新型コロナ米兵感染 地位協定の問題浮き彫り - 琉球新報(2020年4月1日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1099592.html
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米軍は新型コロナウイルスの感染防止のためどのような対策を講じているのか。兵士は無防備のまま国内外を行き来しているのではないか。そうした疑念が拭えない。
米空軍嘉手納基地第18航空団の空軍兵2人が欧州への渡航から戻った後、新型コロナウイルスに感染していることが判明した。米軍がフェイスブックで公表した。
外務省沖縄事務所と沖縄防衛局の県への報告によると、2例ともPCR検査を受け陽性が確定した。このうち1人の家族も感染したことが確認されている。
1例目の空軍兵は海外から戻った後、15日間の行動制限下に置かれていた。同基地の医療チームは接触者を特定し、濃厚接触した家族の行動も制限したとしている。2例目は海外から戻り、行動制限下に置かれているという。
2人はどこで感染したのか。行動履歴はどうなっているのか。居住しているのは基地内なのか、それとも基地の外なのか。県民は確認、検証するすべがない。それだけに米軍には正確で詳細な情報を発信することが求められる。このままでは臆測だけが独り歩きしかねない。
実際、米軍基地内での感染状況については、さまざまな憶測が飛び交ってきた。1月末には「基地内で感染者が出た」などとうわさが広まった。米軍がそれを否定する声明を出したこともあった。
多くの情報が開示されず、基地はブラックボックスと化している。
政府は中国、韓国、欧州の一部などに入国拒否措置を発動した。さらに米国や英国、中国、韓国の全土からの外国人について入国を拒否する方針を固めている。米軍もこの措置に従うべきだが、「抜け穴」になる恐れがある。
米国では30日現在で感染による死者が3千人、感染者数も16万人を超えたという。米政権が感染拡大の防止に失敗したのは明らかだ。このような状況にあって、米国や海外との間を自由に行き来されたのでは、県民の安全が脅かされる。
県は米軍や外務省沖縄事務所、沖縄防衛局に対し(1)行動履歴や濃厚接触者の状況、県民との接触の有無など情報の公開(2)米軍人・軍属等に対して密閉空間、密集場所、密接場面など集団感染の起こりやすい場所へ行くことを避ける(3)日本人従業員に対する感染防止に万全を期す―ことを申し入れた。
日米地位協定に基づき、米軍は日本の検疫を受けず、米軍の検疫手続きが適用される。大きな問題だ。
過去には海外から県内の基地へ戻る途中に米軍機が民間空港に緊急着陸し、搭乗していた米兵が検疫を受けずに外出していたことがあった。
新型コロナの感染拡大で地位協定がもたらす危険性が改めて浮き彫りになった。県民の命や健康を守るためにも早急な改定が不可欠だ。

 

普天間問題提言 従来計画転換する機に - 北海道新聞(2020年4月1日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/408091
http://archive.today/2020.04.01-000615/https://www.hokkaido-np.co.jp/article/408091

沖縄県が昨年設置した安全保障の専門家らによる「米軍基地問題に関する万国津梁(しんりょう)会議」が普天間飛行場の危険性除去に向け、玉城デニー知事に提言書を出した。
提言では、名護市辺野古への移設を前提とせず、沖縄の米海兵隊をアジア太平洋各地に分散することで米軍基地の整理縮小を加速させるよう、日米両政府に求めた。
辺野古沿岸部では軟弱地盤が見つかり、改良工事のために米軍が運用できるまでに少なくとも12年はかかると政府は説明している。
普天間返還をこれ以上先送りすることは許されず、当然の提言だ。
知事は提言で具体的に示された安全保障上の分析も踏まえ、安倍晋三政権に辺野古移設の見直しを改めて求めるという。
政府は真摯(しんし)に受け止め、辺野古移設に代わる解決策について、米政府や沖縄県と早急に協議を始めるべきだ。
会議は元防衛官僚で内閣官房副長官補を務めた柳沢協二氏を委員長に、国内外の安保専門家ら7人で構成する。
提言では辺野古移設について、1兆円近くに膨らむ工費も挙げて「技術的、財政的にも完成が困難」と結論づけた。
移設の本来の目的は普天間の運用停止にあり「大義は失われている」との指摘はもっともだ。
政府が耳を傾けるべきは、安全保障環境の変化を分析し、軍事的合理性の観点から沖縄への基地集中を見直す必要性を記した点だ。
その大きな要因には、中国がミサイル能力を向上させていることがある。北朝鮮による核・ミサイル開発も忘れてはならない。
基地の集中は米軍が直面する危険をいっそう高めかねず、提言では恒久的な基地よりも、西太平洋に分散化し、有事などの際に柔軟に連携することが重視されている実態にも触れた。
ただ見過ごせない点もある。
米軍基地の移転や訓練の分散先に日本国内も含めていることだ。
道内では既に在沖縄米海兵隊の輸送機オスプレイが参加した訓練などが実施されている。
「沖縄の負担軽減」を名目に、その実効性が伴わないまま、米軍の活動範囲だけが拡大している懸念が拭えない。
移転・分散には慎重さが求められよう。
辺野古移設を巡っては、国と県との間で裁判闘争が続いている。このままでは出口は見えない。
今回の提言を対立を終えるきっかけにしてもらいたい。

