増える不登校 「居心地悪さ」の背景は - 東京新聞(2019年10月18日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019101802000163.html
https://megalodon.jp/2019-1018-0823-27/https://www.tokyo-np.co.jp:443/article/column/editorial/CK2019101802000163.html

不登校が増え続けている。暴力や深刻ないじめも増加しており、学校の「居心地悪さ」の背景を解きほぐしていく必要がある。学校以外の選択肢についても、幅を広げる努力を続けたい。
昨年度、不登校になった小中学生は十六万人以上に上る。六年連続で増えており、中学校では二十七人に一人、つまりは一クラスに一人以上が学校に行っていないことになる。
教室で子どもたちが感じる圧力が増しているという側面がありはしないか。小学校では暴力行為が五年間で三倍以上に増えている。これを子どものストレスの一つの表れと受け止めているベテラン教員もいる。英語など、学ぶ内容は厚みを増し、宿題も増えているという。
本来、子どもの揺らぎを包み込む役割が期待される教員の側も多忙で余裕がない。子どもの学ぶ内容が増えているというのは、教員の教える内容が増えるということの裏返しでもある。
教員間のいじめ問題も明らかとなり、教員自身のストレスも心配になる。今後進められる教員の働き方改革では、子どもに向き合うゆとりをまず確保するという大前提のもとで業務や役割分担を整理していく必要がある。
子どもたちの悩みを受け止める役割のスクールカウンセラーは非常勤で複数の学校を掛け持ちしている場合もある。多忙な教員と、時間が限られたカウンセラーでは十分な情報共有が難しい場合もあるようだ。人数を増やすだけでなく、いかに実効性を高めていくかを検討するべきだろう。
不登校の増加は、二〇一六年に子どもたちの休養の必要性を認めた教育機会確保法が成立したことで、学校以外の選択肢を選びやすくなったという側面もある。昨年末の文科省の調査によると、不登校の受け皿となる教育支援センターを設置する自治体は増加傾向にあり六割に上る。
世田谷区は今年、三カ所目となるセンターの運営を、フリースクールを営むNPO法人東京シューレに委託した。フリースクールは教育内容に柔軟性がある半面、公的支援がなく、安くはない授業料が親にとっては一つの壁となっていた。経済的負担を増大させない公立施設で、民間の蓄積を生かす試みとして注目したい。
学校と別の受け皿があることについて、子どもや保護者にきちんと周知することも自治体には求められる。

 

[川村沖縄大使発言] 地位協定が捜査の壁だ - 沖縄タイムス(2019年10月18日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/486132
http://web.archive.org/web/20191018004449/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/486132

米軍普天間飛行場所属MV22オスプレイが2016年12月、名護市安部の海岸に墜落し大破した事故を巡り、外務省沖縄事務所の川村裕沖縄大使が「日米地位協定が捜査の支障になったとは認識していない」と発言した。
事故については県議会が、日本側が十分な捜査ができなかったとして日米地位協定の抜本的改定を求める意見書を全会一致で可決。議員らが意見書を携えて訪れた要請の場での発言である。事実誤認も甚だしく問題だ。
捜査を巡っては中城海上保安部が複数回、当時の乗員への聴取を米軍に要請したが、米軍は応じなかった。証拠物の機体も米軍が回収したため触れられず、捜査は不十分な形で終結した。
その結果、海保は、搭乗していた機長を氏名不詳のまま、航空危険行為処罰法違反容疑で那覇地検書類送検した。事故は不起訴となる見通しで、顛末(てんまつ)を見れば地位協定が捜査の障害になったことは明らかだ。
これに先立ち日本維新の会県総支部下地幹郎代表)が川村大使と沖縄防衛局の田中利則局長に対して実施した、事故捜査に関する聞き取りに対しても川村大使は同様の認識を伝えていた。
聞き取りでは沖縄事務所と沖縄防衛局が、米側に海保の捜査への協力要請をしていなかったことも分かった。
米軍基地が集中する沖縄で、外務省や防衛省出先機関として県内に事務所を構える両機関の対応としてふさわしくない。あまりに無責任と言わざるを得ない。

