案を通していただきたい。


4. 徳地昭男元国立武蔵野学院長は少年院の下限年齢撤廃につき慎重にすべきとして以下のような意見を述べた。

(1) 児童自立支援施設の処遇
37年間、児童自立支援施設に勤務し、非行少年、非行少女と呼ばれる約1800名の子どもたちとの出会いがあった。その間15年間は、私たち夫婦の職員(若しくは職員の家族)と、子どもたちと一緒に一つの棟の中で起床から就寝まで一緒に生活することを経験し、78名の子どもを社会復帰させた。今でも夜な夜な電話があり、自分たちの悩み等を言ってくる生徒もいる。
感化院時代から児童自立支援施設に至るまで約123年間の長い期間があるわけだが、一貫して保護者の養育能力に問題がある子が対象である。広い意味でのネグレクト(養育の拒否、怠慢)、そういう児童をすべて受け入れてきた施設と考えてよい。それに対する行動化が実際非行となって現れたと考えられる。それに対する最も有効な処遇として、児童自立支援専門員・児童生活支援員と子どもたちが一つの擬似家族的な環境を用意し、その中で普通の家族が送るような生活に近い処遇を行うことを考えてきた。昔から大切にしてきたのは、家族的な雰囲気、温かな人間関係を育てるための配慮であり、それを何よりも大事にしてきた。家庭的な雰囲気は少年院にはない特色で、存在意義も大きいと言われるゆえんである。
施設の多くは自然に恵まれた環境の中に存在し、自然との触れ合いの中で子どもたちは少しずつ気持ちが素直になり、やがて落ち着きを取り戻す。学校や家庭で安らぐ場所を持てなかった子どもたちが、児童自立支援施設に入所して、職員と学習、掃除、食事、作業、レクリエーション等を通じて、児童本来の気持ちが徐々に現れてくる。職員や他の児童との交流を通じて、少しずつ大人への不信感を取り除き、心を開いていく。施設での生活体験を通して自分の居場所を体得させ、自立へ歩み出す支援を心がける施設である。

(2) 14歳未満の重大触法少年の処遇
14歳未満の児童で、重大触法事件では、行動の自由の制限が認められる国立児童自立支援施設武蔵野学院・きぬ川学院)に送致されてきた。そこで長い日々を子どもたちと接してきた経験からいえば、心身の発達が未成熟な14歳未満の児童、特に小学生は、擬似家族的な環境を与え、職員との生活を通して、対人関係や基本的な信頼感などの構築が図ることが必要である。児童福祉施設ではそれができるので、その対応で十分である。
国立武蔵野学院には、1977年から2004年まで、殺人若しくは傷害致死で入ってきた子どもが全部で9名いた。年齢的には11歳から14歳。現在14歳の大部分は審判結果で少年院送致になっているが、当時は、いろんな事情をかんがみて国立武蔵野学院の方に送致された件が一件あった。重大触法事件の多くは突発的なものが大部分である。この9件中、1件だけ途中で処遇変更したケースがあるが、残り8件は、退所してから20歳まで、家庭裁判所の方に係属したという記録が1件もない。
以上の点をかんがみると、殺人若しくは傷害致死という重大事件を犯した児童が、決して大きな問題を抱え、その処遇が困難であるとは言えない。また、児童自立支援施設の処遇の内容が重大事件の中には有効なものがあるのではないか、そのために予後の成績も良好ではないかと考えている。
経験からいうと、予後の成績が一番不良なのは、窃盗など事件は重大でなくても幼少期から非行の味を覚えそれが習癖化し、13、14歳になってから施設に入ってくる子どもたちである。
少年院の入所年齢の下限をなくそうという意見の中には、現在の児童自立支援施設では、医療や心理的対応が期待できないから、医療少年院に送致すべきだというような意見も一部あるが、重大事件の14歳未満の少年すべてが医療少年院の対象になるとは私自身は思っていない。
被害者やその家族が加害少年の行為に対し、事件の重大性と罪を、心の底から反省してもらいたいと感じるのは当然である。少年院では、被害者の視点に立った教育をやっている。児童自立支援施設はやっていないじゃないかという指摘があるが、実際はやっている。

(3) 被害者の視点に立った教育のためには
児童福祉施設というのは18歳未満の子どもたちが対象である。だからこそ、14歳未満の重大事件を犯した子どもでも、児童福祉施設である児童自立支援施設に送致されるわけである。それぞれの子どもの適性に応じて、また段階を踏まえて、被害者の視点に立った教育を入れなければいけない。犯罪を受け止めるためには、児童自立支援施設のように、子どもたちが職員を心から信用できるものをしっかりと確立した後、矯正教育の矯正ではなく、あくまでも職員と一緒に生活する共生という経験が必要である。 
このような子どもたちの育て直しが児童自立支援施設の役割であるし、大切な使命ではないかと思う。

(4) 少年院はどうか
少年院の場合は、閉鎖的で、14歳以上の少年を収容し、集団的な規律、寮単位での集団生活が基本である。重大触法少年であっても、犯罪少年と比較すれば、家庭的な支援の必要な年齢である。国立武蔵野学院の昨年度入った少年の統計でいうと、一人親家庭が70%、両親そろっているのは20%である。少年院の場合は、これは逆転しているパーセントではないかと思う。
もう一つ、発達的に心身の成長が非常に未成熟なので、規則的な集団生活になじむかどうか。それに、自我が成長・発達していないから、触法少年児童自立支援施設の処遇を優先すべきである。それ以上に、自我の発達が未成熟な小学生に対しては、少年院送致では処遇が非常に困難と思う。学童期の児童は、情操の安定上いまだ家庭的な保護を必要とする年齢である。
しかも、触法少年の場合は家庭的に虐待経験が非常に多い。国立武蔵野学院は7年前に、全国児童自立支援施設の中でどの程度の被虐待児が入っているかについてアンケートを取った。全国児童自立支援施設では60%の子どもたちが何らかの被害を被っている。国立武蔵野学院の場合では83%の入所児童が虐待を被っているという結果が出ている。私自身の経験からいうと、ネグレクトという親の養育の拒否、怠慢が100%である。児童自立支援施設というのは被虐待児童が中心の施設で、その行動化が非行という現象に現れたということを先ほど申したとおり。

この後、上記各参考人に対する質問が行なわれた。