 

<金口木舌>名前も顔も知らないあなたへ - 琉球新報(2020年4月1日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-1099593.html
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自分は「戦時の大統領だ」とトランプ大統領が発言した。イタリアのある市長は、卒業パーティーの場に「火炎放射器を持った国家治安警察隊を送る」と警告し、テレビのワイドショーやネットで話題となった
▼勇ましい人たちだ、と悠長に構えていられる段階はとっくに過ぎた。各国が新型コロナウイルスにのたうっている。米財務長官は感染拡大との闘いを「戦争」と表現した。米政府は戦時並みの財政出動による経済対策を打つ
▼日本はどうか。「オーバーシュート」の事態が迫り「ロックダウン」が現実のものとなりつつある。感染防止のため「三つの密」を避けよう。聞き慣れぬ言葉が連日耳に飛び込んでくる
▼確かに平時ではないのだろう。しかし、戦時のような過ちを見過ごすことはできない。戦時下、人々の心に渦巻く不安、恐怖、疑念、不信が惨劇を生んだ。75年前のきょう、米軍が沖縄本島に上陸した
▼県内在住の10代の女性が感染したことに絡んで県教育委員会に脅迫めいた電話が数件あった。恐怖や疑念から発した行為なのだろう。戦時のような人心のすさみを見る
▼名前も顔も知らないあなたに伝えたい。今はつらい思いをしているだろう。でも、元気を取り戻してほしい。暗い話ばかりだけど、きょうから新年度。失意の中にいるあなたを支えてくれる強くて優しい人はきっといる。75年前もそうだった。

 

中学の教科書 深い学び保障できるか - 北海道新聞(20200年3月31日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/407546
http://archive.today/2020.03.31-002806/https://www.hokkaido-np.co.jp/article/407546

文部科学省は、2021年度から中学校で使われる教科書の検定結果を公表した。
「主体的・対話的で深い学び」を掲げる新学習指導要領の全面実施で、教科書は大きく変わった。
公民では、社会保障の授業の最初に中学3年までの医療費や教育費を調べ、課題や学ぶ意義を考えさせるなど、各教科で知識偏重からの脱却を打ち出している。
国際競争にさらされる経済界の意を受けた政府の方針で、英語教育の刷新やプログラミング学習など、随所で実用性が強められた。
学習内容は質量とも増えた。教科書の消化に追われ、生徒が置き去りにならないか、懸念もある。
学校の働き方改革は緒に就いたばかりだ。「深い学び」をどう実際に保障していくか、文科省自治体の取り組みが問われる。
まず目立つのは量だ。道徳を除く9教科の総ページ数は「ゆとり教育」の頃の約1・5倍もある。
質も変化した。たとえば英語は英語で授業を行い、4技能の「話す」なら即興的なやりとりもある。生徒の実力差に目配りしつつ指導するには、教員の英語力向上とともに相当な工夫が必要だ。
既に始まっている現場の試みを共有し発展させるため、教育委員会の積極的な関与が求められる。
気になるのは、検定を通して教科書に現政権の主張を反映させる姿勢が一層鮮明になったことだ。
集団的自衛権の行使容認は全社が取り上げ、行使の3要件の明示を求める検定意見が相次いだ。
3要件をもって行使は「限定的」とする政府見解に沿うもので、違憲性に関する議論を生徒が理解するには不十分と言える。
憲法改正に関する記述も増え、論点を提示するなど踏み込んだものもあった。激しい論争がある問題であり、実態以上に改憲論が加速している印象を与えないか。
領土問題を詳述させ、北方領土を巡っては「2島返還」の検討にふれた教科書に修正を求めた。「四島の帰属を確認して平和条約を締結する」という政府の基本方針を踏まえたものだ。
教室でどこまで補うことができるか、教員の手腕が問われる。
思考の手順から表現のコツまで盛り込んだ教科書は、教える内容だけでなく教え方まで指定した新指導要領の反映でもあろう。
若手が増えた現場の助けにはなろうが、自由な学びの妨げになるなら本末転倒である。教員の創意を支え、教室に余裕を生み出す働き方改革も不可欠だ。

 