■    ■

今国会で日米地位協定の見直しについて再三問われた安倍晋三首相は、今年7月の米軍機事故対応指針の改定の成果を強調し、従来通りの運用改善にとどめる方針を改めて示した。
指針は04年に発生した沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故で、米側が地位協定を盾に、日本側の現場周辺立ち入りを認めなかった問題を機に策定されたもの。その後の改定では「日本側の内周規制線への迅速かつ早期の立ち入りが可能となる」とする文言が盛り込まれたが、事故現場への立ち入りに米側の同意が必要という根本的な課題は依然残っている。
沖縄事務所などが「地位協定は支障でない」として米側に捜査協力を求めない姿勢のままでは、指針改定が形骸化する恐れもある。
川村大使は認識を改め、発言を撤回すべきだ。

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墜落事故の捜査はなぜ必要か。原因を追及して必要な措置を講じ、ふたたび同じ事故を起こさないようにするためにほかならない。
米側は今回の事故原因を「人為的ミス」と結論づけている。しかし日本側では事故から3年がたとうとする現在も米側が対策を講じたか否かすら分かっていない。沖縄事務所など国側は「米側に安全の確保を求めていく」と通りいっぺんの回答をするが、これまでに具体策が提示されたことはほとんどない。
繰り返される米軍機事故の背景に日米地位協定の不平等を認めない国の姿勢がある。

 

沖縄大使の発言 職責放棄にしか映らない - 琉球新報(2019年10月18日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1010078.html
https://megalodon.jp/2019-1018-0932-44/https://ryukyushimpo.jp:443/editorial/entry-1010078.html

日本国内で起きた事故にもかかわらず、日本の法律よりも米国法が優先される。これを日米地位協定によるものと言わずして何と言おう。
米軍普天間飛行場所属の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが2016年に名護市安部の沿岸部に墜落した事故で、米側が米国内のプライバシー保護法を理由に操縦士らの氏名提供を拒んでいた。外務省の川村裕沖縄担当大使が県議会の要請団に明らかにした。
川村大使は「(日米)地位協定が捜査の障害になったとは認識していない」と述べた。外務省の公式見解だという。自己矛盾していることに大使も外務省も気付かないのか。それとも強弁することで矛盾
を覆い隠そうとしているのか。
オスプレイが墜落したのは16年12月13日夜。米軍はすぐに現場に規制線を張り、日本側を立ち入らせなかった。米軍が協力を拒んだため、海上保安庁は現場検証や操縦士の事情聴取など通常の捜査はできず、容疑者を特定することさえできなかった。
米軍の行動は地位協定で日本の国内法適用が免除される。米軍が公務中に起こした事故は、日米地位協定で米側が1次裁判権を有することが定められている。それが日本側の捜査を実質的に妨げている。05年に日米が合意した運用改善で航空機事故では日米双方で事故現場を管理するとされたが、現実には日本の捜査機関は現場に入ることすら米側の許可がいる。
この事故では米側が「困難な気象条件下で空中給油訓練を行った際の操縦士のミス」と結論づけた。それなのにミスをした操縦士が誰なのか分からない。日本政府は米側の報告書を追認するだけだ。海保は最終的に今月、被疑者不詳で書類送検した。
県議会は、事故の捜査が十分にできなかったのは「不平等な地位協定に起因する」として地位協定の抜本的な改定を求める意見書を全会一致で可決した。与野党が一致した要求で、県民の総意と言ってもよい。
沖縄大使の主な任務は在沖米軍に関わる事項について県民の意見を聞いて外務省本省に伝えるとともに、必要に応じて米軍等と連絡・調整を行うことだ。地位協定は捜査の障害になっていないと県議会の要求をはねつける姿勢は、職責を放棄しているとしか思えない。県議団が反発して撤回を求めたのも当然だ。
日米地位協定は米側の都合を優先させ、日本側にとって不平等であることは、イタリアやドイツが米国と結んでいる地位協定と比較しても明らかだ。米軍からプライバシー保護で情報提供できないと言われ、唯々諾々と従ったこと自体問題だ。沖縄大使は地位協定の改定どころか、その不平等性を強化する役割を担っていると言わざるを得ない。
米軍の特権が捜査の壁になっている現実から目を背けることは許されない。

 

[大弦小弦]知恵絞るべきは、沖縄だけ? - 沖縄タイムス(2019年10月18日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/486130
http://web.archive.org/web/20191018003844/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/486130

