<金口木舌>生きた証 - 琉球新報(2021年7月31日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-1365627.html

毎年、慰霊の日に糸満市にある平和の礎を訪ねている。沖縄戦で犠牲になった曾祖父母の刻銘をなぞり花を手向ける。人柄や戦前の暮らしを想像すると安らかな気持ちになる

▼平和の礎の「追加刻銘板」には今年、新たに41人の氏名が刻まれた。県内の50代男性は家系図の制作中に、平和の礎に名前のない親戚に気付いた。他の親戚の証言を基に刻銘を申請し今年実現した。生きた証しを残したいという家族の思いを感じた
▼生きた証しを刻銘という形で残せない犠牲者もいる。相模原市知的障害者施設「やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件から5年。亡くなった入所者19人のうち、慰霊碑に刻銘されたのは7人。12人は遺族が名前の公表を望まず見送られている
▼名前を巡っては事件発生直後、県警が「遺族からの強い要望」として非公表にした。障がい者の関係団体は、遺族が公表をためらう背景に障がい者や家族への差別、偏見があると指摘した
▼施設を利用していることに家族が負い目を感じている場合もあるという。公表しない理由はさまざまだろうが、差別・偏見が一因にあるなら課題は社会の側にもある
▼事件後、東京都内で開かれた追悼集会で、遺族が痛烈なメッセージを読み上げた。「この国は優生思想的な風潮が根強く、公表できない」。自分の中の差別心に気付くことが、共生社会の一歩になる。

 

【政界地獄耳】政府を信じなくなった時に、国民はどう対応するのか - 日刊スポーツ(2021年7月31日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202107310000038.html

★東京都は29日、新型コロナウイルスの入院患者が3039人になったと明らかにした。政府はコロナウイルスの急速な感染拡大を受け、大阪、埼玉、千葉、神奈川の4府県に緊急事態宣言を発令、東京、沖縄と合わせ6都府県に拡大し、期間は8月いっぱいの予定だ。この政府の対応に与党公明党代表山口那津男は人ごとのように「ちぐはぐ感がある」「現場とずれが生じており、国民の不安や不満が表れている」と言い出した。誰も責任を取らず評論するだけの政府に期待してはだめだ。

★東京都の感染者が2800人を超えた27日、首相・菅義偉東京五輪を中止する選択肢はないかと問われ「人流は減少している。そうした心配はない」と否定したばかり。政府幹部は全国のコロナ感染者1万人超えは想定していたこととは言うものの、ここに至るプロセスで政府は五輪の開催を堅持しながらワクチン接種に頼っていたにすぎず、「言うことを聞いてくれない国民が感染を拡大させた」とでも言いたげだ。結局、専門家会議が踏み込めば批判し、都合のいいところだけ専門家会議の答申を待つという演出を国民はぼんやりと眺めているしかないのだろうか。

★今こそ政治家の劣化を問うべきではないか。年配のベテランが牛耳れば経験豊かな政治ができるという幻想も捨てねばならない。国会議員や政治家と呼ぶべき人材が与野党の中に圧倒的に足りない。政治のプロとしての経験、予見性や想像力、永田町と霞が関の役割の差別化ができず、理屈は立派だが融通が利かず、都合のいい側近や都合のいいデータだけでものを進めようとする。見たいものだけ、見えるものだけで判断するのは五輪開催の是非、コロナ禍と多くの人災を経験していれば国民は嫌でも感じる。政府を信じなくなった時、国民はどう対応するのか、間もなくわかる時が来る。(K)※敬称略