辺野古問題 無理に無理を重ねる愚 - 朝日新聞(2020年3月31日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14423185.html
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ものごとの本質に目を向けず、細かな法律論を繰り広げた末に、一般社会の常識からかけ離れた結論を導きだした。そう言わざるを得ない判決だ。
沖縄・辺野古の埋め立てをめぐる県と国の訴訟で、最高裁は26日、県側の主張を退けた。
海底の軟弱地盤の発覚などを理由に、県が埋め立ての承認を撤回したのに対し、防衛当局がこれを取り消すよう国土交通相に請求。期待どおりの裁決をもらって工事を強行したため、県が裁判に訴えていた。
同じ内閣を構成する「身内」が裁決して便宜を図る異様さ。そしてその際に使ったのが、本来、行政機関から不当な処分を受けた国民を救済するために設けられている行政不服審査制度だというおかしさ――。
だが最高裁は、埋め立て法の条文に照らすと国の機関も一般私人(国民)も立場に違いはないと判断して、国側の脱法的な行為を追認してしまった。
木を見て森を見ないとはこのことだ。結果として沖縄の声を封殺した判決を、玉城デニー知事が「地方自治の理念に反し、将来の国と地方公共団体のあり方に禍根を残す」と厳しく批判したのはもっともである。
ただし今回の裁判で争われたのは手続きの当否で、埋め立て行為そのものに、司法がゴーサインを出したわけではない。
政府は軟弱地盤対策のための設計変更を近く申請する方針だが、県は認めない構えだ。辺野古ノーの民意が繰り返し示されているのに加え、3年以上かけて7万本余の杭を海底に打ち込むという工事が環境に与える影響は甚大で、到底受け入れられるものではないからだ。
にもかかわらず政府は、負荷を小さく見せることに腐心し、「環境影響評価(アセスメント)をやり直す必要はない」と言ってきた。最高裁判決の1週間前、辺野古の住民らが別途起こした裁判で、那覇地裁は請求は退けたものの、「埋め立てに際しては、改めて環境影響評価が実施されるべきことが考慮されなければならない」と述べている。当たり前の話だ。
社説で繰り返し指摘してきたように、米軍普天間飛行場辺野古への移設は完全に行きづまっている。政府は辺野古固執するのをやめ、普天間の危険性の早期除去にこそ力を尽くすことが求められる。
最高裁判決と同じ26日、沖縄県が設けた有識者会議は米軍の戦略構想も踏まえ、海兵隊を本土などに分散配置することが安全保障上も合理的と提言した。
政府試算でも1兆円近い巨費を投じ、軟弱地盤を「改良」して基地を造ることが理にかなうか。答えは誰の目にも明白だ。

 

沖縄県敗訴 構図のゆがみ地方が正せ - 信濃毎日新聞(2020年3月30日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200330/KT200327ETI090011000.php
http://archive.today/2020.03.31-003253/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200330/KT200327ETI090011000.php

納得がいかない。
米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、沖縄県が「埋め立て承認撤回」の効力回復を求めた訴訟の上告審判決が出た。最高裁は上告を棄却、県が敗訴した。
県民は繰り返し基地建設に反対の民意を示している。辺野古の予定地では軟弱地盤が見つかり、安全性が疑われるほか、工期や工費の膨張が避けられなくなった。
法解釈をねじ曲げてまで計画を強行する政府を、国会も司法も止められずにいる。
県は一昨年8月、辺野古沿岸の埋め立て承認を撤回した。防衛省行政不服審査法を使って不服を申し立てると、国土交通相は昨年4月、県の決定を取り消した。
審査法は、国の機関が一般私人では得られない「固有の資格」の立場で受けた処分には、不服申し立てができないと規定する。そもそも防衛省に申し立てができるのか、が争点になった。
最高裁は、私人でも埋め立て工事の実施主体になれるとし、要件やルールが異ならない場合は、国の機関であっても申し立てができると結論付けた。
審査法は行政の不当な権限の行使から国民を守るためにある。国の機関が私人に成り済まし、不服審査の審判員も兼ねる茶番を最高裁が認めたも同然だ。
ただ、辺野古の埋め立て自体が承認されたわけではない。
軟弱地盤が確認されたことで、辺野古基地建設の工期は当初の5年から9年3カ月に延びる。7万本以上のくいを海底に打ち込む必要から、工費も3倍近い9300億円にはね上がる。
政府は70メートルより深い地盤は安定していると説明していたのに、それより深い海底地盤も軟弱な可能性が指摘されている。
政府は「信頼に値しない」として取り合わない。有識者会議を通じて理論武装し、4月中にも軟弱地盤改良に向けた設計変更を沖縄県に申請する構えでいる。玉城デニー知事は認めない方針で、また法廷闘争となる公算が大きい。
安倍晋三政権は沖縄の民意を顧みず、県条例もないがしろにして計画を推し進める。沖縄県にとどまらず、対等な国と地方との関係を根底から揺さぶりかねない深刻な問題をはらむ。
与党多数の国会や司法が政府の手法を是認するのなら、地方自治体がゆがみを正さなくてはならない。全国知事会をはじめ地方6団体は安倍政権に工事の中止を強く求め、まずは対話の席に着くよう迫ってほしい。