かつて沖縄は、何か問題があるたび、米国政府と直接交渉した。47年前に日本へ復帰するまで、それが当たり前だった

▼圧倒的な力で統治する米軍。大衆の民意を背に向き合った。当然、幾度もはね返される。もがき苦しみながら、権利を勝ち取った。基地内の土地所有権しかり、琉球政府主席(今の知事)を住民の投票で選ぶことしかり。過ぎ去りし追憶を胸に、今日の時代を生きていると言っていい

▼復帰後も、その向き合い方は相似する。保革を問わず歴代の知事は訪米し、沖縄の実情を訴えてきた。一義的には、日本政府へ伝え、二国間の外交交渉に委ねるのが筋。しかし、そこで解決がままならないなら、自ら動くしかない

▼「沖縄の基地問題は、日本の国内問題だ」。ワシントンで沖縄の知事は、米当局者から決まってこう返答される。面談する相手は、過去には大臣級で厚遇されたときもあるが、最近は局長級ですら難しい

▼訪米の成果が乏しいとの批判もしばしば。それでもって知事はこう問われる。「次なる沖縄の戦略は?」

▼ちょっと待ってほしい。知恵を絞るべきは、沖縄だけなのか。判で押したような米当局者の返答は当事者意識に欠けるが、一つ的を射ている。問題のありかは、沖縄に負担を押し付けるだけの日本政府と、それを黙認する本土の人々なのだと。(西江昭吾)

 

<金口木舌>権力は国民に由来する - 琉球新報(2019年10月18日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-1010072.html
https://megalodon.jp/2019-1018-0934-07/https://ryukyushimpo.jp:443/column/entry-1010072.html

「全ての権力は国民に由来する」。韓国で大ヒットした映画「弁護人」で、主人公の弁護士が法廷で叫ぶ場面がある。独裁政権によって逮捕され、拷問による自白を基に起訴された学生を救うため、弁護士は国民主権をうたう大韓民国憲法をよりどころに闘う

▼映画の題材は1981年にあった実際の事件だ。主人公のモデルは故・盧武鉉ノムヒョン)元大統領。現在の文在寅(ムンヂェイン)大統領は当時、盧氏とともに路弁(アスファルト弁護士=民衆に寄り添う社会派弁護士)として活動していた
▼文氏が法相に任命した曺国(チョグク)氏が14日、辞任した。韓国政府は辞任直前に提出された検察改革案を閣議決定した
▼改革案はあらゆる刑事事件の捜査権を独占する検察から権限の一部を警察に移し、権力分散を図る内容だという。韓国の検察は朴槿恵(パククネ)前政権時に元法務次官の性接待疑惑をもみ消したことが発覚するなど、政権との癒着も指摘されてきた
▼9月には文在寅政権の検察改革を支持する市民らが、ソウルで80万人(主催者発表)の大規模集会を開いている。前政権の退陣を求めて続いた「ろうそく集会」以来の規模だ
日本国憲法国民主権を定めている。安保法、原発の再稼働、辺野古新基地建設。近年に限っても国民、県民はさまざまな問題で声を上げてきた。「全ての権力は国民に由来する」と胸を張って言える状況にあるのだろうか。

 

EU離脱新提案 「合意なき」は禁じ手だ - 東京新聞(2019年10月17日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019101702000141.html
https://megalodon.jp/2019-1017-0836-36/https://www.tokyo-np.co.jp:443/article/column/editorial/CK2019101702000141.html

欧州連合(EU)離脱で英国が新提案を示した。EUとの協議を続けるが、ジョンソン英首相は、EUや英議会の「合意なき」離脱も辞さない構えだ。暴走である。頭を冷やして考え直すべきだ。
メイ前首相の離脱案は、英国全体がEUの関税同盟に残留する可能性を残していた。
新提案では、英領北アイルランドのみをEU単一市場に残す。北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間には検問所を設けず、税関検査を電子化などで簡素にして対応する。北アイルランドの帰属を巡る紛争再燃を防ぎながら、EUからの離脱を進める狙いだ。
しかし、北アイルランドは数年後、最終的にEUか英国のどちらのルールに従うかを選ばなければならず、紛争の火種は消えない。税関電子化の具体策もはっきりしていない。十七日からのEU首脳会議での承認を目指し、調整を続けている。
英議会の承認も必要だが、問題なのは、議会の承認が得られなくても、当初の期限である今月末までに離脱を強行すると、ジョンソン氏が明言していることだ。
英議会は、EUとの協定案を十九日までに承認しなかった場合、離脱期限を来年一月末まで延期するよう、政府に義務付ける法を成立させている。ジョンソン氏の主張は法に背く暴挙だ。
合意なき離脱は、EUからの食料品、医薬品の供給を滞らせ、生活を直撃する。
日産自動車は、合意なき離脱の場合、英国での操業が難しくなると表明している。英EU間で高い関税が課されるようになり、部品の調達に支障が出るためだ。混乱は世界に広がる。ジョンソン氏は対処は可能と豪語するが、具体策は示していない。
そもそも、EU離脱で本当にいいのだろうか。
ラグビーのワールドカップ(W杯)で日本と対戦したスコットランド。スコッチウイスキーは世界に輸出され、EU残留支持派が多数を占める。英国からの独立の是非を問う五年前の住民投票では、英国残留支持が独立支持をわずかに上回ったが、EU離脱期限が迫る中、再度の住民投票を求める声も高まっている。
今の離脱案への承認が得られなければ、まず、離脱期限の延長をEUに申請し、合意なき離脱を回避すべきだ。さらなる延長も必要かもしれない。衆知を集め、じっくりと最善の道を探ってほしい。

 

(余録) 教師間の常軌を逸した集団いじめ事件には… - 毎日新聞(2019年10月17日)

https://mainichi.jp/articles/20191017/ddm/001/070/124000c
http://web.archive.org/save/https://mainichi.jp/articles/20191017/ddm/001/070/124000c

教師間の常軌を逸した集団いじめ事件には誰もが絶句するが、同じ神戸市立の小中学校30校で、運動会の組み体操の練習中、8月末から1カ月余りで計51人がけがをしていたニュースにも驚く。うち6人は骨折だった。
昨年度までの3年間で骨折事故123件というから深刻だ。市長の中止要請にもかかわらず、市教育委員会が「すでに練習している」と応じず、自主的中止は一部にとどまり、市長が「やめる勇気を」と呼びかけたというので、また驚く。
教育関係者によると、保護者が見栄えのする「出し物」を喜び、評価する風潮が高じて、教師側も期待に応えようと無理をする傾向に拍車がかかっているらしい。だとしても、それに待ったをかけない市教委とは何のためにあるのか。
来年から体育の日は、スポーツの日に改まる。体育とスポーツは別ものだ。体育は学校や軍隊での身体教育の略。一方、スポーツの語源、ラテン語のデポルターレは、労働を離れた遊びや余暇を意味した。釣りも囲碁もスポーツである。
体育は軍国教育の名残で強制の文化が根強い。各競技で体罰問題が噴出し、東京五輪パラリンピックを機に「楽しみ、互いを尊重する」本来のスポーツ文化に立ち返る趣旨が名称変更には込められている。
オランダの歴史家ホイジンガは「人間活動の本質は遊びであり、文化は遊びとして成立し、発展した」と論証した。近代社会が功利主義に覆われ、スポーツが遊びの領域から去っていく現象を文明の衰退と警告している。

 

大川小の教訓 力を結集し子の命守る - 朝日新聞(2019年10月17日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14220481.html
https://megalodon.jp/2019-1017-0628-31/https://www.asahi.com:443/articles/DA3S14220481.html

東日本大震災津波で亡くなった宮城県石巻市立大川小の児童たちの遺族が、市側の責任を追及していた裁判で、原告側の勝訴が確定した。あらかじめ適切な防災体制を築いていなかった落ち度を認めた仙台高裁判決を、最高裁が支持した。
憲法違反などの論点は見当たらないとして市側の上告を退けており、「学校の安全」をめぐって最高裁独自の見解が示されたわけではない。だが、判決確定のもつ意味は重い。
市の津波ハザードマップでは大川小は浸水想定区域外にあった。それでも校長らには、マップを批判的に検討して津波の襲来を予測し、対応策を整えておく義務があったと高裁は結論づけた。近くを流れる北上川の洪水を想定した別のマップでは、大川小も浸水地域にあることなどが理由とされた。
高裁判決には後づけと思えるような指摘を含め、論理運びに強引な面がないわけではない。教育関係者から「現場に過度の負担を強いている」と疑問の声があがったのも理解できる。
だが判決は、児童の生命・安全を守ることが市や学校に課せられた重大な使命だという立場にたち、▽教員が数年で異動するなかで対応策の不備が放置された▽実情を把握すべき市教委も指導を怠った――などの問題点を重ねて指摘している。
首長部局、教委、学校が有機的な連携を欠いた結果が、3・11の惨事を招いた。当時の特定の人物や担当者ではなく、まさに組織総体の過失責任が問われたと見るべきだ。
震災の経験も踏まえて、近年子どもの安全を守るための取り組みが進んでいる。教員養成課程をもつ大学では、今年度から「学校安全への対応」が必修になった。不審者への対応などとあわせ、自然災害への備えも履修する。岩手大学は学校安全学の講座を創設した。
もとより学校や教員に頼り、すべてをゆだねる発想では限界がある。
例えば登下校時の見守りだ。中央教育審議会は今年1月、そうした校外での安全確保の役目は、保護者や地域住民、自治体が担うべきだとする考えを示した。教員の負担軽減策を検討する文脈で出てきたものだが、もっともな提案だ。
大切なのは、いつ起きるとも知れない災害への備えにせよ、日々の見守りにせよ、計画や実施体制をつくって良しとせず、学校を核に関係者が手を携え、環境の変化や最新の知見に基づいて、適切に見直していくことだ。その営みなしに、与えられた指示や役割に従うだけでは命を守ることはできない。大川小の悲劇が教えるところだ。

 

台風19号 避難所の課題、克服を - 朝日新聞(2019年10月17日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14220480.html
https://megalodon.jp/2019-1017-0604-16/https://www.asahi.com:443/articles/DA3S14220480.html

記録的な雨をもたらした台風19号の被災地では、16日朝時点で13都県で約4千人が避難生活を送っている。冷え込みが強まるなか、仕切りのない体育館の床の上での生活は、体調不良につながる。一日も早く改善すべきだ。段ボールベッドや毛布、温かい食事の提供など、国や自治体は民間団体の手も借り、支援を加速させてほしい。
被災者の支援と同時に、考えておくべきことは多い。その一つが、避難所の一時的な受け入れ能力の問題だ。
今回の災害では、各地の避難所に住民が殺到し、入り切れない人が続出した。約千カ所に8万人以上が避難した東京都内や、台風15号で被災した千葉、東北でも、車中泊や、遠方の避難場所への移動を強いられた住民がいた。同じ問題は7月の九州南部での豪雨や、昨年の西日本豪雨でも起きた。
大雨の中を移動するのは危険なことでもある。水害時の避難者数の想定に甘さがないか、各自治体は早急に検証し、受け入れ態勢を見直す必要がある。
多摩川左岸にあり、4千人近くが避難した東京都狛江市では、当初、1カ所だった避難所を最終的に11まで増やした。今後は商業施設の活用なども検討したいという。自治体によっては、管内の大学と協定を結び、非常時の開放を依頼している所もある。ショッピングモールや映画館など、民間の側も積極的に協力してもらいたい。
こうした背景には、最近、自治体が大規模に避難勧告や避難指示を出す傾向がみられる問題がある。もちろん河川の決壊などで、全域に浸水リスクがある場合は仕方ないが、情報は地域の特性を考慮し、きめ細かく出す方が、受け手には親切だ。自治体も心がけてほしい。
住民の方も、平時から避難所以外の移動先を考えておこう。危険性は場所によって異なり、避難情報が出ても自宅にいる方が安全な場合もある。浸水する可能性や、土砂災害の危険があるか。自宅の2階以上に移る垂直避難のほか、事前に近所の上層階の家や、別の町の親戚宅に行く方法もある。様々な避難の形を頭に入れておきたい。
残念だったのは、避難所の役割を自治体職員が理解していない事態が起きたことだ。
東京都台東区が、自主避難所となっていた区立小学校を訪れたホームレスの男性を、「住所がない」との理由で受け入れを断っていた。批判を受けて区は謝罪したが、命にかかわりかねない対応だ。外国人を含め、避難所は誰にでも開かれた場であることを忘れないでほしい。
大変な時こそ、誰もが助け合う姿勢を心がけたい。